コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
カーン、ガンガンッ! ゴロッ!
「おおっ! 良いじゃないっ!」
カンカン、ゴッゴッ! ガラガラッ!
「むふぅ♪ 順調順調~♪」
流石は優し過ぎる感じの村人たちから譲り受けたハンマーとノミである。
レイブの予想を越える成果で通路拡張が進んでいる事が窺(うかが)い知れた。
通路の外で心配そうに成り行きを見守っていたギレスラとペトラも笑顔を浮かべて安堵の息を吐こうとした、その時。
「あ、あれ? ここ…… 何か硬いな? え、えいっ! あ、ああああっ!」
『レ、レイブ! ド、ドウシタ、ノ?』
何やら不穏な言葉に叫んだギレスラの声に答える事無く、後ろ向きにズリズリ戻ってきたレイブは、両手に持っていたハンマーとノミ、の、残骸らしい物を掲げて弱ったように答える。
「何かね、ビシャンもハツリノミもね? グシャリッ…… だってさ…… どうしようか……」
『ア、アウ……』
『グシャリ? この通路ってぇ、硬いのね……』
「ぐすり……」
言葉の通り石を穿(うが)ち整形する、それ専用に作られた筈の硬くて堅い槌(つち)とノミは、それこそ熱々の飴細工かの様にグニャリと変形してしまっていた。
まだ子供で物を知らないレイブ達から見ても、今後物の役に立つようには見えなかったのである。
涙目で固まりつつ、両手に持った元何かの道具だった物を見つめ続けているレイブにギレスラが声を掛ける。
『ドウスル? レイブ』
ペトラは無言である。
暫(しばら)く両手の中の物を見つめ続けていたレイブは、やや置いてから答えた。
「うん、取り敢えず今日は寝ちゃおうか、ほら、寝て起きれば全部解決しているかもしれないじゃない?」
『ウ、ウン』
『……』
スリーマンセルは眠りに就いた。
それぞれが納得しているかどうかはともかく、今日の終わりを迎える事にしたのである。
因みに……
この件で、通路を構成していた硬過ぎる鉱物の名称は、ロンズデーライト…… 隕石由来の炭素の六方晶系、強固な結晶構造を持つ同素体である。
加えてバラしてしまえば、遥か昔、このユーラシア大陸の中心から僅(わず)かに東にずれた位置、皆さんに判り易く言えばロシア連邦ヤマロ・ネネツ自治管区のウレンゴイ、その場所に着弾した隕石の名は『バアル』である。
神殺しの名で広く知られる序列二位の魔神の周囲を覆っていた隕石が飛び散り、この岩窟の大本になる穴を穿(うが)ち、通路の途中に留められた物が、『硬さ』の理由だったのだが……
まあ、そんな物を人間の道具で破壊するとか…… モース硬度的に言えば十を誇るダイヤモンドの軽く五割り増しなのだからぁ…… 何て事は、今、ふてくされて仕方なく眠りに落ちたレイブ達スリーマンセルには知る由も無い事だったのである。
当たり前の事ではあるが、寝て起きて何かが好転している筈も無く、頼りの石工道具を失ったレイブは、翌日からやる事も無く、当初予定していた数倍の時間、つまり食事と水汲み以外の日中全てを、魔力操作訓練に費やすハメとなったのである。