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超高層マンションの最上階。外は雪が舞い散る極寒の夜だというのに、怜也の私室は床暖房と加湿器によって、常に完璧な「怠惰の温室」として保たれていました。怜也は今、国民的女優・安田穂乃花の、保険金が数億円は下らないであろう国宝級の太ももを枕にして、大画面モニターに映るアニメのヒロインを眺めていました。
「……ねぇ、怜也。お耳、お掃除してあげましょうか?」
穂乃花が慈しむような手つきで怜也の髪を撫でます。その指先は、カメラの前で見せるどんな演技よりも優しく、献身的でした。
「あー……。いいよ、適当にやっといて。画面から目を離すと殺すからな」
「ふふ、わかったわ。あなたの視界を、私という『肉体』が遮らないように気をつけるわね」
怜也は、穂乃花の膝の感触を楽しみながら、ふと、モニターに映る「冴えない主人公」の姿に、数年前の自分を重ねました。
記憶の掃き溜め:中学時代の「ゴミ」な自分
(……そういえば、昔の僕は、今のこいつみたいに必死だったな)
脳裏に浮かぶのは、中学の教室の隅で、女子の視線を恐れて縮こまっていた自分。沢渡神奈に告白し、クラス全員の前で「あんたみたいな陰キャ、視界に入るだけで不快なんだけど」と吐き捨てられた、あの雨の日。
あの頃の自分は、女子を「神様」か「天敵」だと思い込み、一言声をかけられるだけで心臓をバクつかせていました。
「……馬鹿馬鹿しい」
怜也は、口の中に放り込まれた最高級のシャインマスカットを噛み潰しながら、独り言を漏らしました。
「あんなに怯えて、あんなに跪いて……。その結果、手に入ったのは絶望だけだった。……でも、今はどうだ。あの時僕を笑った神奈は、下の階で僕の明日のパンツを必死に手洗いしてる。そして、日本中の男が憧れる安田穂乃花が、僕の耳垢を掃除するために跪いてる」
「何か……昔のことを思い出していたの?」
穂乃花が、怜也の顔を覗き込まずに(視線を遮らないというルールを守りながら)問いかけました。
「……別に。ただ、女なんてのは、追いかければ逃げるし、踏みにじれば縋り付いてくる『欠陥プログラム』だって再確認しただけだよ。……あの頃の僕が、今の僕を見たらどう思うだろうな」
支配と停滞のメロディ
「きっと、誇りに思うはずよ。あなたは、すべての女性が夢見る『完璧な支配者』になったのだから」
穂乃花の言葉に、怜也は薄く笑いました。
アニメの中の主人公は、仲間と手を取り合い、汗を流して敵を倒しています。
「……汗臭いな。努力だの、絆だの。……そんな不確かなものに頼らなくても、僕にはお前らがいる。金と、権力と、お前らという『最高の道具』がね。……僕はもう、二度とあの中学時代の僕には戻らない。……一生、このソファの上で、お前らの人生を吸い尽くしながら、アニメを見てサボり続けてやるんだ」
怜也は、穂乃花の太ももを枕代わりにしながら、さらに深く沈み込みました。
耳元で聞こえる穂乃花の規則正しい鼓動。それが、自分という王を維持するための「エンジンの音」のように聞こえてきます。
「……穂乃花。アニメが終わったら、次は未久を呼べ。お前の膝の上で、あいつに子守唄を歌わせる。……僕は、一秒たりとも『退屈』という名の現実に触れたくないんだ」
「ええ、主様。あなたの夢が覚めないように、私が世界のすべてを『偽物』で埋め尽くしてあげるわ」
中学時代のトラウマを、冷酷な支配欲で塗りつぶした怜也。
彼は、国民的女優の温もりさえも「高性能なクッション」として定義し、今日もまた、現実という名の労働を全力でサボり続けるのでした。