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対峙する“もうひとりの自分”と、手の中にあるギター。
響くはずのないはずの弦が、確かに音を鳴らした。
ないこ:「……行くぞ」
影の中から現れたその姿は、ないこ自身と酷似していた。
だが――その瞳の奥には、異質な“深さ”があった。
???:「名前も、記憶も、心も……全部、お前に置いてきた」
???:「それでも、俺はここにいる。“ないこ”って名前で、生き残ったお前の影として」
ないこ:「……影、じゃねぇ。お前は――“俺”だったんだよな」
???は微笑む。そこに、わずかな安堵の色が浮かぶ。
???:「ようやく、そう言ってくれたな」
そして――
その体が、ゆっくりと“変化”し始める。
影が剥がれ落ち、ひび割れた“皮”の奥から現れたのは、
どこか透明で、宝石のような構造を持った、儚い存在。
ないこ:「……冥晶(めいしょう)……」
冥晶:「やっと……呼んでくれた」
冥晶。
それは“ないこ”が自分を守るため、心の深くに閉じ込めていた存在。
名を与えず、記憶すら封じた、声なき声。
その実体は、かつて“ないこ”が初めて音楽と出会った時――
まだ名前すらなかった頃に、心の奥で生まれていた存在。
冥晶:「俺は、“初めての声”だった。
誰かに届かなくても、それでも叫びたかった――
その想いだけで生まれた」
ないこは言葉を失う。
冥晶:「でも、怖くなったお前は、俺を“消した”。
音で隠して、歌で蓋をして、名前も与えず――“???”にしたんだ」
ないこ(心の声):(……そうだ。俺は、冥晶を……)
冥晶:「だから、最後に聞かせてくれ。
お前が、本当に“ないこ”として叫ぶ声を――
“初めて俺を殺したお前”の音で、もう一度、届く声を」
そして、静かに冥晶はギターを構える。
音がぶつかる。
音楽であり、魂であり、祈りだった。
ないこ:「お前を消したのは、間違いだった。
でも今、もう一度……“名前”を返す。
冥晶――お前は、確かに、俺だった」
その瞬間、深層に走ったひびは、光に変わった。
次回:「第三十三話:ひとつの声、ふたつの心」