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「……ましゃきに、早く出逢いたかった」
ベッドの脇にしゃがみ、膝の上に置いてる両手を固く握りしめた橋本に近づき、無言のまま左手を掴んで、優しく両手で包み込む。
いろんな感情がない混ぜになってるせいか、橋本の左手はとても冷たかった。それをあたためるように撫でさすり、視線を合わせた。それが合図になったように、掠れた声で橋本が口火を切る。
「江藤ちんよりも先にましゃきと出逢って、恋に落ちたかった」
「はい……」
(陽さん、こんなふうに思っていたなんて。江藤ちんにヤキモチ妬きすぎだって言ったら、贅沢を言うなって叱られちゃうかもな)
「ましゃきのはじめてを、全部俺のものにしたい」
「はい……」
橋本が話すことは、どう考えたって無理なものばかりだったけれど、叶えてあげたいと切に思った。アニメや漫画の世界だったらそれがあり得るのになんて、くだらないことまで考えてしまう始末。
江藤よりも先に出逢っていたら、今はどうなっていただろうと考えていると、橋本の片腕が腰に回された。
「ましゃきの過去も今も未来も、全部俺のものにしたい!」
酔っぱらいの戯言の中に潜む橋本の心のうちの声は、宮本の中にある熱情を簡単に突き動かす。掴んでいる左手を引っ張って自分に引き寄せ、強く唇を重ねた。
「んぅっ、ましゃきっ」
「あ~もう! 陽さんかわいすぎます。どうしようもなくかわいい!!」
「かわいいなんて言うな、そんなガラじゃねぇって、なんろも言ってるらろ」
「かわいくて愛おしくて、すっごく大好き。過去はあげられないけど、現在と未来のすべてを陽さんに捧げます」
これ以上ぎゅっとできないくらいに、橋本の躰を抱きしめる。あまりの強さに、もがくような動きを止めるほどのものだった。
「ましゃき、苦しぃ」
苦しさから何とか脱しようと、身じろぎしながら告げられた橋本のセリフで、本当につらそうな様子がわかった。それでも、両腕の力をなかなか抜くことができなかった。
「こうしてずっと、俺だけのものにしたい」
「ぅ、んっ」
腰に回されている腕が、宮本の背中をばしばし叩いた。仕方なく、抱きしめる力をほんのちょっとだけ緩めてあげる。
「おまえ、今さら何を言ってるんら。俺はましゃきのものなのに」
橋本が小さく笑った感じが、空気に乗って伝わってきた。
「陽さんを誰の目にも触れさせたくない、いつまでも傍にいたい」
「俺もら……」
「もう我慢できない、手加減できないかも――」
言うなりベッドの上に押し倒し、スラックスからワイシャツを引っ張り出して、下から一気に引き裂いた。
「ウゲッ、おまっ、それ俺の仕事着らぞ!」
小さなボタンが四方八方に弾け飛んだ衝撃を表すように、慌てふためいた橋本が大声で叫んだ。
「我慢できないって、最初に言いましたけど」
「服を脱がすくらい、もっとおとなしくしろよ。荒々しくするなって」
「そんなの、ちまちまやってられません。江藤ちんに無駄なヤキモチを妬く陽さんに、俺の気持ちを知らしめたい」
ネクタイのノットに手をかけるなり力任せに引っ張り、衣擦れの音を立てて外す。
「ましゃき、怖い……」
さっきとは違う怯えを訴えた橋本を、冷静な目で見ることがどうしてもできなかった。
肌蹴た状態の上半身――上着とワイシャツ両方を身につけたままだったが、脱がす時間すら惜しかったのでそのままにし、外したばかりのネクタイでベッドの柱と橋本の両腕を括りつけた。
「やっ……、おまえこんなことして、なにするんら」
「手加減できないから、陽さんが逃げないように縛りました」
「こここっこんなことしなくても、俺は逃げない、ぞ」
橋本の震え声が、部屋の中に虚しく響く。それを聞いても、宮本の手は止まらない。人差し指を使って、胸の中央からゆっくり縦になぞる。
「ンっ!」
くすぐったさに身を捩る橋本の躰を押さえつけながら、ベルトを手際よく外した。
「陽さん、激しすぎて歯が当たったらごめんなさい」
「歯が当たっ、ちょっ、うぇっ!?」
橋本が抵抗する間もなく、はじまってしまった宮本からの容赦のない淫らな行為に喘ぐ以外、為す術がなかったのだった。