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オレンジタイフーン
オレンジタイフーン
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影人が羅刹との戦闘を繰り広げている頃から半刻程も前にさかのぼった時のこと…
影人の屋敷のちょうど斜向いにある一軒家。
影人の住む屋敷に比べれば…こじんまりとしてはいるのだが暖かそうな雰囲気の家である。
そこには影人の幼馴染みでクラスメイトでもある少女…光透波(ことは)のいる泉川(いずみかわ)家があるのだった。
そんな泉川家の台所から賑やかで幸せそうな声が聞こえてくるのであった。
トントントントン………とまな板と包丁がリズミカルに奏でる音楽。
小気味の良い軽快な音をたてつつも手際良く、テキパキと夕食の支度をする可愛らしいエプロンが似合う美人な姉妹の姿がある。
「ねぇ~…そろそろお母さんもお父さんも帰ってくるよ~ッ、急がなきゃ!」
そう言って無駄な動きが若干多く、ちょこまかと快活そうにパタパタと居間の食卓テーブルに皿や箸などを並べつつ、他愛もない世間話に花を咲かせているのが影人のクラスメイトでもある妹の光透波である。
おそらくは部屋着なのだろうが…彼女なりのお洒落が垣間見えたのである。
まず…動きやすそうで少しばかり大きめな膝丈の短パンなのだ。
その下にはポップでキュートな色調が印象的なボーダーのロングソックスを履いている。
ちょっぴり見え隠れする太股と健康的な膝小僧がチャーミングだった。
そして、彼女がお気に入りのおへそが隠れるか隠れないかギリギリの可愛らしいチビTを着ているのである。
夏休みを目前に控えた…今の季節で無ければ、ちょっと肌寒そうな格好だ。
彼女の肩くらいまで短く刈ったショートヘアーも黒目がちで子猫みたいにクリクリとしているが意志の強さを表したような少し吊り気味な瞳も…お転婆でじゃじゃ馬な男勝りの活発な彼女のイメージを即座に連想させ、印象づけさせるものでもあった。
ボーイッシュでありながら、それでも女性として魅力的なのは…そもそもが美人であったからだろう。
「あ、光透波、
さっき…電話があってね、今日もお店が忙しいから、帰ってくるのが遅くなるからって!
………お母さんから」
ことこと…と美味しい湯気を上げながら煮込まれている肉じゃが。
その鍋の様子をひたひたの出汁の中で漂う落とし蓋をひょいと摘んで伺いながら姉の楓(かえで)は妹に、そう告げるのである。
二学年上の姉の楓は…妹とは印象がまるで違ったのだった。
多少というか、かなりのんびりとしていて、ほんわかと落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
そのせいか実年齢より大人びて見られる。
スーパーなどでも、美人な奥さん…と声を掛けられる事も多くて、その度にもじもじしながら…顔を上気させて照れてしまうのだった。
のほほんとした天然な感じに見られがちなのだが、その実…泉川家で一番のしっかり者で倹約家でもあり家事全般ならプロ並みの腕である。
いい人さえいれば何時だろうと嫁に行っても良いし、旦那となる人は幸せ者だね…と誰からも太鼓判を押される程である。
彼女の着ているシックな白のブラウスは胸元のボタンが外してあり…
豪快に腕まくりされて台所でもスムーズに動きやすくしてある。
夕闇を思わせる濃紺のロングスカートもシンプルな出で立ちではあるが満月みたいなお尻のラインも素敵だった。
艶やかな彼女の自慢の長い黒髪も質素なデザインと暖色系のヘアバンドでアップにしてあり…調理しやすく整えているのである。
幾分、発育途上であると光透波本人も心から信じる控えめな胸に比べると…
ロケットみたいに飛び出した迫力のある肉感的で生意気な楓の巨乳は、キュッと無理矢理に締め付けられたエプロンで多少、窮屈そうだったのである………
そんな楓は…事実、影人にとっても実姉のような存在であり、彼が密かに想いをよせる存在でもある。
それはいつの頃からであろうか…女手の無い黒鋼家に何かと世話を焼いているのである。
松っつんと梅ちゃんからは悪い虫との評判だった。
今日も影人の好物である肉じゃがと手作りの焼きプリンを届けに行こうかしらと考えているのである。
彼女の父親が細々と経営している喫茶店は…
豆にとことんこだわり、コーヒーの深い薫りとオリジナルなブレンドの絶妙な味わいをリーズナブルな価格で老若男女、全ての世代に楽しんで貰おうとの思いから…
なんと店内を全て禁煙にしてしまう程、彼の哲学と信念を貫くのであるが…
故に、少しばかり頑固な喫茶店であった。
そんなこだわりが気に入ってくれる常連も少なくない。
コーヒー通の憩いの場であった。
最近は…近場に出来た外資系の巨大なショッピングモールのせいで、すっかり寂びれた商店街。
その片隅に…ポツリと佇んでいるのではあるのだが、光透波の母が趣味で作りはじめていた可愛らしいスイーツも大人気で寂びれた商店街にある喫茶店にしては賑わっている方かも知れない。
頑固な喫茶店に似つかわしいファンシーな動物ケーキやフリーズドライのいちごに生のいちごも盛りだくさんなハートのいちごプリン等は帰宅途中の女学生に大人気だった。
コーヒー一本でやりたい父親には不満もあるが、やっぱり女房には頭が上がらないのが、ここのところのご時世なのだ…
うむ…男はつらいよ。
そんな料理研究家みたいな母の影響もあり…楓は料理を作るのが楽しみであり、大得意であった。
さてさて…和食万歳ッ!!という言葉が相応しい料理もズラリと全て完成したのである。
…後は、両親の帰りを待つばかりとなっていた頃、突き上げるような地震かと思われる激しい揺れと爆音が響いたのだった!
「な…何よ、これぇッ!?」
不安げな表情で…光透波が言うと、楓は静かに唇を動かし…自分へ言い聞かせるように、こう言った。
「ん…きっと、影人ちゃんが目醒めたのよ………」
楓は…混沌としたオーラを肌でひしひしと感じ取ると凄く嫌な予感で胸が張り裂けそうに苦しくなる。
しかし…震える妹の肩をそっと優しく抱きしめて話を続ける。
「私の中のもうひとつの魂が教えてくれるの…
え~と、覚えていないかもしれないけれどね………
あなたも…まだ覚醒していないとはいえ能力者のハズだから感じられるよね
今の影人ちゃんを助けられるのは私達だけだわッ
急がなきゃ…わかるわよね………」
カーテンをサッと開けて、巨大な炎の柱が空を裂き、闇夜を照らす光景を見つめた……
楓は…左胸に輝く小さな向日葵の入れ墨が共鳴するようにドクンドクンと明滅し、じわじわと熱くなっていくのを感じていた。
光透波には…姉の口から出た意味不明で不可解な言葉の数々や、影人の屋敷が夕焼けみたいに真っ赤に燃えている光景を前に…ただ呆然とするばかりである。
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