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おまる
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頬をなぞる高瀬くんの指先から、熱が伝わってくる。
「振り向かせてみせる」なんて
いつも会社で聞く彼の報告の声とは正反対の、低くて独占欲の混じった響き。
「……っ、もう。…そういうの、やめてって」
私は逃げるように視線を落とし、彼の手をそっと押し返した。
けれど、彼の手は離れるどころか、そのまま私の両手を包み込むように握りしめる。
「……本気ですから。俺、中途半端な気持ちで凛さんのこと守ってませんから」
その真っ直ぐな瞳に見つめられると
自分が今まで必死に守ってきた「上司」という立場が、砂の城のように簡単に崩れていく。
広いリビングには、私の速い鼓動の音だけが響いているようだった。
「…寝るわ。疲れたし、明日も早いし……」
「そうですね。無理させてすみません。……ベッド、使ってください」
「え? 高瀬くんは?」
「俺はソファで寝ますよ。ボディガードですから、ドアの近くで」
「そんなのダメよ! あなたの家なんだし、身体痛めるわ。……私がソファでいい」
「いやいやダメです。先輩にそんなことさせられません」
結局、押し問答の末、広めのベッドの両端で、一定の距離を保って横になることになった。
「……そ、そんなにガン見されると怖いんだけど」
「す、すみません!絶対に何もしませんから。……指一本、触れません」
そう宣言した高瀬くんは私に背を向けたが、その背中は暗闇の中でも逞しく見えた。
けれど。
静まり返った部屋で、隣から聞こえる規則的な呼吸音。
そして、シトラスの香りが混ざった「彼の匂い」に包まれていると
眠気なんてどこかへ吹き飛んでしまう。
(……眠れない。意識しすぎて、おかしくなりそう)
私は布団の中で身悶えしながら、そっと隣を伺った。
高瀬くんは眠っているのだろうか。
……そう思った瞬間、シーツが擦れる音がして、彼がこちらを向いた。
「……先輩、起きてます?」
「……っ、な、何よ。寝てるわよ」
「…嘘下手すぎますね」
暗闇の中で、彼の手が探るように伸びてきて、布団の上から私の肩に触れた。
「……もしかして寝辛いとか…それとも、怖いですか?」
「……怖いのは、元カレよ」
正直な気持ちが零れた。
宏太への恐怖と、隣にいるこの「部下」への、説明のつかないときめき。
高瀬くんは少しだけ笑ったような気配を見せると、布団越しに私を自分の方へ引き寄せた。
「……なら、俺の服の袖、掴んでていいですよ。この間みたいに」
彼の手が、私の手元に届く。
迷った末、私は暗闇の中で彼のTシャツの裾をぎゅっと握りしめた。
昨夜と同じ。
でも、今は「守ってもらっている」だけじゃない、別の熱い感情が胸を満たしていく。
「……おやすみなさい、凛さん」
「……ん、おやすみ」
結局、私は朝まで彼の温もりを感じながら
生まれて初めて「一人じゃない」夜の安らぎを知ることになった。