テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
3,301
#異世界転移
新城かいり
976
猫とろ
382
桃下結衣
201
すらりとした身長にベストの洋装姿。銀幕の俳優、美男子と言っても良い風貌なのに、凪はいつも私だけに岩の隙間から覗くような、陰湿な視線を送っていた。
外に向ける顔と私への態度は違って、私は大変苦手だった。
今や凪はその陰湿さを隠すこともせず、弱者をいたぶる優越心に浸っているように見えた。
しかも凪が身に付けている、金の腕時計に金の懐中時計の鎖がズボンから、これ見よがしに光っているのが目に付く。
ギラリと輝く装飾品の光で、いつもより嫌味に見えて私は視線を畳へと移した。
そこには先ほど無理やり飲まされた、空の青い薬瓶が転がっていた。
知らない青い瓶。これは凪が所属する軍の薬だろうか。考えを巡らすと、喉と頭が刺すような痛みに襲われて思考がバラバラと散らばる。
「い、痛い……」
声を発すると喉が酷く痛んで、咳き込んでしまう。涙で目が霞み、転がる青い薬瓶の輪郭すらぼやけてきた。
「真那。しんどいよね? でもこれは全て君のためだ。我慢しようね。それにぃ、君は逃げ出したけど、ある手柄を立ててくれたから、この程度の仕打ちにして上げてるんだよ」
クスクスと笑う凪を見て『手柄』とは何だろうと思う暇もなく、咽喉痛と頭痛、悪心が一気に押し寄せてきた。
叩き込まれた医療の知識が苦痛の原因を探そうとしたが、考える余裕などなかった。
「あっ、……く、ぅっ」
「あぁ、素敵だ。君の鳴き声は|人魚の歌声《セイレーン》のようで、ゾクゾクする」
背筋を這い上る悪寒。冷や汗。私は体をくの字に折り曲げ、脂汗が浮く額を畳にざりっと擦り付けた。
「大丈夫。これは普通の人間が飲むと劇薬だけども、君は今みたいに倒れるぐらいで済む。さすが回復力に特化した、人魚の血を引く稀人だけはある」
劇薬……そんなものを飲ませるなんて、恐ろしい人だ。
何か言い返したいのに、また咽せてしまう。
「そうそう。君と僕との結婚だけどね、真那は結婚が嬉しすぎて、興奮して気が触れてしまった。それで森に迷い込んで、正気を失って倒れてしまった──ということを、ちゃんと皆に伝えてあげたからね。お仕置きが済んだら今度こそ、ちゃんと夫婦になろう」
あなたと夫婦なんて嫌だ。
嘘ばっかりいわないでっ。
嫌だと首を横に振るが、凪は全く気にすることなくペラペラ喋る。
「真那、そんな涙目で僕を見ないでくれ。僕と夫婦になれる嬉しい君の気持ちはわかったから……もう気が触れないように、痛みをこうして感じていたら気が触れる余裕もないだろ? ククッ」
私は気が触れてなんかいない。
真実をなぜねじ曲げるのかと、悔しくなる。
あなた達、東堂家は医療の家系。
私の遠縁にあたる。
私が両親を亡くしたことを切っ掛けに、私を保護して、人魚の力を医療の現場に役立てると言うから長年協力してきた。
私は稀人だから、人とは違うから。
東堂家の冷たい扱いにも納得はしていた。
人の為だと言われて寝る暇もなく、医療知識を徹底的に仕込まれたことも受け入れた。
それは全て、人の役に立つと信じていたからだ。
人の役に立つと信じて差し出した血。
軍事医療に長けて、私と遠い親戚の東堂家ならば、活かしてくれると思ってしまった。
そして──婚姻を結ぶと急に言われたとき、書斎の奥で《《それ》》を偶然見てしまったのだ。
それとは──兵器開発報告書、と表紙に書かれた分厚い書類の束。
そこに並ぶのは私の名前と血液番号だった。
その他にも報告書で、医療の技術と知識を富裕層だけに使用していたことを知ってしまった。
その知った時の苦渋を思い出し、凪を見上げるが凪は「真那をもっと、早くこうしておけばよかった」とニヤニヤ笑っているだけ。
だから私は逃げ出した。
私は東堂家の『私の力が人々を助ける』と言う、甘言を盲目的に、長年信用してしまっていた馬鹿な自分に絶望してしまった。
なんて愚か。
東堂家にも自分への浅はかさにも、怒りで目の前が白く染まった。
その上で、私が真相を知ったからこそ、逃げられないように東堂凪は無理やりな婚礼を進めた。
しかし、こうして生きて戻ってしまったのなら、東堂家のいいなりには、二度とならない。
凪と絶対に夫婦になんかならない。
もう、生きることを諦めない!
コメント
1件
うわ、めっちゃ重かった……でも心にグサッときたよ。 真那、両親亡くして東堂家に頼るしかなくて、それで“人のため”って利用されてたんだね…… 知った時の絶望とか、凪の陰湿な優越感の描き方が生々しくて、読んでて胸がギュッとなった。 でも最後の「もう、生きることを諦めない!」って決意、すごく力強かった。 その覚悟、ちゃんと信じてるよ、真那……!