2026年1月、成人の日の翌日。
鈴鹿サーキットの歓声が遠くに響く丘の上の公園に、僕たち4人は集まった。
「本当に掘るんだな、これ」
リーダー格だった大樹(だいき)が、少し錆びついたスコップを地面に突き立てる。
「当たり前でしょ。10年前、あんなに大騒ぎして埋めたんだから」
華やかな振袖を脱ぎ捨て、カジュアルなコートに着替えた真央まおが笑う。
僕、航太(こうた)と、物静かな理恵(りえ)。10年前、小学校の卒業式を終えたばかりの僕たちは、この桜の木の下に「10年後の自分への手紙」を埋めた。
土の中から現れたのは、クッキーの空き缶。
蓋を開けると、湿った紙の匂いが鼻をついた。
「あ、これ俺の。字が汚ねえ……」
「私のはこれ。……恥ずかしくて読めない!」
それぞれが自分の手紙を手に取り、照れくさそうに笑い合う。しかし、最後に缶の底に残った一通の封筒を見て、全員の動きが止まった。
そこには、見覚えのない、でも透き通るように綺麗な字でこう書かれていた。
『5人目の私たちへ』
「……5人目? 僕たちは4人だったはずだよね」
僕がそう呟くと、理恵が震える指でその封筒を開けた。
中には、一枚の便箋と、小さな「鍵」が入っていた。
手紙には、ただ一行。
『2026年1月21日、鈴鹿の風が止まる場所で待っています。』
今日の日付だ。
4人の記憶にはない「5人目」の存在。しかし、その鍵を見た瞬間、僕たちの脳裏に共通の、けれど今まで忘れていた景色がフラッシュバックした。
放課後の図書室。窓から見える入道雲。そして、いつも一番後ろの席で、誰にも気づかれずに本を読んでいた、色の白い少女の姿。
「……嘘だろ。俺たち、なんで今の今まで忘れてたんだ?」
僕たちは顔を見合わせ、走り出した。
鈴鹿の風に背中を押されながら、失われた記憶のパズルを埋めるために。
(続く)






