テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
街外れの廃倉庫。潮風が錆びた鉄の匂いを運び、月光が隙間から差し込む。
そこには、十数人の男たちを引き連れた鮫島が、不敵な笑みを浮かべて待ち構えとっとった。
「……遅かったな、吾郎。子守に手間取ったか?」
俺は無言で歩み寄り、十歩手前で足を止めた。
眼鏡を外し、胸ポケットに丁寧に仕舞う。
視界が少し霞むが、目の前のハイエナどもの殺気は、肌を刺すほど鮮明に伝わってくる。
「……鮫島。ひまりに何かしようもんならただじゃ済まさんぞと言ったはずや」
「はっ!アホ抜かせ!極道が家族ごっこだと?笑わせるんじゃねぇよ。……野郎ども、やっちまえ!!」
鮫島の合図で、男たちが一斉に襲いかかってくる。
俺は懐から一本の短刀を抜き放った。
かつて「狂刃」と恐れられた頃の、澱みのない動きが体に蘇る。
ドスを振るう一人の腕を掴み、その関節を粉砕する。
返す刀で、背後から迫る男の太ももを斬り裂いた。
「……ガァッ!?」
悲鳴が響く中、俺は冷徹な機械のように、一人ずつ、確実に「無力化」していった。
「……何してやがる!数で押せ! 殺せぇ!!」
鮫島が喚く。
だが、俺の心には一点の曇りもなかった。
今、俺が振るっているのは、組織を広げるための刃やない。ひまりの「おはよう」を守るための、パパの牙や。
「……ハァッ、ハァッ……!」
最後の一人を叩き伏せた時、俺のコートは返り血で汚れ、肩には一筋の斬り傷が刻まれとった。
俺は血濡れた短刀を構え直し、奥で震える鮫島を睨みつけた。
「……次はお前や。…来い、鮫島。……ワシの過去を、ここで全て葬ってやる」
鮫島は腰の拳銃を引き抜こうとしたが、俺の投じた短刀が、あいつの手首を正確に貫いた。
「ぎゃあああああッ!!」
俺は鮫島に歩み寄り、その胸ぐらを掴み上げた。
「…聞け。ワシは、もうあの頃のワシやない。…守るもんがある男が、どれだけ執念深いか……その身に刻んで地獄へ行け」
俺が拳を振り上げた、その時や。
「……兄貴!! 待ってください!!」
倉庫の扉が開き、和幸と長治が駆け込んできた。
その後ろには……なぜかパパ友の佐藤さんが、警察官数人を連れて立っとった。
「……な、なんや、これは」
「兄貴、佐藤さんが……不審者が倉庫へ入っていくのを見て、警察に通報してくれたんすよ!自分らも、あいつの潜伏先を警察にリークしときました!」
佐藤さんが、震える声で俺に叫んだ。
「黒龍院さん! …あとは、あとは警察に任せてください! ひまりちゃんのためにも……」
俺は振り上げた拳を、ゆっくりと下ろした。
鮫島は駆け寄った警官たちに押さえ込まれ、恨み言を吐きながら連行されていった。
「……佐藤…っ」
俺は、再び眼鏡をかけた。視界がはっきりと戻る。
そこには、血生臭い復讐劇の終わりではなく、カタギの友人たちが差し伸べてくれた、新しい世界の光があった。
「…和幸。帰るぞ……」
俺は傷ついた体を引きずりながら、仲間たちと共に倉庫を後にした。
過去という名の亡霊は、今度こそ完全に消え去った。
俺の帰る場所は、もう闇の中やない。
朝焼けが街を照らし始めた頃。
俺は、ひまりの眠る暖かい「家」へと、一歩ずつ歩みを進めていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#シリアス
17
134