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ワンダさんからはニコラさんの話を聞けたのでとりあえずよしとしよう。また必要があればその時に訪ねたらいいだろう。周囲からの注目を集めてきていたのもあり、これ以上店の前に陣取っていたら営業妨害になってしまいそうだった。
出店が立ち並んでいるところから少し離れると、休憩場のような開けたスペースがあるらしい。ワンダさんから了承を得て、テレンスとも話をさせて貰えることになったので、私たちは彼を伴って店から移動した。
「お待たせ致しましたー。はい、どうぞ」
「ありがとうございます、フェリスさん。キラキラして綺麗ですね」
「さくらんぼ飴ですよ。さくらんぼの酸味と飴の甘さが合わさってとっても美味しいのです」
休憩場に設置してある長椅子に私とテレンスは腰を下ろした。フェリスさんが出店でお菓子を買ってきてくれたので、ひと休みしながら頂くことにした。出店での買い物は次の機会にと諦めていたけど、フェリスさんが気を利かせてくれたのだ。
棒状の串にはさくらんぼが3個ほど刺さっていた。さくらんぼはパリパリの飴で覆われており、光を反射して輝いている。まるで赤い宝石みたいだ。見た目も美しく、初めて見るお菓子に心が躍った。
「いただきまーす」
ゆっくりとさくらんぼに口を付ける。口の中に飴の甘さがじんわりと広がっていく。それと同時に体から力が抜けていくような感覚がした。糖分を摂取してリラックスしたような気分になるなんて……思っていた以上に緊張による疲れが溜まっていたのだろう。
「甘くて美味しいです。テレンスもどうぞ食べてみて下さい」
「……俺はしょっちゅう食べてるからさ……別に珍しくもないし」
ぶっきらぼうな口調ではあるけど、テレンスは私の勧めを断ることはせずに飴を口に運んた。2人並んでさくらんぼ飴を食べる。彼の頬はまだ薄っすらと赤く染まっていた。テレンスの緊張も少しは和らいでくれるといいけど……
「それで、アンタは……いや、お嬢様は俺に何が聞きたいわけ?」
テレンスは『アンタ』という呼び方を慌てて訂正した。レナードさんがその単語にすぐさま反応し、テレンスに対して睨みを利かせたせいだった。
私個人としては呼び方なんてどうでもいいのだけど、そこはけじめというか……ちゃんとしておかなければならない所らしい。たかが呼び方ではあるが、レオンの婚約者である私が軽んじられているようにレナードさんは感じているのかもしれない。
「はい、実は……」
私はテレンスにも聖堂に来た目的を説明した。ワンダさんの時に話した内容とほぼ同じだけど、彼には施設の子供たちやバルカム司祭について語って貰いたかったので、多少切り口を変えることにした。
「……そのニコラという失踪した侍女は、頻繁に聖堂の懺悔室を利用していたのが判明しております。懺悔の内容が分かれば、彼女がいなくなった原因を突き止められると思ったのですが……」
「懺悔の内容っていうのは、絶対に他人に漏らしちゃダメっていう厳しい決まりがあるの。破ったら罰を受けてしまうから、神官たちは教えてくれない。だから私たちもお手上げ状態ってわけ」
フェリスさんは懺悔室の仕組みについては知っていたのかと、テレンスに向かって問い掛ける。彼はここまで私たちの話を静かに聞いてくれた。懺悔室の件が出てきたところで何か思うところがあったのか僅かに表情が変わった。私たちはそれを見逃さなかった。
「……知らなかった。教会に来る人の悩みをただ黙って聞いてればいいとしか思ってなかったよ。そんな罰があるだなんて……どうしよう」
テレンスの声が震えている。罰を受けるという話に怯えているのは明らかであった。
「テレンス、前に私に教えてくれたよね。司祭様の代わりに聴罪を行なっている子供がいるって……それが誰なのか分かる?」
「知らないっ……俺は何も知らないよ」
テレンスは今にもこの場から逃げ出してしまいそうだ。私たちは彼に危害を加えるつもりも、責めるつもりもないのだ。そこをしっかりと示さなければこれ以上彼から話を聞くことができなくなってしまう。それは困る。
「落ち着いて下さい、テレンス。さっき言ったように、私たちはニコラさんの失踪について調べているのです。それで、彼女と接触した人を探しています。規則を破った人を罰するためではありません」
「そもそも俺たちにそんな権限無いしね。もし罰を受けることになったとしても、それは代理をさせていた司祭の方だろ。子供たちは神官じゃないし、お咎め無しになるんじゃない?」
「そうだね。この件で子供に責任を問うのは難しいね。司祭側が持ちかけたことだろうし……」
クラヴェル兄弟が言うように、子供たちが罰を受ける可能性は低いだろう。罰と聞いてこんなにも取り乱しているということは、テレンスも司祭の代理をしていたのだろうか。
「ねぇ、テレンス。もしかしてあなたも懺悔室で司祭様の代わりに仕事をしていたの?」
「俺はやってない……でも、した事ある奴からちょっとだけ話を聞いたんだ」
罰は受けないと聞いて、テレンスは徐々に冷静さを取り戻している。私たちの質問にも再び答えてくれた。
「その代理をしていた子の名前を教えて貰うことは出来ませんか?」
「……それはちょっと」
やはりまだ罰則を受けるかもと気にしているのか、テレンスは名前を出すのを渋っている。フェリスさんがいるとはいえ、私たちを完全には信用しきれていないのだろう。そんな相手に知り合いの情報を渡すなんて……抵抗があるに決まってるか。
その代理をしていた子供が実際にニコラさんと相対したかどうかは定かではない。でもその人物を知ることで、更なる事実が明らかになるかもしれないのだ。ここで引き下がるなんてできない。私はもう一度テレンスの説得を試みた。