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「なあ、あんたはモンスターチルドレンの何を知っているんだ?」
「全てよ。そして、決して外に出てはならない大罪の力を持つ者たちが脱走したから、私はここに来た。ただそれだけよ」
「そうか……。けど、それは、あんたのせいじゃないのか?」
「たしかに、この件の責任は私にあります。しかし、今から言うことを聞いても、同じことが言えますか?」
「なに?」
「モンスターチルドレンが脱走した原因は吸血鬼型モンスターチルドレンナンバー 一の『強欲の姫君』が暴走したからです。彼女はその場にいた職員『百六十人』を原型がなんだったのか分からなくなるまで……殺しました」
彼は、それを聞くと呆れ顔でこう言った。
「人には誰にも言えない秘密の一つや二つあるもんだろう? それに、あいつらはまだ子どもだ。子どもに罪のなんたらを教えるよりも先に教えるべきことがあるだろう?」
彼女はその時、心の中で喜んでいた。
彼の考え方が高校時代と全く変わっていなかったからである。
どんな時でも諦めず、冷静で、それでいて馬鹿げたことを言う彼のことがずっと好きだった。
心の中で膨れあがる感情を抑えながら、アイ先生はこう言った。
「では、あなたはモンスターチルドレンたちに罪はなく、脱走を食い止めることができなかった私に罪があると言うのですか?」
彼は、キョトンとした顔をしながら、こう言った。
「おいおい、いったい誰がそんなこと言ったんだ?」
「はい?」
「あんたがいなければ、俺はここにいないし、あいつらに出会うことなく残りの人生を一人で寂しく過ごしていたと思う。だから、あんたもあいつらも一切悪くなんかねえよ」
彼女は、その答えに疑問を抱いた。なら、誰が悪いのか? と……。
しかし、一つだけ確かなことがあった。
「なるほど。人ではなく、今のこの状況を作り出した根源である『五帝龍』が悪いと、あなたは考えるのですね?」
彼は指を鳴らすと笑顔で、こう言った。
「ピンポーン! 大正解!! まあ、普通に考えれば誰でも分かるよな。少子高齢化をなんとかしたいなら『恋○嘘』の制度を導入したらいい。大罪の力を持つモンスターチルドレンたちをどうにかしたいなら、同じ大罪持ちか、それ以上の力を持つ何かと戦わせて、速やかに捕獲すればいい。そういう単純なことを見落としてるから今の社会は、うまく噛み合わないんだよ」
彼の発言を聞いた彼女は、思わず拍手をした。
「さすがは私の自慢の教え子ね。この世界では私以外、誰もその考えに至らなかったのに……。完敗よ、やっぱり、あなたは面白いわね。ナオト」
「やっぱり先生だったのか。まあ、何から何まで『白』しか着ないやつなんて先生ぐらいだと思ったよ」
「そうね。でも、あなたがここにいるということは当然……」
「ああ、あいつらもこの世界に来てるよ。まあ、俺が会ったのは『黒沢』と『小宮』の二人だけだがな」
「なるほど。でもまあ、そうでしょうね。あなたがいるところには、いつもあの子たちがいたもの」
「ああ、俺にはもったいない連中だよ」
こうして、二人は約十年ぶりに再会した。だが、ここからが本題だった。
「それで? あなたはこれからどうするつもりなの? あと、今あなたのところにモンスターチルドレンは何人いるの?」
「ん? えーっと、たしか『八人』だな」
「は、八人!?」
彼女は、その数の多さに思わず、そんな声を出してしまった。
「いきなりどうしたんだよ、そんな大きな声を出して」
彼女は、彼に重要なことを伝えた。
「いい? 本来、人間がモンスターチルドレンと契約できるのは『一人につき一体』なの。これが何を意味するのか分かる?」
「一人のマスターが契約できるのは一体までで、それ以上、増やそうとすると大変なことになるってことか?」
「正確には、マスターの権限が失われるわ」
「ん? それじゃあ、俺はどうして複数のモンスターチルドレンと契約できてるんだ?」
「分からないわ。でも、あなたは年上より年下にモテたわよね?」
「それはまあ、そうだな……って、それと俺が複数のモンスターチルドレンと契約できてるのと何か関係があるのか?」
「今のところはないわ。でも、もしかすると……」
「何か思い当たる事があるのか? 先生」
少しの間、彼女はモンスターチルドレンが誕生するまでの出来事を頭の中で再生していた。
だが、これといって重要な手がかりはなかった。
「いいえ、今のところはないわ。それで? あなたはこれからもその子たちと一緒にいるつもりなの?」
「ま、まあ、そうだな。あいつらを元に戻せる薬の材料を全部集めるのが目的だから」
「……そう。でも、おそらくその目的は……」
彼女は真実を伝えようとした。
だが、ここでそれを言ってしまったら、彼らの希望を奪ってしまう。
だから、彼女は口に出しそうになった真実を彼に伝えなかった。
「ん? 今、何か言ったか?」
彼女は首を横に振りながら、こう言った。
「いいえ、なんでもないわ。それじゃあ、私はもう行くわ」
「そっか。今度はもっとゆっくり話せるといいな」
「そうね。でも、その前に……」
彼女は、一瞬で彼に近づき、彼の背中に手を回した。
「せ、先生?」
「今から、今回の一件をなかったことにするわ。じゃないと後々、厄介なことになるから」
「お、おい、それって、もしかして……」
彼女は彼にしか見せない笑みを浮かべながら、彼の唇に自分の唇を近づけ始めた。
「せ、先生、じょ、冗談だよな? だって、俺たち、元生徒と担任なんだぞ?」
「だから何? 海外では単なるあいさつでしょ? 大丈夫。私に任せて」
「いや、でも、心の準備が……」
「ごめんなさい。今回はどうしても、そうしないといけないの……」
「先生、ダメだ。俺が今回のことをなかったことにしたら先生が辛くなる。だから、やめ……」
だが、彼の願いは叶わない。彼女の唇が彼の唇に触れる直前、彼女はこう言った。
「『ザ・メモリー』」
彼は覚悟を決めて目を閉じた。
しかし、彼女は彼の唇に触れる瞬間、その位置をずらした。……【おでこ】に。
この魔法は相手に触れていれば発動する。
しかし今回、彼女は自分の感情を少し抑えきれなかった。
彼のことになると彼女はいつもこんな感じである。
彼女の唇が彼の額に触れると、白き光が辺りを覆い尽くした。
「また会いましょう、私の……未来のお婿さん」
彼女は彼にも『ストップ』の魔法のかけたため、その発言の内容を彼は覚えていない。
彼女は彼の頭を優しく撫でると、笑顔でその場から離れた。
「今度会った時は……いいえ、今はまだこの気持ちはしまっておきましょう。その時が来たら、ちゃんと言えばいいのだから……」
彼女はクゥちゃん(グリフォン)にもかけておいた『ストップ』を解除すると、育成所に戻るよう指示した。
その後、彼女は完全に彼が見えなくなったのを確認してから星全体にかけた『ストップ』を解除した。(指を鳴らせば、解除できる)
「またね……ナオト」
彼女の笑みは、いつにも増して可愛らしく、美しかった。
それは、いつも真顔の彼女からは想像もつかないような【恋する乙女の顔】だった。
*
ようやく動けるようになったナオトは、誰かと会ったような気がするが、その確信がないという、なんともぎこちない気持ちになっていた。
その直後、彼はミノリたちと合流した。
「ナオト、あんた大丈夫なの? どこも怪我してない? 痛いところとかない?」
彼の体に異常がないか、あちこち確認するミノリ(吸血鬼)を彼は抱きしめた。
その後、優しく頭を撫でながら、こう言った。
「俺は別になんともないよ。心配してくれてありがとう」
ミノリは少し頬を赤く染めながら、こう言った。
「か、勘違いしないでよね! あたしは、みんなが行くって言ったから、ついて来ただけで……」
「私たちは、そのアホ吸血鬼が一番に部屋を飛び出したのを目撃《もくげき》しています」
「うるさい! 銀髪天使は黙ってて!」
「はいはい」
相変わらず、ミノリ(吸血鬼)とコユリ(本物の天使)の仲は悪いらしい。
だが、犬猿の仲だとは思えない。
「さあ、今日はもう疲れただろ? 一緒に帰ろう」
彼はそう言うと、ミノリを抱きしめるのをやめた。
「そ、そうね。ねえ、今日の晩ごはんは何がいい?」
「うーん、そうだな……じゃあ、魚の刺身と味噌汁と手巻きにしよう」
「分かったわ。それじゃあ、帰りましょう」
「ああ」
俺たちはアパートに戻ると、その三つの料理を作った。
____夜になると、俺はミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)をこちらに呼んで、コハル(湖の主)に会わせた。
ミサキとコハル。
亀と蛇が姉妹なのは、どうもしっくりこないが、再会を祝して宴を開いた。
『祝! 姉妹の再会!!』というものだった。なかなか楽しかった。
ミサキとコハルは、共にミサキの外装の中で住むことになった。
百合展開になりそうで少し心配だったが、ミサキには相手の行動を先読みできる能力があることを思い出したため、その心配はいらないなと思った。
ミサキとコハルが外装の中に入っていったのを見送ると、アパートに戻った。
その後、入浴・歯磨き等を済ませると、布団を敷いた。
今日も長い一日だったと思うが、逆にもう一日経ったのかー、早いなーとも思った。
そういえば、みんなはいつもどこで寝ているのだろう。
まあ、人の寝顔を見る趣味はないから、別にどうでもいいけど……。
俺はそんなことを考えながら、眠りについた。
____この時の俺は、これから起こる最悪の事態にまだ気づいていなかった。
これから起こることは決して誰にも想像できないし、予想もできない……。
まさか、あんなことになるなんて……。