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若井と気持ちを確かめ合ってから数日。
俺たちは前よりも自然に距離が近くなっていた。
目が合うだけで心臓が跳ねるし、肩が触れると顔が熱くなる。
だけど、誰にも言えない秘密の関係。
ある日の放課後、ギター部の練習室。
若井と二人で片付けをしていたとき、若井が不意に俺の手を取った。
「……元貴、ちょっと」
不意にドキッとする。
窓から差し込む夕焼けに照らされて、
若井の顔が赤く染まっていた。
そのまま近づいてきて、額が触れる距離まで――。
「……こんなとこで、やめろって」
声を潜めて言う俺。
若井は少し笑って、「平気だよ、誰も来ないって」と。
でも次の瞬間――ガチャ、と扉が開いた。
「おーい、若井。忘れ物……」
声の主は涼ちゃんだった。
金色の髪が夕日に輝いて、
フルートケースを肩にかけて立っている。
俺と若井は思わず飛び退いた。
「……あれ?」
涼ちゃんは目を瞬かせた。
「ごめん、邪魔したかな」
心臓が止まりそうになる。
絶対に気づかれた――そう思った。
若井は慌てて笑いながら言う。
「いや、全然!ちょっとな、元貴とコード合わせてただけ」
「……ふぅん」
涼ちゃんは優しく微笑んで、俺に視線を向けた。
「元貴、顔赤いよ?」
「っ……そ、それは!」
必死にごまかそうとするけど、声が裏返ってしまう。
涼ちゃんは何も言わず、ただ静かに笑った。
その目は、まるで全部見抜いてるみたいで
――怖いくらい優しかった。
「……僕、もう帰るね」
そう言って、涼ちゃんは軽やかに踵を返した。
扉が閉まる音がやけに響いて、
俺と若井は固まったまま動けなかった。
「……な、なあ若井」
「……ああ。完全に怪しまれたな」
涼ちゃんは俺たちが
付き合ったのを知らない。
二人で同時にため息をついて、
思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
けれどその笑いの奥には、
確かに“バレるかもしれない”緊張感があった。
秘密の関係は、もう長く隠し通せないかもしれない――。