テラーノベル
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ネットで「可愛い」って言ってもらうために作り上げた、愛されるためだけの完璧な造形物。
玲於さんは俺の言葉に少し目を丸くしてから、ふっと口元を緩めた。
「はは、そんなに?嬉しいです。ソラさんも写真以上に可愛いですよ。」
…可愛い、だって
これだよこれ
たったそれだけの言葉なのに、作り物の外見に向けられた賛辞なのに、頬が緩んで仕方ない
結局俺は、こういう言葉に縋って生きてるんだ。
地味で根暗な俺じゃ誰も、親すらも言ってくれない言葉
それが唯一満たされる場所
この「ソラ」でいる間だけもらえる愛
「えへへ…そんなこと言われたら照れちゃいます」
顔は笑って、もっともっと可愛く見られるように振る舞う。
「あの、早速ですけど、どこか行きます?お腹空いちゃいました~」
わざとらしくお腹を押さえて見せる。
玲於さんの瞳が、俺の作り物の笑顔の奥にある
本物の飢えを見抜いているかどうかは分からない。
でも、今は考えないことにしよう。
この時間が、少しでも俺の寂しさを埋めてくれるなら。
玲於さんの隣で、ただの姫野霄じゃない
「ソラ」として過ごせるなら。
「そうですね、予約してあるので行きましょう」
心臓の音を誤魔化すように、早口で次の行動を促した。
パパ活で慣れた立ち回り。
でも、相手が玲於さんだと思うと、そのミステリアスさに
期待と不安で胸がきゅっとなる。
そうして玲於に連れられて着いたのは
駅前にある小洒落たイタリアンレストランだった。
「俺が誘いましたから、代金は気にしなくていいですよ」
「えっ、でもそんなの悪いですよ!」
「いいんです。ソラさんにお会いできて嬉しいですから」
彼は当然のように俺に奢ろうとしている。
申し訳ないと思う反面、正直助かる。
玲於が知ってる俺と、今目の前にいる「ソラ」は違う
気づかれてない。
このまま「ソラ」として玲於と会えばもっと褒めてもらえるかもしれない。
パパ活でもたまに割り勘になることがあって
その度に「はぁ?」って思いながら笑顔で割り勘を受けいれた日もある
だから俺も割り勘より奢ってもらう方が気分はいい。
「じゃあお言葉に甘えて」
俺はにっこり笑って彼に促されるまま店内に足を踏み入れた。
そして玲於さんは予約していた個室席へと俺を案内した。
壁に沿って並んだ背の高い観葉植物が目を引く。
照明は控えめに抑えられていた。
(す、すごい…さすが玲於…)
席に向かいあって座り
玲於さんはメニューを手に取ると
慣れた手つきで開いて俺の方へ差し出した。
「さ、どうぞ好きなもの頼んでください」
「ん~、どうしようかなぁ……」
メニューを開いてみると
見たことも聞いたこともない名前の料理たちがずらりと並んでいて
文字の上に書かれた値段を見て一瞬固まった。
(……たっか……!!!)
「なにか気になるものあります?」
俺がメニューとにらめっこしていると
玲於さんが穏やかな声で尋ねた。
「……あっ……えっと……じゃあ……この……前菜盛り合わせで……」
俺は咄嗟に一番安い前菜を指差して注文した。
すると玲於さんはにっこりと笑って店員に声をかけた。
「あとは俺が適当に頼んでいいですか?ソラさん」
「お、お任せしようかな」
……数種類のイタリア産生ハム盛り合わせ…
これだけでも4000円なのに、やっぱりカリスマ美容師なだけあって稼いでるんだろうなと感心する反面
他のおじと同じように接したいのに身内ということもあって遠慮してしまう。
他にも和牛フィレのロッシーニ風(フォアグラ・トリュフソース)というのが6000円もしたり
パスタやリゾットなんかもあるが
まずロッシーニ風とかいわれてもさっぱり分からないし知らない単語が多すぎて、もはや注文終える前から目眩がしてきそうだ。
玲於さんは注文を終えるとメニュー表を定位置に戻し
「ここのティラミス美味しいので、食後の後に、と注文しておきました。」
と優しい声で言ってきた。
「嬉しいです…!俺ティラミス大好きなんです」
甘いものに目がない俺は思わず声を弾ませた。
すると玲於は微笑んで
「この間、DMでも好きって仰ってましたからね」と言った。
「えっ俺、そんなこと話しましたっけ…?」
「やだな、言ってましたよー、この間のDMで」
「そうだったかなぁ……」
俺が首をかしげながら返事をすると
玲於さんは楽しそうに笑った。
彼はそのままテーブルの上に置かれたグラスを手に取り、俺の方へ掲げて乾杯のポーズをした。
「今日は来てくれてありがとう。ソラさん」
「えへへっ、こちらこそ」
玲於さんに続いてグラスを上げると
お互いに軽くぶつけて乾杯をした。
グラスに口をつけ
中に入っているノンアルコールのモクテルを一口含む。
甘い香りと炭酸の刺激が喉を通り過ぎる。
美味しい、と呟きながらグラスを置くと、玲於さんは微笑んで俺を見つめていた。
その全てを見透かしたような瞳にゾクリとしたが、思い過ごしとして片付けることにした。
料理を食べ終えると、流れるように会計に移動する。
会計画面に目をやると、額は容易に2万は超えていて
「合計、24100円になります」
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