〈ストーリー〉
※MVの設定を拝借します。また、多少の筆者の想像も含みます。
カーテンは閉じられていて、電気も点いていないからまだ夜中なのか朝になったのかわからない。
ベッドから身を起こし、下に投げ捨てられていた自分の服を着る。
スマホを見ると、深夜の3時だった。もう一度眠ろうかとも思ったが、もう目が覚めている。
布団の中の彼女はまだ寝ているようだ。
と、「ねぇ…」
小さく呼ぶ声があった。
「怖くて眠れない……」
いつの間にか目を覚ましたようだ。「キスして」
立って見下ろしたまま、思案する。
そんなか細さを僕に見せたって、彼女に対してのそういう感情はもうすっかり欠落しているんだから仕方がない。
恐る恐るその頬に触れ、唇をつける。1秒にも満たない僅かな接吻だった。僕は素っ気なく顔を背ける。
そこで、彼女の細い手が伸びてきて、ベッドサイドに置いてある小さなテーブルの上のメモを掴んだ。
それを折り畳み、僕の胸ポケットにいれる。
「一人で読んで」
中身が気になったが、帰ってから見ることにした。
きっと、彼女は僕を弄んでいるだけだ。まるでおもちゃのように、彼女の部屋で夜を共にする。
僕には、それを拒否する権利はたぶんない。
この心に沈む憂いも憎みも、吐き出せる場所はあるはずはないから持っておくのも悪くないかも、と思う。
でもいつかはぶつけたい。そうしたら、ちょっとでも楽になれる気がして。
顔を洗って戻ると、彼女は車のキーを手にしていた。
「車回すから」
このまま朝になるまでいさせてはもらえないようだ。
大人しく準備をして、彼女の家を出る。
昨日は降っていなかったのに、外は雨だ。
助手席に滑り込み、家の近くまで送り届けてもらう。
「いつものところでいい?」
うん、とうなずいた。
もうこのまま、僕のことを片付けてほしい。
遊んだら、元あった場所に戻してほしいのに。僕の気持ちを。
続く