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市合×長門
今日こそはと市合は決意した。今日こそ恋人と手を繋ぐのだと。
日も暮れ空に星が散らばり始めた頃、そんな決意を胸に市合は歩いていた。
恋人と付き合ってからかれこれ一ヶ月なんの進展も発展もなくなんだか焦りを感じた市合はまずは手を繋ごうと計画を立てたのが1週間前、だが今日まで全て失敗に終わった、そう彼はどこまで行ってもクソ童貞であったのである。
今まで生きてきた中で恋人などというものは一切できてこなかった市合にとって手を繋ぐなんて亀毛兎角であった。
だが市合は諦めず今日も今日とて恋人と手を繋ぐ機会を探っていた。
その目的の人物を市合は横目でそろりと見遣る。
見えるのは目鼻立ちの整った横顔に牡丹色に透き通る瞳、歩くたびふわっと揺れ月明かりを反射する髪はまるで花々を飛び移るアゲハ蝶のように端麗である。
いつ見ても綺麗だ、市合はいつもそう思う。
そう市合の恋人とはこの男、長門碧であった。
本題に戻るが市合は長門と手を繋ぎたい。
その為に立てた計画、名付けるとするならば「なんとかいきおいで手を繋いでみよう大作戦」といったところだろうか。
その名の通り一緒にいる時に勢いで手を繋ぐというなんとも計画性のない作戦だった。
これで成功したかといえば惨敗だ。
市合が長門の手を取ろうにもそこまでの速度がカタツムリのように遅い、長門の手に触れるまでにきっと陽が沈むくらいの時間を要するくらいには遅い。
手を繋ぐ前に長門がその場から去ってしまうのが常だった。
だが今日こそは出来るという謎の自信が市合にはあった、それで出来た試しはないが。
長門の掌の位置を確認しながら自分の手も近づけていく、歩きながらだと少し合わせるのが難しいがあと少し左に寄れば触れられる距離まで近づくことが出来た。
さぁ行くぞと勇気を振り絞り長門の手を握ろうとした、そして長門の手に触れる。
触れただけだった。
握ることは出来ずに、ただ触れただけ。
市合は自分のヘタレさに頭を抱えたくなる。
「市合の兄貴、どうかしましたか?」
長門がこちらを振り返る。
ここで手を繋ぎたいなんて言ったら引かれるだろうか。
____いや、男前はそんなことしない。
あいつのことだから少し笑って『いいですよ』なんて言ってくれるはず。
「…お お前と手を、つなぎだいです」
長門の顔は緊張して見れなかった。
目をぎゅっと瞑って返事を待っていると少し下からふふっ、と笑う声が聞こえる。
恐る恐る見れば笑っている長門がいた。
「俺でよければ、いいですよ」
その晩は手を繋いで組に帰った。
緊張し過ぎてほとんど覚えていなかったが長門の手の温かさは今でもしっかりと残っている。