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「どうかしたのですか?」
黙り込んで口をつぐむ私を気にして、彼が声をかける。
「……なんでも…」口にして笑おうとするけれど、泣きそうな気持ちが込み上げて、下唇をぎゅっと噛んだ。
「……どうして、そんなに辛そうな顔を?」
彼が足を止めて、私の頬に手を当てる。
「……なんでもないんです…本当に…」以前にも格差など感じる必要がないと諭されて、納得をしたはずだった。だから、こんなことで落ち込まなくてもいいと思うのに、そう思うそばから気落ちするのを抑えられなかった。
「言ってみなさい、私に」
低いトーンでそう促す彼に、
「……でも、」と、言いよどむ。また前みたいな話をして、彼を困らせたくもなかった……。
「言いなさいと、言っているでしょう? 君がそんな顔をしていると、私まで辛くなるのです」
「ごめん…なさい…」やや厳しくも聞こえる口調に咄嗟に謝ると、堪えていた涙が滲んだ。
「……泣かないで、ちゃんと言ってみなさい」腕の中にふわりと抱き寄せられて、「どんなことでも、受け止めてあげますから」胸に顔を押し当てられた。
「…………。……私には、あなたのお誕生日を、特別に祝ってあげられるようなこともできなくてと思って……」
途切れ途切れに話すと、
「そんなこと……」と、彼が口にして一蹴をした。
「さっきも言ったように、私には君といられることが、一番のプレゼントなので。だから……」
と、言葉を切って、私の頬を両手で挟んで見つめると、
「君がそんな顔をすることなどは何もありません。一緒にいられること、君が私のために考えてくれたこと、その全てがかけがえのないプレゼントでもあるので」
彼の言葉が、胸につかえていたわだかまりをすーっと溶かしていく。
「……ごめんなさい、私…」
もう一度謝ると、「いいえ」と彼は首を振って、「わかったのなら、それでいいんですよ」優しげに言って私の手を取ると、
「あの港の辺りまで、歩いてみましょうか」
と、手を繋いで歩き出した──。