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「というわけで、鬼人族の方々の助太刀を
しまして―――
さらわれた人たちは全員取り返しました」
私はドラセナ連邦の奴隷狩りから、拉致された
人たちを救出した事を、鬼人族の里の長の家で
報告する。
「此度のご助力に感謝する」
「シン殿には、本当にお世話になりっぱなし
どすなぁ」
座っていても、一メートルと五・六十センチは
ありそうなヤマガミさんと、
立てば二メートル近くはあると思われる
シャーロットさん、長夫婦が対応し、
「ドラゴンであるアルテリーゼ様の協力も
ありまして、迅速な対応が出来ました」
「またドラセナ連邦からは賠償として……
高価そうな物を提出させましたので、
それは襲われた集落への復興費用として
置いてきました」
同行したシシマルさんとツバキさんが、
補足するように説明してくれた。
「しかし、ずいぶんと何ていうか―――
穏便に済ませた感じだね」
「船くらい破壊するものだと思っておった
からのう」
メルとアルテリーゼが意外そうに話す。
今回、集落の人たちを誘拐したドラセナ連邦の
船から、金目の物を差し出させる事で手打ちに
したのは、鬼人族たちの考えだ。
もし皆殺しとか言い始めたら止めるつもり
だったのだが、あっさりと現物で解決した事に
自分も少々驚いていた。
「さすがに本格的に事を構える気はない。
それに、鬼人族に被害が出たわけでは
ないからのう」
「パチャママがさらわれたままだったり、
鬼人族の誰かが殺されたのなら、全面戦争まで
いった可能性はあるんやけど……
そもそも数の上で連邦とは差がありすぎる
さかいに」
トップとして、冷静に戦力差は受け止めて
いるようだ。
舐められない程度に出せる物は全部出させて
責任を取らせ―――
向こうも人さらいの現場を突き止められた
以上は、無理難題とは言わないだろう。
「それで、何ぞめぼしい物、交易したい品は
見つかったか?」
「いっそ全部持ち帰りたいくらいです!
海苔も昆布もかつお節も……!
海産物は出来る限りどうかお願いします。
あと出来れば技術者、料理人の派遣も」
長の言葉に、頭を下げながら返す。
「『かえし』も『たまり』もありませんでした
からねえ―――
それ以前、醤油が二週間で出来ると聞いて、
驚きましたけど」
公都『ヤマト』の経験者であるツバキさんが、
遠い目をしながら話す。
醤油は鬼人族の里でも作ってはいるが、やはり
その精製に二・三年はかかるとの事。
ちなみに『かえし』とは醤油・ミリン・砂糖を
混ぜて作った調味料で……
『たまり』とは昔ながらの醤油で、ほぼ大豆
のみで作る、味噌玉を一年以上発酵させて作る
ものと、
単に味噌を作る際、その容器の底にたまる
汁の二つがあるのだとか。
詳しくはわからないが、鬼人族の調味料としては
基本中の基本で、広く使われているらしい。
「こちらとしても先にいろいろと教えて
頂きましたし、派遣する料理人も技術者も今、
選定中どすえ」
長の奥さんからも前向きな答えが聞かれ、
私はホッと胸をなでおろす。
「ところで……
フィリシュタさんの姿が見えないんですけど、
彼女はどこに?」
そこで妻たちも続いて、
「そーいやそーだね」
「ラッチも見当たらないのだが」
するとヤマガミさんが頭をかいて、
「多分、相撲をしておるのではないかと。
みんな、シン殿が持ってきたアレを見て
刺激を受けたようでのう」
「映像記録用の魔導具どすか?
あらほんまにすごかったどすわぁ。
フィリシュタ殿が見してくれたんどすけど、
もうみんな居ても立ってもおられず―――
飛び出して行ったさかいになぁ」
長夫婦の言葉を聞いて、家族で顔を見合わせる。
「獣人族の『神前戦闘』……
プロレスというんですか?
こちらに戻る船の中でも見ましたが、
いや、アレはすごかったです!」
「我々も公都で見てきましたが、
本当にその場にいるように見て取れました。
神に奉納する戦いなら鬼人族にも相撲が
ありますので、それで触発されたのでしょう」
シシマルさんとツバキさんも、やや興奮気味に
語る。
そう―――
実はこちらに来る前に、王都・フォルロワで
獣人族の神前戦闘の選手たちに協力してもらい、
PVみたいなものを作ったのだ。
とは言っても編集機能のようなものはないので、
手動編集というか、選手たちに次々に技を決めて
もらうような形になったが。
さらに音楽も激しい楽曲に合わせるようにして、
『神前戦闘』のPVが出来上がったのである。
これを作った理由はいくつかあるが、一つは
ランドルフ帝国による亜人の奴隷制を改善させる
ためのもので、
亜人の中では特に多い種族である獣人族を、
『カッコよく』見せる目的で作ったのである。
またランドルフ帝国では、『闇闘技場』
なるものがあったが……
あのような殺し合いや血生臭いイベントを
しなくても、魅力的なエンターテインメントは
可能だという事を知って欲しかったのだ。
「しかしあれは本当に面白いのう。
一度、獣人族の選手と手合わせしてみたい
ものだ」
「女性は出てはあきまへんか?
鬼人族にも女角力はあるんやし、
フィリシュタ殿も率先して土俵に上がっとり
ましたけど」
好きそうだもんなあ、彼女。
ある意味ジャンさんと同クラスの
バトルジャンキーだし……
鬼人族の里に来た時も腹ごなしと言って、
『手合わせ』していたしなあ。
(■194話 はじめての わふうけんちく参照)
「ではそちらにラッチもお邪魔しているの
でしょうか?」
「パチャママや、女たちが気に入って
連れ歩いて―――
いや、お世話させてもらっておるから、
そこにおると思う。
もし見に行くのであれば連れて来て
もらえないか?
今後の話もしたいし」
そこで私たちは場所を移し……
鬼人族の『相撲』を見せてもらう&
ラッチとフィリシュタさんを呼びに
行く事になった。
「あー……」
「おー」
「う~む」
その『相撲』を見て思わず私と妻たちはうなる。
実際、獣人族のプロレスもその身体能力の
高さから、もはやゲームや漫画に近いものと
なっており、
キン〇バスターやキン肉ドラ〇バー、果ては
マッス〇ドッキングまで再現されたそれは、
オッサンに取って感涙ものだった。
そして鬼人族たちも負けず劣らず、飛び技や
投げ技を繰り出していて―――
「やっぱ、あの魔導具で見た『ろぉぷ』?
なるものがあった方がいいな」
「『こぉなあ』もあれば飛べるし、導入する
価値はあると思う」
同じく観戦している鬼人族たち……
『力士』なのだろうが、プロレスのリングを
取り入れる気満々のようで、
獣人族と鬼人族が戦ったら、さぞかし
盛り上がるだろうなあ―――
と私も想像する。
「サイクロンスパイラルバーニングストロンガー
パワーボム!!」
やたら長ったらしい技名の叫びと共に、
土俵に相手を叩きつけたのは、魔界王・
フィリシュタさんで、
さすがにお相撲さんのようなマワシ姿では
ないが、神前戦闘の獣人族のように、
半袖・短パンという格好で戦っていた。
そして彼女に対し、鬼人族の女性たちから
黄色い歓声が上がる。
「おー、シン!
見てくれたー?
神前戦闘の女性部門作ろうよー、ねーねー!」
実際、見た目は金髪ロングのエルフのような
人だから、見栄えはいいんだよな魔界王。
女子プロ部門を作ったらさぞかし人気が
出るだろう。
「ええ。
あと、長が話があるとの事で―――」
そうして私たちはフィリシュタさん、そして
女性陣に捕まっていたラッチを連れ戻し、
長の屋敷へと戻った。
「えー?
じゃあ『ゲート』を使わずにいったん、
帝都まで行くの?
せっかく作ったのに……」
「大使館とはいえ、いきなり帝都内に鬼人族が
出現する方が問題になりますって。
さすがに私たちの大陸までは、大使館の
『ゲート』を使わせてもらいますけど、
帝国までは通常の移動でお願いします」
長夫婦、パチャママさん、そしてクロウさん・
シシマルさん・ツバキさんと―――
私たち家族、フィリシュタさんとで今後どう
動くか、話し合う。
予定としては料理の教師、そして養殖技術を持つ
鬼人族の方々を何名か派遣してもらうつもり
だったのだが、
「あと、あの『神前戦闘』を見て何人か、
同行したいという力士がいてのう」
「料理人や技術者はすでに選定が終わって
おりますけれど、力士まで加わると二十人を
超える大所帯になってしまいますなぁ。
それでも構いませんでしょうか」
ヤマガミさんの後にシャーロットさんが、
不安そうに聞いてくるが、
「人数が多い方がむしろ助かります。
大使館経由であちらの大陸に行く事になると
思いますが、大勢の中で何人かいなくなっても
目立たないと思いますので」
「まーそうだね。
少人数だったらそういうのごまかせないし」
「移動は一瞬だし、何人か交代で『ヤマト』へ
行ってもらえればのう」
「ピュ」
家族も補足で説明する中、鬼人族側はうんうんと
うなずき、同意の空気が出来上がる。
「しかし、お刺身が伝えられないというのは
残念ですね……
他種族は生を忌避すると聞いてはいたのですが」
主要な事は決まり、雑談タイムに入ったような
雰囲気の中、ツバキさんがしみじみと語る。
「そうは言ってもなあ。
―――待てよ、シン殿。
お主のいた時代では刺身は普通に食べられて
いたのか?」
長の質問に私は首を縦に振る。
「はい。冷凍技術が発達していましたので」
「ン? 凍らせればいいって事?」
フィリシュタさんがすかさず聞き返す。
「いえ、ただ凍らせただけではダメなんです。
マイナス20度以下で凍らせ……
さらに丸一日以上その状態を継続する必要が
あります」
「まいなす―――
って何?」
「ええと、私の時代では温度は数値で表現
されていまして……
水は100度でお湯に、0度で氷に―――
さらにそれ未満の温度というのがマイナス、
という事になっています」
長の娘さんの質問に答える。
しかし彼女を始め、首を傾げる人たちばかり。
概念そのものが違うのだから、説明する側も
理解する側も苦労する……と思っていたが、
「んー、つまり―――
水が凍る時の温度の1.2倍強く凍らせる、
って感じなのかな」
メルの言葉に思わずうなずく。
確かにそうだ、数値で見ればそれは正しい。
「ふむ、ならば……
『水が凍る時』よりさらに強い魔力で
凍らせてもらう、というのはどうじゃ?」
「ピュイ」
次いでアルテリーゼが具体的な解決策を
提示し、目からウロコが落ちる。
「そ、そうか―――
安全を期すなら、1.5倍か2倍くらいの
魔力で凍らせてもらえれば……
そして1日ではなく3日に延長すれば
それで……!」
「何とかなりそう!?」
フィリシュタさんが目を輝かせて聞いてくる。
今や魔族もお得意だし、新しい食べ方に興味が
あるのだろう。
魔族なら生肉でも平気だろうというのは、
置いておいて……
そこで私は両肩をポン、と妻たちから叩かれ、
「だーかーらー、シン。
一人で抱え込まないで話してみてって」
「せめて妻である我らには話してくれても
よかろうぞ」
「ピューイッ」
と、家族からいじられ反省し―――
公都『ヤマト』に戻ったら、あの氷魔法の使い手
三人組、ファリスさんたちに相談してみようと
改めて考える。
ていうか専門家に聞く、という事が頭から
すっぽり抜けていた。
こういうところがダメなんだよなあ、とまた
自省していると、
「シンさん。
家庭円満の秘訣は、男が女の言う事を
よく聞く事どすぇ」
さらにシャーロットさんにからかわれ、
和やかな形で鬼人族との交渉は一通り終わった。
「おー、お帰り。
てか鬼人族も一緒なのかい?」
「パチャママさんと同じ種族の方ですよね?
でも大きいなあ……」
ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
そこに作られた大使館の一角、チエゴ国に
割り当てられた一室で、私たちは紹介がてら
あいさつに来ていた。
シルバーのロングヘアーに切れ長の目をした
女性、フェンリルのルクレセントさんと、
やや褐色肌で黒髪の、犬耳に巻き毛の
しっぽを持った獣人族の少年にして婚約者、
ティーダ君が出迎え、二人に事情を説明する。
料理人や技術者を自分たちの大陸に派遣して
もらいたい、という事は伝えていたが、
帝国にも一度、鬼人族として正式に使者を
送っておいた方がいいとアドバイスしたのだ。
これはランドルフ帝国の王女であるティエラ様を
介して伝えれば、問題なく通るだろう。
また手土産としていくつかの保存食品、さらに
金棒や工業品なども提案してある。
「そういうそなたはどうなのだ?
ちゃんとチエゴ国代表として、公務は
済んだのであろうな?」
古い友人であるアルテリーゼが彼女を
たしなめるが、
「あ、もうバリバリ。
皇帝さんとの謁見も無事終わったよー」
そう答えるルクレセントさんの横で、
ティーダ君が困ったような表情になる。
そこで私は彼に近付き小声で、
「(実際のところ、どうだったんですか?)」
「(そ、それほど問題は無かったかと。
ただフェンリルである事を信じない人たちが
いたので、目の前で変身してちょっと驚かせて
しまったくらいで)」
まあそれくらいなら許容範囲だろう。
私は声量を元に戻し、
「大使館の職員の方々は?
何か不便な事とか不安は」
「んー、大丈夫ちゃう?
まあ帝国に来てからまだ数日だし、慣れるまで
もう少しかかるでしょ。
そーゆーシンさんは?」
「一応、もう目的はほぼ達成しているけど……
まず鬼人族とランドルフ帝国の交渉の手配、
それが済んだら、ちょっとこちらにある
冒険者ギルド本部に顔を出したいと思う」
実際、大使館まで来たらいつでも『ヤマト』に
戻れるわけだし―――
それに今回は正式に帝国に来ている。
この機会に方々に挨拶しておくというのは
重要だろう。
今日のところは大使館に泊まり……
私たちは翌日から、いろいろと動き始める
事にした。
「あっ、シンさん!
お久しぶりです!」
次の日―――
帝都にある冒険者ギルド本部に到着すると、
受付嬢であるカティアさんが気付いて、
元気にあいさつしてきた。
「お久しぶりです。
今回は大使館の職員たちと一緒に、こちらの
大陸に来る機会を得まして。
ベッセルギルドマスターはいらっしゃい
ますか?」
「本部の食堂にいるんじゃないですかね?
よろしければご案内しますが」
「んー、それじゃあ」
「お願いするとしようかのう」
彼女の提案に妻二人も乗る。
ラッチは、ティエラ王女様に鬼人族の事を頼みに
行った際……
同時に預かってもらっており、ここにはいない。
ちなみにラッチを抱いた彼女は終始顔が
ニヤけきっていて―――
鬼人族の件についてもうまく取り計らって
くれるだろう、多分。
そして私たちはカティアさんについて行き、
本部の食堂へ足を進めた。
「おお、シン殿!」
そこにはボーロを食すギルドマスターの姿が。
そして食堂は、カレーの匂いがあちこちから
しており……
すっかり定着しているようだ。
「結構広まっているみたいですね」
「ああ。何せ冒険者兼、この料理を作る事が
出来る女性が入ったのでね」
へえ、と思っていると厨房から何人か料理人が
顔をのぞかせ、
「シン……? まさか……!?」
「あの凄腕の料理人が!?」
「ぜひまたご指導を!!」
と、答える間もなく私は彼らに拉致され―――
厨房へと強制的に移動させられた。
「シンさん!?」
「おや、エードラム君?」
そこでまず出会ったのは、ブラウンの短髪に
ハチマキみたいな布を頭に巻いた青年。
パーティー『月下の剣』リーダーだ。
「まだ熱風料理を作っていたんですか?
それとも今日はたまたま?」
「あ、いや……そういうわけでもないんですが」
何か言い辛そうにしている彼の横から、
「リーダー!
野菜とお肉追加お願いしまーす!
ボーロ十人前上がりましたので」
そこに来たのは私も知っている顔で、
「あれ? クエリーさん?」
「久しぶりじゃのう。
という事は、ボーロを作っておったのは
お主か」
「あ、あれ? シン様と奥様方?
どうしてこちらへ……」
彼女はかつて、兄のビルドさんと一緒に
帝国に奴隷として来ていた獣人族で―――
確かボーロさんと一緒にカレー作りに必要な
香辛料探しに従事していた一人。
その過程でボーロさんが料理を教えた人物
でもある。
解放後、冒険者ギルドに所属、そして
エードラム君のパーティー、『月下の剣』の
一員となっていたはず。
故郷に戻るお金を用意するまでと言っていたが、
まだ貯まっていなかったのかと思っていると、
「シン様!」
「あ、ビルドさんも」
そこで彼も加わり、久しぶりに一同が会した事も
あって、昔話に花を咲かそうとしたが、
「シンさん!」
「またご指導をお願いします!!
何かありませんか?」
と料理人たちからせがまれ……
ちょうど鬼人族たちから大量に牡蠣を購入し、
持って来ていた事もあり、
カキフライを作り、さらにボーロと合わせると
食堂が前回同様に盛り上がってしまい―――
結局落ち着いて話すのは、ギルドマスターの
部屋で、という事になった。
「おお、あのフライの貝は鬼人族から……!
これは新たに予算を編成せねば」
「ギルドマスター、そのお話は後で」
銀の短髪に中肉中背のギルドマスターは、
受付嬢にたしなめられる。
「すごい食べていたもんね、ベッセルさん」
「まあ無理も無し」
妻二人も、仕方ないというように彼を見る。
「えーと、今回は久しぶりにまた帝国に
来たので、その顔見せみたいなものですが。
どうですか、最近」
そこで私は話を進める事にし、近況などを
彼らから聞き、またこちらからも情報を
共有した。
「へえ、『月下の剣』が」
「他の冒険者がやりたがらない依頼も、
進んで引き受けるからねえ。
今じゃ、指名依頼が来るほどだよ」
何でもあの後、エードラム君をリーダーに、
またビルドさん・クエリーさんをパーティーの
一員として再開した彼らは、
初めこそ獣人がいるパーティーとして人気が
無かったものの―――
嗅覚と身体能力に優れる獣人の能力をもって、
難解な依頼も次々とこなしていき、
今では本部の中でも依頼達成率が上位の
パーティーとして、評価が高いという。
またクエリーさんはボーロを作る事が出来る、
という事で……
ギルド本部の食堂では欠かせない存在となり、
冒険者の間でも人気の高い獣人となって
いるとの事。
さらにエードラム君の熱風で調理した具材と
かけ合わせた逸品は、太りにくいという噂も
手伝って、女性陣にも大人気らしい。
「ははは、もう冒険者を辞めたとしても、
お二人で料理店とかやっていけるんじゃ
ないですか?」
そう私が冗談めいた事を言うと、なぜか
当事者の二人は顔を真っ赤にしてうつむく。
「え? おー? これは?」
「ほほお、『そういう』仲という事か」
妻二人の目尻が上がり―――
思わずビルドさんの方を見ると、
「……まあ、兄としては複雑ですが。
それで妹が幸せならば」
そしてそれをニヤニヤと、ギルドマスターと
受付嬢が見守る。
「こちらとしても、獣人族に対する見方が
変わるのはいい事なのでね。
それに獣人族の冒険者自体は珍しくないの
だが、故郷に戻るのが前提なので長続き
しないんだ。
だから彼らのように長期的に冒険者を
やってくれる獣人族が増えてくれたら、
ギルドとしても嬉しい」
「でももし冒険者を辞めるんだったら、二人とも
ここの食堂で働き続けてもらいたいです~」
ベッセルさんとカティアさんが切実に語る。
「じゃあ、取り立てて何か困っているとか、
そういうのは無さそうで良かったです」
私が笑顔で返すと、ギルドマスターが眉間に
シワを寄せ、
「……んん、困っている、というほどでは
無いのですが。
最近、依頼の質が変わっていましてね」
「?? 何かあったの?」
「ちょうど我らがいるのだ、言ってみるといい」
メルとアルテリーゼが促すと、そこで
エードラム君が割って入り、
「俺としても無関係じゃねーから、他人事じゃ
ないんだけど」
「うーん、説明して頂けますか?」
私の言葉に、受付嬢の女性が数枚の依頼書を
持ってくる。
「これが最近の、金剛石クラス・魔力銀クラス
向けの依頼なのですが―――
帝都郊外の強力な魔物の討伐が多いのです」
「というのも……
近頃、『闇闘技場』への取り締まりが厳しく
なったみたいでね。
そのために用意した魔物を、飼い切れずに
捨てる貴族が続出しているらしいんだ」
「俺の親父も一枚かんでいたらしくてなぁ。
それ用の魔物なんてただ飼っているだけでも
めちゃくちゃ大喰らいだし―――
かと言って殺して処分するにも金と時間が
かかる。
だから、遠くへ捨てちまえって事になっている
ようなんだ」
ベッセルさんの後にエードラム君が続く。
殺してから捨てた方が楽なんじゃないかなあ、
と思っていると、それを察したのか、
「魔物の解体なんてシロウトには出来んよ。
毒を持っているヤツもいるし、何より死体は
疫病の元だ。
かと言って業者を呼べば足がつくしな。
少なくとも自分の敷地内でやろうとは
思わないんじゃないか?」
ベッセルさんの説明になるほどと思っていると、
「もしかして、シンと一緒に『闇闘技場』を
潰したのが原因かな?」
「結局シンに行きつくのだのう」
「ひ、人を災厄の元凶みたいに!」
妻たちに反発しつつも頭の中で情報を整理する。
そういえばエードラム君の父親は貴族だと、
以前聞いているし……
彼が他人事じゃないと言っているのも、
そのあたりなのだろう。
「そういうわけで俺たちが率先して、その依頼を
引き受けているんだけど―――
手が足りてないんだ。
それに俺の魔法、灼熱の風が効く
相手ばかりならいいけど、もしそうじゃない
魔物が現れたらと思うと」
確かに以前『闇闘技場』を潰した事はあるし、
その後ティエラ王女様経由で、王家が本格的に
取り締まり始めた、というのはあるかもなあ。
それを考えると私と無関係、というわけでも
ないか。
(■183話
はじめての やみとうぎじょう参照)
私は一息つくと、
「……その依頼、一緒に受けても?」
「「「「「ぜひ!!」」」」」
私の言葉に、冒険者ギルドの五人の声が
重なった。
「りゅ、竜に運んでもらうなんて初めてだぜ」
「馬車ごとですか……
これなら、早く着きます」
鬼人族の救出部隊を輸送した時と同様、
馬車を借りてそれをアルテリーゼに装着し、
パーティー『月下の剣』の三人と、私と
メルは上空を一路、帝都郊外へと向かっていた。
「ギルドマスターも乗りたがっていましたが」
「まあそこは仕事なので―――
我慢してもらわないと」
ビルドさんの言葉に私は苦笑で返す。
そしてギルドの依頼は、というと……
実にざっくりとしたもので、
帝都郊外に出現する、本来そこにいるはずのない
魔物の討伐および駆除、という事だった。
「何でもいい、って事なのかな?」
メルがぽつりともらすと、
「とにかく数を減らして欲しい、というのが
本音でしょう」
「ったく、貴族っていうのはどこまでも
迷惑かけやがるぜ……!」
クエリーさんとエードラム君が答える。
「間もなく日が暮れるけど―――
アルテリーゼ、大丈夫か?」
『帝都なら夜も明かるいであろう。
帰り道は心配ない』
ドラゴンの妻と伝声管でやり取りしながら、
今後の予定を確認する。
そもそも、冒険者ギルドに来たのが昼過ぎで、
さらにその後、馬車の手配とかに時間がかかった
というのもあって、出発は夕方近くになって
しまっていた。
まあ今回は現地確認という意味合いが強い。
何かいれば倒して、本格的に依頼に入るのは
明日以降、と思っていると、
「あり? アルちゃん、アレ見える?」
『む? 何だメルっち』
人間の方の妻が何か発見したらしく、
地上を見下ろす。
「え? 何あれ?」
私の言葉に、獣人族兄妹ものぞきこみ、
「こ、この匂いは……!?」
「アンデッド!?
しかも、こんなに大量に……!」
そこで見たのは、大小様々なモンスターの
死体がうごめく地面。
「これは……
リッチーがいる可能性が高い!
シンさん!
すぐに引き返して、ギルド本部に報告
しなければ」
「そんなにマズい状況ですか?」
私が『月下の剣』リーダーの青年に聞き返すと、
「普通のリッチーなら俺たちでも何とかなる
可能性はあります!
ですが、今回リッチーによって動かされている
死体は『闇闘技場』用に集められたもの……!
いくらドラゴンのアルテリーゼさんがいると
言っても、その数によっては」
「公聖女教の司祭か、浄化か光魔法を使える
人が必要かと」
「このままじゃ日も暮れます。
引き返しましょう。
俺たちだけじゃ手に負えません」
心配そうな彼らの言葉に対しメルは、
「あ~……
リッチーか。死体を操るって魔物だっけ?
まあ何とかなるんじゃない?」
『それに、放置すると被害が拡大する
恐れがある。
今のうちにやってしまおうぞ、シン』
妻たちがそう返すと、『月下の剣』パーティーは
ポカンと口を開ける。
「あれ? メルとアルテリーゼってこういうの
苦手じゃなかったっけ?」
以前、心霊やお化けの話で怖がった事が
あるので、それを私が聞いてみると、
(■120話 はじめての ぼーなす参照)
「いやー、得体の知れない何かが怖いので
あってー」
『アンデッド系の魔物は普通に
実在するからのう』
その違いがよくわからないが……
妻たちが平気なら、こちらも退く理由はない。
「エードラム君、ビルドさん、クエリーさん!
無いとは思いますが―――
念のため、空中からの攻撃を警戒して
ください!
アルテリーゼは地上を低空飛行!
メルは、そのリッチーとやらを
見つけてくれ!」
『りょー』
「あいあいさ♪」
私は各自に指示を出し、高度が低くなったのを
確認すると小声で、
「死体を操る、死んだものを動かす……
意図的にそんな事を行う事など、
・・・・・
あり得ない」
すると、薄い闇の中で―――
うごめく何かがバタバタと倒れていくのが
わかる。
そしてあたりを飛行する事、数分くらい
だろうか。
メルが大きな声で、
「シン! あれ!!
あのボロボロの衣装をまとったヤツ!!」
すると『月下の剣』パーティーもそちらへ
注目し、
「ヤツだ! 間違いない!!」
「しかし動きが妙だな……」
「何か焦ってる?」
自分が操っていた死体が次々と『無効化』
されているんだもんな。
そりゃ焦りもするだろう。
しかし、確かに見た目は『生きてはいない』。
まるでガイコツがボロボロのローブを着ている
ような感じだ。
最後の仕上げとして、その標的に近付いた
ところで、
「骨だけで、精神力とか魔力だけで『生きて』、
もしくは動いている魔物など―――
・・・・・
あり得ない」
私のその言葉が終わると同時に……
骨だけのリッチーは、ガラガラと崩れていった。
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