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け 〜 ち ゃ ん .
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外は相変わらずの雨。
部屋の中は、若井が焚いた甘ったるいお香の匂いと、元貴がこぼしたミルクの匂いが混ざり合っていた。
若井はベッドの上で、幼児のように丸まって眠る元貴の髪を、一房ずつ丁寧に梳いている。
「……可愛いね、元貴。
君は、もう何も考えなくていいんだよ。
お腹が空いたら俺を呼んで、眠くなったら俺の腕の中で目を閉じて。
それだけでいい」
若井にとって、今の生活は「救い」だった。
かつて自分を振り回し、他の誰かに微笑みかけていた元貴はもういない。
自分の許可なく呼吸することすら忘れてしまったような、無垢な存在。
そこに、部屋の合鍵を勝手に作った涼ちゃんが、濡れたレインコートのまま入ってきた。
「若井、またそんな顔してる。
……鏡、見てみなよ。
自分の子供を食べてる怪物みたいな顔してるよ?」
涼ちゃんは皮肉げに笑いながら、元貴の枕元に腰を下ろした。
手には、元貴が以前好んでいた、苦いブラックコーヒーの入ったカップを持っている。
「やめろ、涼ちゃん。
そいつを元貴に近づけるな。
今の元貴には、そんな刺激の強いものは必要ない」
「……本当にそうかな? 彼は、君が思っているよりずっと、深いところで『僕ら』を嘲笑ってるかもしれないよ」
涼ちゃんが、寝ている元貴の頬を、コーヒーの香りが漂う指でなぞった。
その瞬間。
元貴の睫毛が震え、
琥珀色の瞳がゆっくりと開いた。
その瞳には、先ほどまでの虚ろさはなく、以前のような、冷たくて鋭い「光」が宿っていた。
「…………き、……ら……い」
若井の動きが止まる。
「……え?」
元貴は、自分を抱きしめていた若井の腕を、弱々しく、けれど明確な拒絶を持って押し返した。
そして、じっと若井の目を見つめ、
はっきりと呟いた。
「……若井、……きもちわるい……。
……はな、して……」
部屋の空気が凍りついた。
若井の顔から、血の気が引いていく。
指先がガタガタと震え、持っていた櫛が床に落ちて乾いた音を立てた。
「……あ、……ぁ……元貴?
今、なんて……。俺だよ、若井だよ?
君をずっと守ってきた……」
元貴は、信じられないものを見るような目で若井を一瞥すると、そのまま隣に座る涼ちゃんの方へ力なく手を伸ばした。
「……涼ちゃん、……たすけて……。
……わかいが、……こわい……」
涼ちゃんは、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、元貴の体を優しく、けれど若井に見せつけるように抱き寄せた。
「……あはは! 聞いた? 若井。
……元貴の魂は、死んでなんてなかったんだね。
ただ、君の『気味の悪い愛』に耐えかねて、奥底に隠れていただけなんだ」
「……違う……。元貴、嘘だろ?
お前、俺がいなきゃ……!!」
若井が叫びながら、元貴を奪い返そうと手を伸ばす。
しかし、元貴は涼ちゃんの胸に顔を埋め、まるで若井を「汚いもの」として避けるように、小さく震えていた。
若井が必死に作り上げた「ゆりかご」は、たった数秒で、地獄のような「檻」へと姿を変えた。
コメント
9件
語彙力を前前前世に置いてきた私とは違って ヤバいくらい語彙力あるじゃないですか!!!