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春。
ライは高校一年生になった。
そしてマナは中学二年生になった。
三歳差。
今までも変わらなかったはずのその差が、急に大きく感じられるようになった。
⸻
高校へ進学したライは忙しくなった。
新しい友達。
新しい環境。
新しい生活。
もちろん、マナとの関係がなくなったわけではない。
朝に顔を合わせることもある。
休日に少し話すこともある。
けれど。
「前より会わなくなったな……」
マナは自室の窓から隣の家を見つめた。
昔は毎日一緒だった。
学校も同じだった。
帰り道も一緒だった。
それが今は違う。
当たり前のことなのに、少し寂しかった。
⸻
そんなある日。
ライが珍しくマナの家を訪ねてきた。
「マナー」
玄関から聞こえた声に、マナは慌てて飛び出した。
「ライ!」
「今度、文化祭あるんだけど」
「うん」
「来る?」
マナは目を輝かせた。
「行く!」
即答だった。
ライが笑う。
「だと思った」
⸻
文化祭当日。
マナは朝から落ち着かなかった。
ライの高校に行くのは初めてだ。
受付を通り、中へ入る。
高校生たちの賑やかな声。
教室の飾り付け。
中学生とは違う雰囲気。
そして。
「マナ!」
聞き慣れた声がした。
振り返る。
ライだった。
高校の制服を着ている。
中学の頃より少し大人っぽく見えた。
思わず見惚れてしまう。
「どうした?」
「いや……なんでもない」
慌てて目を逸らした。
⸻
「こいつ、マナ?」
後ろから声がした。
振り向くと見知らぬ男子が立っていた。
「赤城ウェン」
ライが紹介する。
「隣の家のマナ」
「へえ!」
ウェンは笑った。
「噂の」
「噂?」
「なんでもない」
ライが即座に遮る。
ウェンは面白そうな顔をしていた。
⸻
その後もライの友達を紹介された。
小柳ロウ。
叢雲カゲツ。
星導ショウ。
みんな気さくで優しい。
「マナくん可愛いね」
ロウが笑う。
「小動物っぽい」
「それ褒めてる?」
「褒めてる」
そんな会話にみんなが笑う。
楽しかった。
本当に。
だけど。
⸻
少しだけ気になることがあった。
ライが楽しそうなのだ。
自分の知らない友達と。
自分の知らない話をして。
自分の知らない顔で笑っている。
当然だった。
高校生活なのだから。
でも。
マナは胸の奥がざわつくのを感じた。
⸻
文化祭の途中。
ライが女子生徒に呼び止められていた。
「伊波くん!」
「ん?」
「手伝ってくれてありがとう!」
「別に」
楽しそうに話している。
マナは思わず目を逸らした。
面白くなかった。
理由は分かっている。
嫉妬だ。
⸻
「分かりやすいなあ」
突然後ろから声がした。
振り向くとウェンがいた。
「何が」
「嫉妬」
マナは固まる。
「違うし」
「違わないだろ」
ウェンは笑った。
「ライが他の人と話してるの嫌なんだろ?」
図星だった。
何も言い返せない。
⸻
「まあ安心しろ」
ウェンは続ける。
「ライ、昔からお前しか見てないから」
「……え?」
「おっと」
ウェンは口を押さえた。
「今の忘れて」
「何それ」
「秘密」
そう言って逃げてしまう。
残されたマナの心臓だけがうるさかった。
⸻
文化祭が終わり、帰り道。
ライと二人で歩いていた。
久しぶりだった。
昔みたいに並んで歩くのは。
「楽しかった?」
ライが聞く。
「うん」
本当に楽しかった。
だけど。
少しだけ寂しかった。
「ライさ」
「ん?」
「高校楽しそうだな」
ライは少し笑った。
「まあな」
その返事を聞いて胸が痛くなる。
ライはどんどん前へ進んでいく。
自分の知らない場所へ。
自分の知らない世界へ。
置いていかれそうな気がした。
⸻
家の前に着く。
「じゃあな」
「うん」
ライが家に入ろうとする。
その背中を見ながら、マナは思った。
高校生になったライは遠い。
隣に住んでいるのに遠い。
でも。
それでも好きだった。
昔よりずっと。
⸻
その夜。
ベッドに寝転びながら文化祭のことを思い出す。
楽しそうに笑うライ。
友達に囲まれるライ。
そして。
ウェンの言葉。
『ライ、昔からお前しか見てないから』
あれはどういう意味だったのだろう。
考えれば考えるほど眠れなくなる。
一方その頃。
隣の部屋では。
ライもまた、文化祭でのマナの姿を思い出していた。
昔より大人になった横顔。
少し伸びた身長。
変わらない笑顔。
そして。
自分を見るたびに嬉しそうにする顔。
ライの恋心もまた、消えるどころか大きくなり続けていた。
二人とも気持ちは同じ。
けれどまだ、その想いは伝わらない。
紗
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コメント
1件
もう…青春の切なさが染みるわこの話。 ライが高校行ってから自然と距離ができていく感じとか、文化祭で「自分の知らない顔」を見てしまうマナの気持ち、すごくリアルだった。 ウェンの「ライ、昔からお前しか見てないから」は反則でしょ…思わずにやけたわ。 両片思いなのにすれ違う感じ、早くくっついてほしいけど、このじれったさがまたいいのよ。続き楽しみにしてる🔥