テラーノベル
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雨音が、静かに屋根を叩いていた。暗い山奥の隠れ家で、らんは目を閉じたまま布団を握りしめていた。
――夢を見ていた。
あの頃の記憶。
誰にも助けを呼べなかった、痛みと、恐怖。
「役立たず」
「いらない子」
「誰にも愛されない」
耳の奥に焼き付いた言葉が、何度も何度もこだました。
――そして、誰も手を伸ばしてくれなかった。
「……っ!」
はっと息を吸い込み、らんはベッドから跳ね起きた。
汗で髪が濡れて、肩が小刻みに震えていた。
その時、ドアがそっと開いた。
いるまが、ランプを片手に入ってくる。
🎼📢「……また悪夢か」
🎼🌸「……見てないよ」
🎼📢「嘘つけ。顔に出てんだよ」
そのまま黙って、隣に腰を下ろす。
らんの手を取って、指先を絡めた。
🎼📢「……誰にも言えなかったんだろ」
🎼🌸「……うん。言ったって、信じてもらえなかったから」
🎼📢「俺は信じる。……全部、聞かせろとは言わねぇ。けど、お前が“いま”怖がってることは、俺にだけは言え」
らんは少し俯き、かすかに声を絞り出した。
🎼🌸「……触られるのが、まだ怖い時ある。
優しくされても、体が勝手にこわばって、拒否しそうになる」
いるまの目が、苦しげに細められる。
🎼📢「……それでも、俺のこと……嫌じゃないか?」
🎼🌸「違う……いるまは、怖くないの。
むしろ、俺が“怖がらなくてもいい”って初めて思えた人だから」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
いるまはそっと、らんの肩を抱き寄せた。
🎼📢「……じゃあ、少しずつでいい。俺は急がねぇ。
お前が“触れてほしい”って思ったときだけ、触れる」
その優しさが、逆に涙を誘った。
らんは顔をうずめ、声を震わせながら囁く。
🎼🌸「……今、触れててほしい。離れたら、またひとりにされそうで……」
🎼📢「離さねぇよ」
抱きしめ合う。
それだけで、世界の冷たさが遠ざかっていく。
静かな夜。
唇は重ならない。
けれど、互いの呼吸が肌をかすめて、心臓が痛いほど鳴っていた。
🎼🌸「……いるま。俺、やっと……ここが“居場所”だって思えた」
🎼📢「……俺にとってもだ。お前がいねぇと、もう何の意味もねぇ」
二人の距離は、もう恋と呼ばずにはいられないほど近くなっていた。
けれど、その温もりを壊さないために――まだ、線を越えることはしなかった。
その夜、らんは初めて安らかに眠りについた。
いるまの腕の中で。
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