えーと。
……僕はなんと答えれば良いのだろう。
とりあえず、質問で返す。
「なんでそんなこと問うか聞いても?」
「いえ、深い意味はありません。純粋に気になりまして。普通ウォーウルフ家の成り立ちを知っていれば初対面で友好的に接する方は稀です。少なくとも私が知る限りここにいる二方だけでしたし」
「なるほど。……大概がガスパルのような反応が普通なのか」
「ええ……なのでアレンさん視点の考えを聞いてみたいのです」
なるほどな。
クルーガーは社交界で相当苦労していたんだろう。ガスパルの反応を見ればわかる。
多分僕は前世の日本の記憶があるからそこまで気にしてないけど、普通の貴族ならガスパルのような考えが普通。
僕の父上も僕と同じ考えをしている。母上も特に身分とかを気にした様子はない。
ユベール家が普通よりズレている可能性があるな。僕の教育方針とかも少し特殊だし。
まぁ、素直に答えるとして……実際にウォーウルフ家をどう思うか聞かれると……なんだろう?
僕はウォーウルフ家を馬鹿するのは愚かだと断言しよう。そしてこう思う。
敵に回したくないと。
ウォーウルフ家はこれからも自力をつけ続ける。舐めているといつか足元を掬われる。
「僕はあまり貴族になった経緯だけで馬鹿にしている連中の気持ちは理解できない。同じ国を支える貴族だろうに」
まず同じ国の貴族なのに何故こんなにも犬猿になるのかがわからない。
「僕は連中を愚か者だと……そう思う」
日本には昔、下の身分が上の身分の者を打ち取るという下剋上があった。
クルーガーの場合はすぐに行動せずに、力を蓄える方法をとるだろうが。
そもそもガスパルたちの思考がおかしいんだ。
「そもそも、国は金が回らなければ成りたない。
まず、品を買いに求める人、それを金を使う人を消費者というとして……その消費者が店から欲しい物を買えるから生活ができる。
店は消費者が商品を買うから利益を得られる、その利益があるから、国に納税できる。
国に納税するから、国家が運営できる。
商人というのは全てにおいてやり取りの中心になる。言うなれば、商人というのは国を回すための重要な歯車なんだ。ガスパルたちは自分たちが何不自由なく暮らせているのが誰のおかげかを理解してない。それを見下すとか愚かだと思うだろ?」
そもそも爵位を買うなんてどんだけ莫大な財力が必要なのか想像できない。
でも、ウォーウルフ家はそれを一代で達成してしまうほどの商いのスペシャリスト、国を支える重要な歯車なんだ。
「僕は思う……貴族になった経緯を蔑ろにし続ける連中はいつか痛い目に遭うと」
「なるほど」
「色々語ってしまったけど、つまり敵に回したくないってこと」
クルーガーは1人納得していた。
……だが、ふと語り終わってレイルとギルメッシュを見ると……驚いて僕をみていた。
「なんだよ?」
「……まともな理由だ。もっと面白い答えかと思ったが」
「俺、あまり深く考えたことなかったが、クルーガーの親父さんってすごいんだな」
レイル、君は僕をなんだと思っているんだ?
ギルメッシュはクルーガーに尊敬な眼差しを送っていた。
「いやぁ、アレンさんは素晴らしい考えをお持ちだ……世の全員がそう考えてくれればいいのですけどね」
皆のことなる反応に戸惑っているが、
クルーガーはため息をしながらそう締めた。
今思うと個性豊かで有能な人材が集まっていると思う。
全体を冷静に見極めるレイル、言葉は少し貴族らしくないが辺境伯の息子で武力のあるギルメッシュ。実家の商いで財力の蓄えがあるクルーガー。
だから思う。こんな優秀な人材の中に僕が相応しいのか。
おそらく三人は僕を優秀な人材だと思っている。
でも、それは精神年齢が高いだけで、本当の天才はこの三人のことを言うのだろう。
10歳の子供と話している気がしない。
本当にこの世界の子供は恐ろしい。
そんな人たちと縁を持てたことが喜ばしい、この人たちに恥じない人間になろうと思った。
その後少し談笑してお茶会は無事に終了した。
そして、帰る際、馬車に乗る前にレイルから頼まれごとをされた。
「アレン、急で申し訳ないんだが、来週、アドリアン殿下主催のお茶会が開かれるんだ。君に是非とも参加してほしくてね」
「え……そんなんあったの……知らなかったんだけど」
「定期交流会のようなものだ。……ギルメッシュとクルーガーも参加する予定だ」
「え……それって招待状ないとダメなんじゃ……」
「私の友人枠で参加すれば問題ない、表向きは交流会となっているが、上部だけの権力自慢のようなものだ」
参加したくないんだけど。
今回は断ろう。
「ちなみにアレイシア嬢も参加する」
「……」
まさか思考が読まれた……もう参加するしかないじゃん。でも、父上に相談しないと。
「僕の一存で決められないからせめて父上に相談させて欲しい」
「なるべく早く返答を頼む。今回のお茶会は少々特殊でね。規模が大きいんだ」
「説明をお願い」
レイルの言葉を聞く限り物騒なことが起きる予感しかない。
いや、本当にやめて欲しいんだけど。
「今回は特別に9歳のクリスタ王女殿下も参加される」
「……なんでまた?」
「私に聞かれてもわからない。大方アドリアンの独断だろうな。大層妹を溺愛しているそうだ」
「なるほど」
つまり、アドリアンはシスコンということか。
来年のお披露目会の練習を積ませるためとか妹自慢をするって感じか。
あのアドリアンの妹だ、性格に難があるかもしれない。
それにしてもアドリアンがシスコンなんて設定なかったよな。クリスタという名も初めて聞いた。
あと、レイルは王族を呼び捨てにしていることは気にしない。
レイルは相当嫌っているようだ、機嫌も少し悪くなってるし。
「色々面倒そうだけど、参加するとしたら僕はレイルの近くにいればいいんだろ?」
「理解が早くて助かる」
つまり中立派に所属しましたよーってアピールするってことか。
「詳細はまた数日中に手紙で送る」
「了解」
最後にそう一言交わして馬車に乗った。
色々と勝手に物事を進めてしまった。
派閥騒動に友人関係……ああ、父上の胃が持つだろうか?
それにアドリアンのお茶会に参加したら多分絶対に後には引けない……さて、どうしたものか。
とりあえず父上に相談しなければ。
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