テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#花園の語り部
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ふと目を覚ます。 時計は朝5時。
1人暮らしを初めて1週間。まだまだ見慣れない天井が目に入る。
「いてて…」
床で寝たせいで痛む背中をさすりながら上体を起こす。 テーブルの上に無造作に置かれた空き缶から記憶を辿る。俺のすぐ隣の床には、悠が寝ている。
隼兄は……すぐそばの俺のベッドで寝ている。
昨夜のことを思い出し思わず口元が緩む。
隼兄と悠は2歳年上の幼馴染。双子の兄弟で、幼い頃から俺の面倒を見てくれた。
双子だけあって顔は 似ている。整った顔立ちで、2人とも中高人気者だった。
ただ、性格は真逆だ。
優しくおおらかで柔らかい雰囲気の隼兄と、いつも意地の悪い悠。
今も昔も、俺と悠は顔を合わせたら喧嘩ばかり。いい思い出はひとつもない。
この宅飲みは隼兄が提案してくれた。俺の初めての一人暮らしを祝いたいと。
お酒やご飯をたくさん買い込んで来た2人。飲んだり食べたり、3人で楽しくあれこれ話していたけど。途中悠がむかつくことを俺に言ってきて、喧嘩になったんだっけ…。
困ったように仲裁に入る隼兄の顔を思い出し、頭が痛くなってきた。
隼兄、いつも迷惑かけてごめん…。
半ば強引に俺のベッドに寝かせた隼兄。隼兄を床に寝かすわけにはいかない。
悠を起こさないようにそっとベッドに近づき、隼兄の寝顔をこっそり見つめる。
隼兄。俺の……初恋で、今でも大好きな人。
俺の初恋は、気づくと同時に散ったものだった。中学のころ、隼兄に彼女が出来たのがきっかけで、この気持ちに気づいたからだ。
隼兄の彼女はカナちゃん。俺もずっと昔から知ってる、隼兄達の幼馴染だ。
誰がどう見てもお似合いのカップルだ。現に大学3年生になった今も2人は続いている。
隼兄は優しくておおらかで、少し鈍感で天然なところもあって。そんな隼兄が、俺は大好きだ。
すやすやと寝息を立てて眠る隼兄を見ていると、どうしても、好きという気持ちが溢れてしまう。
ごめんカナちゃん。
どうか許して。
今日を最後に、きっぱり諦めるから。
少し身を乗り出して、隼兄に近付く。
……口づけるために。
ベッドの軋む音がしたが、もう止められない。
「…っ」
「っ、は…?お前、何してんの?」
触れるか触れないかのその時、
背後から声をかけられて、全身がビクリとする。
大嫌いな声。
………最悪だ。悠が起きた。
ゆっくりと振り返ると、意地悪く笑う悠がこちらを見ている。
俺本当にどうかしてた。
墓場まで持っていくつもりだったこの気持ちが、1番嫌いなこいつに知られるなんて。
隼兄は…っ、まだ寝てる。よかった、…じゃなくて。
「へぇ〜〜…お前、好きなの?隼のこと」
「……」
返す言葉がない。ひたすら自分の愚かな高度いを恨むしか出来ない。
「好きなのかって聞いてるんだけど」
「…っ、そうだよ」
「こいつ彼女いるじゃん」
「っ、わかってるよ、だから…今日で諦めるから、ったのむ…隼兄には言わな
「ど〜しよっかな〜…」
「は…?!」
どこまでも意地が悪い悠。
う〜ん、としばらく考えた後、こう切り出される。
「バラされたくなかったら、俺の言うこと聞けよな」
「はぁ?!」
思わず大きな声を出してしまう。どこまで性格が悪いんだこいつは。
と、その時ベッドで寝ている隼兄が動く気配。慌てて口をつぐむ。
「もう起きたの…?早起きだね〜」
呑気にあくびをする隼兄。冷や汗が噴き出る俺。
何かを企むような声色で悠が口を開く。
「あ〜隼、そいえばさっき瑞樹がお前のことす
「っなんでもない!!!なんでもないから…」
慌てて悠の言葉を遮る。俺の慌てようが面白いのか、笑いを堪える悠を睨みつける。
ほんっっっっとに最悪だ。
絶望の気分で窓に目をやる。正直泣きたい。
これからどんな要求をされるんだろう。大嫌いなこいつに。
呑気に朝ごはんの話をしている隼兄と悠の会話が、全く耳に入ってこない。
外はすでに眩しい朝日が登り始めていた。