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羊と亀のお遊戯会
515
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空蝉 桜
136
おきつね
101
57 ◇一観客として心から楽しむ
百子は試写会を観終えた後、コミックを描いてくれた作家に対して
山下に対する羞恥心から恨みがましい気持ちになったものの、やっぱりプロの先生は
すごいのねぇ~と感心するばかりだった。
ところどころ自分が書いた筋を変えて書いているのだが、それは絶妙で
作品のレベルがupされているのは間違いないと思えたからだ。
なんか、よかった。
一観客として心から楽しめた。
感傷に浸っていると横に座っている人から声が掛かる。
「終わりましたね。よい仕上がりになっていて見応えありました」
「はい。こんな素敵な作品になっていて感激です。
もう自分の原作だとかそんなこと忘れて夢中で観ちゃいました」
私たちは一言二言そんな風に言葉を交わした後、感動に包まれたまま
他のゲストたちと一緒に館内を出た。
山下さんは劇場から駅までの道のりの間、何も話し掛けてこなかった。
私も映画の余韻に浸っていたくて、頭の中を先ほどの女優さんたちや
俳優さんたちで埋めたまま黙々と歩いた。
それなのに駅に着いた途端、現実に戻ると寂しさがじわっと湧いてきた。
そう、頭の中が現実モードに切り替わり、そういえばもうこの先山下さんと
会うこともないのだと思うと残念な気持ちになってしまった。
「石田さん、じゃあここで失礼します。
今年も残すところ2か月を切りました。
良い年を迎えられるよう、元気でいてくださいね……じゃぁ」
「はい。山下さんもお元気で。
また我が家の近くを通るようなことがあれば気軽にお立ち寄りください。
美味しいコーヒー、淹れますから」
「石田さんの近所に外回り先があるといいのですが……。
ありがとうございます。
その折にはぜひお邪魔させていただきます」
「「さよなら……」」
58 ☑◇期待はMAX
石田さんが声を掛けてくれたのが社交辞令だということくらい
分かっているが嬉しかった。
ほんとに気がきいてやさしい女性だ。
ほんとにもう一度コーヒーを淹れてもらえる日がくればいいのに、と
思いながら……しかしそんな日が来ないことも分かっていて、少し切ない
気持ちを抱えて帰路についた山下なのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
一方百子のほうでも、もう山下との会う目的がひとつもなくて
なんだか寂しく切ない気持ちになるのだった。
投稿サイトへなんとか書けたオリジナルの作品を投稿したら、また
山下は読んでくれるだろうか……。
そんな詮無いことまで考えてしまうほどに。
――――――――――――――――
私は過去に恋愛の本を読み、一度だけ唖然させられたことがある。
既婚者で小さな子供のいる女性の話だった。
義父、義母、夫。
夫は義両親に対して上手く立ち回ってくれず妻が困っていても
『親に悪気はない』というだけで放置プレイ。
夫婦生活も言わずもがなで自分勝手な行為で毎回終わる。
日常の何もかもに嫌気が刺す妻。
そこへ昔学生時代に付き合っていた男性との再会があり、
付き合いが復活する。
当時女性は将来もずっと一緒にいられればというぐらいその男性のことを
恋慕っていた。
だが、ふたりの交際はそう長くは続かなかった。
モテる男にありがちなちょっとした浮気があったためだ。
女性がそれをモロに鉢合わせという最悪な形で知ることになってしまい、
ふたりの関係はそれきりになった。
好いていた分だけ、女性は男をどうしても許すことができなかった。
それはそんな思い入れのある懐かしい人との再会なのだ。
昔の恋人と身体の関係になるのは早かった。
元彼はとにかく性技に長けていて、女は蕩けるような至福の時間を
持つようになる。
幼稚で稚拙な自分本位の夫とは比べようもない。
かゆい所にまったく手が届かないのが夫だった。
しかし、女は離婚とか男との結婚とか、そんなものは考えていない。
短い期間とはいえ濃厚な付き合いがあり、そしてそのあとの男の裏切りで
会わなくなり、もう自分の人生と交差することもないと思っていた
男性との再会は、息苦しいだけの女の人生に彩を与えた。
ふたりは逢瀬を重ねる。
女は夫に対して罪悪感など微塵も持たない。
だが、ただ幸せな時間はそう長くは続かなかった。
魅力的な男は病魔に襲われるのだ。
ここまで読んで、私の期待はMAXになる。
☘59 ◇時の流れ
旦那さんとは別れて再開した男の人と一緒になるよね?
子供連れて家を出るよね?
ほぼほぼ結末の見える期待を胸に私は読み進めた。
……なんと、女は男と別れ家族の元へと帰って行くという物語は
女がそう決めたところで終わった。
『なんでだー、納得できない~』心の中で叫んでいた。
人それぞれだとは思うが、私は物語の最後はハッピーエンドが好きだ。
だからこの物語の終盤で頼りない自分勝手な夫の元へ帰って行く女に
どうしても同調できなかった。
だけど、現実問題で考えてみれば女のとった行動こそが、作者が考え抜いた女の
結論の出し方こそが正解なのかもしれない。
子供を連れていれば尚更に。
読了後は納得できずにいたものが、時間の経過と共に……
自分の経験値と共に……
納得できたりすることもあるのだなと思う。
――――――――――――――――――――
◇時の流れ
映画を観て触発されたことや、昔読んだ小説を思い出したりして、百子は題材を探して
また小説を書き続けようと決意した。
そして百子は翌年も小説を書きまくり、合間に洋裁やスイーツ作りにも
時間を割いて一年を過ごした。
そのようにして時は流れ……。
伸之が家を出て行くことになり二人の間で離婚の話し合いがなされた時から
5年ほどの月日が経ち、伸之と百合子の間に生まれた子ももう5才になろうとしていた。
あの頃14才と12才だった娘と息子も19才と17才になり
百子も44才になっていた。
後少しで娘は成人を迎え息子も18になる。
子供たちの年齢を鑑みてもここが別れ時かと思う。
◇ ◇ ◇ ◇
約束の離婚届けを出す期限は刻々と近づいていただが、2019年、
この年の暮れに中国の武漢で始まった悪夢のCO○○D―19
コロ○○イルスの出現ニュースに百子は何やら運命的なものを
感じずにはいられなかった。
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※某投稿サイトで2020年に禁止用語として通告されていましたので
念のため、伏字にいたしました。(Googleからの通達ということです)
コメント
1件
試写会後の百子と山下さんの別れ、ああいう「現実モードに切り替わった瞬間の寂しさ」ってすごく共感します。映画の余韻が冷める前に、社交辞令で終わる関係の切なさがじんわり来ました。あと、途中に挟まれた既婚女性の恋愛小説の話――「ハッピーエンドが好き」と言いながら、時間が経ってからあの結末を納得できるようになる感覚、すごく分かります。読者の経験値で作品の捉え方が変わるって、本当にそうだなと。時間の流れとともに変わっていく百子の心情も、このエピソードでまた一段深まった気がしました。次の展開が気になりますね!