テラーノベル
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特に統一感のない短編たちをまとめました。
微妙に独日、露日要素ありです。
※旧国出てきますので、一応注意
・シベリア事件
・和洋菓子のシベリア。諸説あるがシベリアの永久凍土の断面と似てるからこの名前なんだそう。いうて似てるか?
ちなみに妹と父にお菓子のシベリアって知ってる?と聞いたら知らないと言われました。マイナーなんですかね。
昼下がり、珍しく会議が早く終わり、日本とロシアはのんびりとティータイムを過ごしていた。
静かな室内に、湯呑に注がれるお茶の音だけが心地よく響く。
そんな穏やかな時間のなか、日本がふと呟いた。
「そういえば、シベリアを手に入れたんですよ」
それは何気ない一言だった。だが、隣に座っていたロシアは、その言葉を聞いた瞬間、ピクッと眉を動かした。
「……シベリアを?」
声のトーンが一気に変わる。でも、日本はキョトンとした顔で頷く。
「はい。なにか問題でも?」
その言葉に、ロシアはぐっと立ち上がりかけ、声を荒げた。
「いや、大ありだろ!! なんてことしてんだお前!!」
「えっ!? なんでですか!?」
日本は思わず湯呑を持つ手を止め、目を丸くする。
まるで、自分がとんでもない犯罪でも犯したかのような扱いに、困惑を隠せない。
「どう考えても、これは国際問題だぞ!!」
「国際問題になるほど、シベリアの需要って高いんですか!?」
どこかズレた返答に、ロシアは言葉を詰まらせた。あまりにも話が噛み合わない。
何かのジョークか? いや、日本は冗談を言うようなタイプではない。
「……というか、お前……シベリアを手に入れて、何するつもりなんだ」
「何って、食べますが」
ロシアの思考が一瞬フリーズする。その間に、日本は優雅にお茶を啜っていた。
「………すまん、ちょっと理解が追いつかない」
ロシアは額を押さえてうなだれる。
それに対して、日本は不思議そうに首をかしげた。
「食べるだけなのに、なんで分からないんですか?」
じっとロシアを見つめる視線は、本気で疑問を抱いているようだ。
その問いに、ロシアは逆に問い返す。
「……おい、日本。お前、もしかして“シベリア”を知らないのか?」
「いや、それはこちらのセリフです。ロシアさん、シベリアをご存知ない?」
自分の常識が通じていないことに、今度は日本の方が戸惑っている。
しかしロシアは胸を張って返す。
「いや、知らないわけないだろ。俺のところの(領土)だし」
「いやいや、シベリアは日本の(お菓子)ですよ」
突然、空気に電流が走った気がした。
「なんだ!? 南クリルの逆恨みか!?」
日本はその様子を見て、さらに不安そうに眉を寄せた。
「なんだか……話が噛み合っていない気がしますね。……まあいいか。ロシアさんも食べます?」
日本は椅子から立ち上がると、会議室の扉を出ていく。
「あ、ちょ……あれって物理的に運べるものなのか…?」
ロシアはその後ろ姿を呆然と見送った。
数分後、再び戻ってきた日本の手には、可愛らしい包みがあった。
「はい、どうぞ」
差し出された皿には、サンドイッチのような形をした、黒い餡が挟まったお菓子が乗っていた。
日本の差し出す湯呑と一緒に、ふんわりと甘い香りが漂う。
「……なんだこれは」
「何って、シベリアですよ。さっきから言ってるじゃないですか」
ロシアは、ようやく合点がいったように静かに息を吐いた。
「……知らない間に侵攻されたのかと……本気で焦った」
「シベリア手に入れたって、国民が住めないじゃないですか。寒すぎて皆さん凍えちゃいますよ」
あまりにも真顔なその発言に、ロシアは思わず噴き出しそうになるのを堪えた。
肩を揺らして笑いながら、目の前の“シベリア”に手を伸ばす。
「……まあ、そうだな。寒いところは俺一人で十分だ」
どこか寂しげに笑うその横顔を見て、日本はふんわりと微笑んだ。
湯呑から立ちのぼる湯気の向こう、柔らかな声が続く。
「寒いのが嫌になったら、私のところに来ればいいですよ」
ロシアがゆっくりとこちらを見やる。
「その時は、またシベリアでも食べながら、あたたかいお茶を飲みましょ」
どこまでも穏やかで、包み込むような優しさ。
ロシアの頬が、ほんの少しだけ、緩んだ気がした。
「……ああ。約束だ」
おまけ:シベリア事件、再び
執務室のドアがノックされると、ソ連は静かに「入れ」と声を掛けた。
扉の向こうから現れたのは、どこか得意げな顔のロシア。
「なあ、親父。日本からシベリアをもらった」
読んでいた書類を取り落としかけて、ソ連は顔を上げた。
ロシアは小さく微笑み、まるでお土産話を持ってきた子どものような顔をしている。
「……シベリア、だと?」
「ああ。綺麗に切り分けてくれた。甘くて柔らかくて美味かった」
「…………は?」
甘くて柔らかい?
それがどうしてシベリアなんだ?
ソ連の眉が見る見るうちに険しくなる。
「お前、それ本気で言ってるのか?いつの話だ?そもそもシベリアを日本に譲った記憶はないぞ」
「ついさっき。緑茶も出してくれた。さすが日本だな、丁寧だった」
「なにが“丁寧”だっっ!!! お前、国際問題って言葉知らないのか!?」
机をバンと叩き、ソ連は立ち上がった。
ロシアはぽかんとした顔のまま、それを見上げる。
「いや、ただシベリア食べてたらくれただけだ。日本、優しいだろ」
「シベリアを“食べた”!?!?」
「ああ、美味しかった。ふわふわの生地に餡が挟まってて、初めて食べたのに、懐かしい味だった」
「餡!? ふわふわ!? ……シベリアに餡が!? お前、どこの情報機関からそれを聞いた!?」
「情報機関?いや普通にパッケージにも書いてあるぞ。“あんこたっぷり大正レトロの味”って」
「…………」
パッケージの文言を見て、ようやく合点がいった様子。
ソ連はしばらくの沈黙の後、低く呟く。
「ロシア。お前……それ、“領土の話”じゃなくて、菓子の話だろ」
「そうだが?最初からそう言ってるだろ」
「言ってねえ!!! 一っ言も言ってねえ!!!」
書類の山にうつ伏せるようにしてソ連は頭を抱えた。
ロシアは、意味がわからないという顔で首をかしげている。
「でもほら、シベリアだろ?」
そう言って、ポケットから丁寧に包まれた白い紙を取り出す。
中から出てきたのは、薄茶色の生地に餡が挟まった……誰がどう見てもお菓子の”シベリア”だった。
「……なんでそれを“もらった”って表現した……」
「だって日本が切ってくれたから。俺のために、くれたんだ」
「こっちはバイカル湖が切り取られたかと本気で焦ったわ!!!」
ロシアはひと口齧って、ふわっと笑う。
「これ、いいよな。……親父にもやるよ。なんか疲れてそうだし」
ソ連はしばし絶句し、やがてため息をついて顔を上げる。
誰のせいだよ。口に出かけた言葉を上手く飲み込めたようだ。
「……よこせ。食ってやる。冷戦時代の傷も今空いた胃の穴も癒えるかもしれん」
受け取ったそれを静かに齧るソ連。
しばらく無言だったが――
「……甘っ……けど、悪くないな」
ほほ笑みを浮かべたソ連に、ロシアが得意げに笑う。
「だろ。シベリア、いいよな」
「そうだな……甘いシベリアなら、確かにくれてもいい」
執務室に、ほんのりあたたかい空気が広がる。
いつの間にか、歴史的な誤解と争いは、
一切の理屈を抜きにした“甘さ”で包まれていた。
・日本がお休みしたようです(独日)
日が傾いて、窓がオレンジ色に染まる頃。
浮ついた様子で、ドイツとイタリアのいるオフィスにやってきたアメリカ。
Japan〜!!と馬鹿でかい声で甘ったるい声を響かせるのはいつもの事。
しかし、今日はやけに静かな事に気づいたアメリカが、ドイツの隣の空席を見て、あからさまにガッカリした表情になった。
「はぁ!?今日Japan休みなのか!?」
「Japanいないんじゃ、やる気でねぇよ…」
「ioも〜」
「お前らはいつも仕事してないだろ」
そんな会話をしていると、退勤時間を知らせるチャイムが鳴る。
「あっ!定時になったから帰るんね!」
ウッキウキで帰り支度を始めるイタリア。
その時、ニヤニヤと笑う上司が、タイミングを見計らうよう、ドイツの元へやってくる。
「あ、ドイツくん少しいいかな」
「お疲れ様でした」
だが、デスク下のカバンをさっと肩にかけたドイツは、上司の言葉を無視して席を立つ。
そして、デスクに残る荷物をさっさと片付けだした。
「えっ?なんで帰る準備してるの…?」
「定時なので帰るだけですが」
「で、でもいつもは残って…」
「就業規則に”必ず残業しろ”とは書かれていません。お先に失礼します」
一礼だけして、無言のまま去っていったドイツ。
上司は圧をかけることも忘れ、ポカンとした表情でその背を眺めていた。
「あの社畜が定時で帰っただと…?」
「あいつまさか…日本がいる時しか残業しないのか」
ハッ、とアメリカが真理に気づいたように驚く。
今更かと呆れるよう、イタリアはため息をついた。
「ドイツは元々残業に厳しいんね」
さーて、ioも帰ろっと!
デスクに大量の未処理タスクを残したまま、イタリアも部屋を後にした。
おまけ(という名の本編)
深夜のオフィス。蛍光灯の淡い光と、静かなキーボードの音だけが満ちている。
壁時計の針は日付をまたいでしばらく。社員の姿はほとんどなく、そこに残っているのは二人だけ。
ドイツが淹れてきたホットコーヒーの香りが、冷えた空気をほんのり温めていた。
日本は画面を見つめたまま、手を止める。
肩がわずかに沈み、こめかみに触れる細い指先が、疲れの色を語っていた。
目の下には、ここ数日の無理がにじむような黒いクマ。
それでも、唇にはかすかに笑みが浮かんでいる。
「…どうしたんだ、日本。限界が来たか?」
「……いえ。すみません、つい考えごとをしてしまって」
そう言ってから、ふと視線をドイツに向けた。
そして、まるで過去を手繰るように、ぽつりとこぼす。
「……僕、昔はここに独りぼっちだったんです。
自分の音だけが響くオフィスに、何度心細く、虚しい思いをしたことか…」
俯いたまま、小さく息を吐く。
それでも、ほんの少しだけ声が柔らかくなった。
「でも……」
再び顔を上げ、まっすぐにドイツを見る。
「今は、あなたがいる。」
「ドイツさんがいてくれるから、独りじゃないと思えて、この辛い夜も乗り越えられるんです」
「寂しさや虚しさに襲われずに済む……本当に頼もしくて、ありがたい存在です」
コーヒーの湯気が、ふわりと揺れる。
どこか覚束無いドイツの手が、マグカップを口元へ運んで、くっ、と傾けた。
苦いはずのそれが、今は、ものすごく甘い。
コトリ。音と共に、ドイツの目が、まっすぐと日本を向く。
「……そう言ってもらえて嬉しい。でも、俺は日本を働かせるためにいるんじゃない。
…ちゃんと、休めよ」
低く落ち着いた声に、日本は目を細めるようにして、にへらと笑う。
その笑顔があまりに無防備で…ドイツはそっと日本の頭に手を伸ばした。
大きな黄色の手が、白の肌をそっと撫でる。
己の温もりを分け与えるような、静かで、確かな触れ合い。
その心地良さに、日本の身体がわずかに揺れて、うとうとと目を閉じ始める。
同時に、ドイツは撫でる手の動きを変えた。
優しく、ゆっくりと。まるで子どもを寝かしつけるように。
数分の静寂ののち──黒い瞳が完全に瞼に隠された。
「ようやく寝てくれたか」
囁くように呟いて、ドイツは椅子から立ち上がると、日本の肩に手を添え、慎重に抱き上げる。
思ったよりも軽い。けれど、仕事を抱え込みすぎたその背は、あまりに細かった。
人気のない会議室に入ると、部屋の隅に置かれた大きなソファに日本を横たえた。
用意していた毛布をそっとかけ、乱れたスーツの襟を整えてやる。
すやすやと眠る、穏やかな寝息。
そんな彼のさっきの言葉が、胸の奥に残っていた。
“本当に頼もしくて、ありがたい存在です”
思い出すたびに、こみ上げるものがあって、口元が自然とゆるんでしまう。
どうしても笑みを抑えきれずに、肩を落として、ドイツは囁いた。
「……俺の方こそ。お前がいてくれるおかげで、毎日が幸せなんだ。ありがとう」
そして、静かに、そっと──
眠る日本の目元へ唇を寄せ、キスを落とす。
おやすみなさい、愛しの君。
ドアが静かに閉じる音だけが、静寂の中に残った。
・絶対零度のプロポーズ(露日)
カタカタとパソコンを鳴らし続ける日本。
その隣のデスクで、ロシアがウォッカを飲みながら、じっと日本を見つめている。
この光景のまま、過ぎること十数分。
なにか言いたいことでもあるのだろうか。
考えを巡らせた日本は、キーボードを叩く指を止め、隣の彼へ控えめな上目遣いを寄越した。
「ねぇロシアさん、あなたって恋愛下手そうですよね」
「なんだ藪から棒に。失礼な奴だな」
「だってあなた、口下手じゃないですか。無口だし」
「………やろうと思えば、上手くやれる」
「じゃあ、試しに僕にプロポーズしてみてくださいよ」
冗談半分、からかい半分で、口にした挑発。
疲労困憊の社畜の戯言だ。どうせ断られるだろう。
日本はそう思っていたが、ロシアはいいぞとすんなり了承した。
寡黙なロシアのプロポーズと聞いて、続々と2人を囲う国たち。
フランスやイタリア、アメリカ、ドイツまで…
皆、固唾を飲んで見守っている。
立ち上がったロシアは、その辺に飾ってあった花を持ってきて、日本の前で片膝をつく。
差し出した手には、小さな白い花。
ふわりと揺れる姿は、ロシアの真っ直ぐな瞳を見つめる、日本の心のようだ。
「……日本、お前はまるで永久凍土のように美しい」
「いつか、誰も踏み入れぬその凍土の地を、二人で歩こう」
「永遠に凍てつく静寂の中、逃げ場もなく…ただ俺たちだけが生き残る世界で」
一瞬で凍りつく空気。
雑音も聞こえない静けさは、オイミャコンさえも暖かく感じてしまうほど。
その中で、アメリカが小さく、苦しげに笑った。
「それは、ロシアンジョークか?なんか…サムイな、色んな意味で」
「お、重っ…」
「プロポーズってより、ホラーだよ…」
「めっちゃ怖いんね!」
こっちの背筋が永久凍土になるわ!と四方八方からヤジが飛ぶ。
「あ…ありがとうございます…?」
予想外の重すぎるプロポーズに返答を迷った日本は、とりあえず感謝を伝えることにした。
※ロシアくんのプロポーズの言葉の意味、あえて解説はしないので、是非考察してみてね!
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