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涼ちゃんに気づかれたかもしれない――そう思ってから数日。
どうも様子がおかしい。
いつも穏やかな笑みを浮かべているのに、
どこか刺さるような視線を感じる。
放課後、部活帰り。
校舎裏で自転車を押していると、涼ちゃんに声をかけられた。
「元貴、ちょっといい?」
金髪が夕日に透けて、柔らかそうに揺れる。
相変わらず優しい声なのに、
胸の奥を締めつけるような圧がある。
「涼ちゃん……どうしたの」
「この間、練習室で若井と何してたの?」
ドクン、と心臓が跳ねる。
やっぱり気づかれてた。
「な、なにって……ただコード合わせてただけで……」
必死にごまかすけど、声が震えてる。
涼ちゃんは少し黙り込んで、それから小さく笑った。
「……嘘下手だね、元貴は」
目が逸らせなくなった。
涼ちゃんの瞳が真剣で、
逃げ場を塞がれているみたいだった。
「僕、気づいてるよ。
若井のこと、特別に見てるんだろ?」
喉が詰まる。
言葉にできない。
説明なんてできるはずもない。
「でもね……僕だって――」
その瞬間、涼ちゃんが一歩近づいた。
自転車のハンドルを押さえられて、逃げ道を塞がれる。
「僕だって、元貴のこと……特別に見てるんだ」
耳元に落ちる声が甘くて、震えた。
気づいたときには、涼ちゃんの唇が俺の唇に触れていた。
――軽く、だけど確かに。
頭が真っ白になる。
何が起きてるのか、理解できない。
涼ちゃんは唇を離すと、少し苦しそうに笑った。
「……ごめん。前も言ったけど、
僕…元貴が好きなんだ」
金髪が揺れて、夕日がきらめく。
その光景が焼き付いて離れなかった。
俺は何も返せず、ただ唇に残る
感触を抱えたまま立ち尽くすしかなかった。
唇の感触がまだ残っている。
夕日の校舎裏で、
涼ちゃんは少し照れたように笑いながら言った。
「ねえ、元貴。今のこと……
誰にも言わないでよ。若井にも」
「……っ」
声が喉につっかえて出ない。
必死に頷くしかなかった。
涼ちゃんは俺の反応に満足そうに微笑む。
「よかった。これで僕と元貴だけの秘密だね」
その「秘密」という言葉に胸がざわつく。
心臓が落ち着かなくて、顔が熱い。
「でもね、元貴……僕はこれからも普通に接するつもり。
ただ、たまに……今日みたいに素直になるかもしれない」
ふわっと笑うその表情が優しくて、怖い。
俺は何も言えずにただ頷いた。
――そして次の日から。
涼ちゃんはいつも通りに笑っていた。
部室に顔を出してくれて、若井とも普通に話す。
でも時折、俺にだけ意味深な視線を送ってくる