テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
六月に入り、1年Dクラスの雰囲気にも少しずつ変化が生まれていた。
グループが固まり始め、
教室の中にもそれぞれの距離感ができつつある。
ひなは相変わらず、桔梗ちゃんと仲良く過ごしながら、
時々堀北さんとも言葉を交わすようになっていた。
そして――
気づけば、教室のどこにいても、
ひなの視線は自然と 綾小路清隆 を探していた。
昼休み。
桔梗ちゃんと話していると、
軽井沢恵 が近くで友人たちと楽しそうに話しているのが見えた。
明るく華やかな雰囲気に、ひなは思わず見とれてしまう。
「軽井沢さんって、すごくおしゃれだよね」
「うん、クラスでも人気者だよね!」
桔梗ちゃんが笑顔で頷く。
その日の放課後。
ひなは廊下で、クラスメイトの男子に勉強のことで質問されていた。
「ひなって説明上手だな」
「えっ、そうかな?」
少し照れながら答えていると、
廊下の向こうに綾小路くんの姿が見えた。
彼は立ち止まり、静かにこちらを見ている。
表情は変わらない。
それでも、なぜかその視線がいつもより気になった。
男子生徒が去ったあと、
綾小路くんがゆっくりと近づいてくる。
「人気者だな」
「えっ?」
「最近、よく話しかけられている」
その声はいつもと変わらず淡々としている。
けれど、ひなの胸はどきりと高鳴った。
「ただ勉強を教えてただけだよ」
「そうか」
短い返事。
しかし、そのあとに続いた言葉にひなは息をのんだ。
「……少し、気になった」
「え……?」
綾小路くんは視線を逸らしながら続けた。
「お前が誰と話していようと自由だ。だが、少しだけ気になった」
胸の鼓動が一気に速くなる。
寮へ戻る道。
ひなは思い切って尋ねた。
「それって……嫉妬?」
綾小路くんはしばらく沈黙した。
そして、静かに答える。
「……そういうものかもしれない」
その一言で、ひなの心は幸せでいっぱいになる。
自室の前で別れるとき、
綾小路くんは小さく言った。
「お前と話す時間は、俺にとって特別だ」
それだけ言って、彼は自室へ戻っていった。
ドアが閉まったあとも、
ひなの胸の鼓動は止まらない。
綾小路くんが、自分を気にかけてくれている。
その事実だけで、世界が少し輝いて見えた。
恋の方程式は、まだ途中。
けれど確実に、
二人だけの答えへと近づいていた。