「…って、ことがあったんだよ」
「…ふぁい?」
間抜けな声を出して、食事の手が止まってしまったのは佐久間だ。
目黒のことを相談したくて、佐久間を仕事終わりに食事に誘った。
「えーーー、と?つまり、めめが舘様のことラブ?で、今はお試し?で付き合ってるってことでおけ?」
「そういうことだね」
「あの、めめと?」
「あの目黒と。驚くよねぇ」
「いやいやいやいや!そりゃ驚くっしょ?!え、てか、は?何でそんな落ち着いてんの?こわいっ」
「俺だってびっくりしたよ?でも、誰かに好意を持たれてるって、悪い気はしないでしょ」
「そりゃあ、そうだけど…。待って、それ、いつの話?」
「えーと、もう二月くらい前?」
「はぁ?!なんっですぐ俺に相談してくれなかったの?!」
「そんなすぐに言えるわけないじゃん。とりあえずとはいえ、メンバーと付き合ってるとか…」
「あ、あぁ、ま、そっか。うん。んで、どうなの?この二月?お試しで付き合ってみて、涼太の気持ちはどうなのよ?」
「うん…。アプローチがすごくてね、一緒に仕事してても、スマートに彼氏っぽさ出してくるんだよ」
「おぉ、スマート彼氏とかヤバ!」
「さりげなく、手握ってきたり肩抱いてきたり。飲み物渡してくれたり…時々耳元で囁かれたり…」
「気付かんかった…」
「でしょ?あまりにスマートで、周りも気付かないんだよね。その、俺ファーストっていうのかな?して欲しいこととかさ、ごく自然にやってのけたりするんだよ」
「お姫様扱いじゃん!」
「そう。最初はそんなことするなよ〜って思ってたけど、なんか、だんだん心地よくなってきて」
「おほー」
「気づいたら、側にいてくれるのが、嬉くなってて」
「あひゃー!舘様が惚気てる!尊いっ」
「あ、俺、目黒のこと好きだって…最近認識したんだけど」
「くあーっ!もう!沼っちゃってる!まんまと惚れちゃったんだ?」
「…そう、なんだけど」
「え、何?何か不満なの?」
「…あの日以来、プライベートで会えてない!」
「Oh〜…。そっか、めめも忙しいもんなぁ。でも、オフの日もあるっしょ?スケジュール合わないの?」
「たまの休みなんだから、誘うわけいかないでしょ」
「んえ?」
「え?」
「待って、何で?一応付き合ってんでしょ?」
「…そうだけど?」
「何で、そこ遠慮してんの?」
「え?休むことは大事でしょ」
「ガッデムか!」
「は?」
「涼太〜お前、そういうとこ!全然相手の気持ちわかってない!」
「えぇ…」
「多分お前らさ、似てんのよ。お互い遠慮しちゃってるとこあると思うんだよね」
「(あの)目黒が遠慮するとは思えないけど…」
「いやいや、あいつも結構気ぃ遣いだから!考えてみ?どう思ってもめめは涼太のことマジ愛してるじゃん?」
「はあ…」
「んで、半ば強引に今の関係に持ってってる」
「そうね」
「だから、めめからは誘い難くなってると思うよ?これ以上自分からいったら、いつまでも涼太の本心がわかんないままになるって」
「俺の本心…」
「そう!さっき俺に話してくれたこと、めめにも言ってやれよ。今んとこめめ側からのアクションだけっしょ?涼太からアクションなかったら、自分の押し付けじゃないかって、めめは不安なんじゃね?」
「…あー、そう、なのかな?」
「そうでしょうよ!強引に押されて付き合ってる状態からいつまでも抜け出せないんじゃあ、めめ辛いと思うよ?」
「…なるほど」
「なるほどじゃねぇのよ!誘え!今すぐ!俺と飯食ってる場合じゃねぇーだろっ」
「いや待って、そんな急に…」
「会いたくないの?」
「…会いたいよ?」
「そこ素直かよ!じゃあ誘え!そんでもってもう本気で付き合え!」
「ええ、唐突すぎない?」
「明日お前らオフだから!」
「は?」
「スケジュール見てみた。明日めめも涼太もオフになってる!ちな俺も!!」
「そこはどうでもいいや」
「ついでに言ってみただけ!ホラ、早く誘え」
「いやいや、待って?急すぎるって。だいたい、何て言えば…」
「理由なんかいるか!会いたい会う時会えばいいじゃん!それを相手に伝えなきゃでしょ?俺は会いたいと思ったよーって、その気持ち伝えるだけでもめめは嬉しいと思うけど?」
「…そうかな」
「そうよ!逆に考えてみ?好きな人に会いたいって言われたらさ、例えそんときは予定とかでどうしても会えなくてもよ?嬉しいっしょ。よしじゃあ、別の日にってなるじゃん?そんで2人で予定立てたりさ。そういうのが楽しかったりするんじゃん?」
「あー、確かに」
「はあー、俺恋愛マスターかよ!笑」
「それは知らんけど笑」
「とにかくさ、もうちょっとめめに対して素直になってみ?あいつ絶対待ってるって、涼太からの誘い」
「素直にねぇ。…うん、努力してみるわ」
「努力とかいらんのよ、素直に」
佐久間と別れて、夜の街をブラブラ歩いた。
今すぐ誘えと言われたものの、なかなか決心がつかない。
(俺ってこんなに女々しいヤツだったのか?)
これまでは、何も考えずに食事に誘えてた。
なのに、恋人と名目がついてしまうと、こんなにも臆病になるのか。
もし、断られたら?
反応が冷たかったら?
そもそも、今はお試しという間柄。
不安定さが尚更、自分の気持ちに蓋をしてしまっていた。
…そうか、目黒は気持ちを伝えてくれたけど、俺はまだ、今の気持ちを伝えてなかったんだ…
『めめに対して素直になってみ?』
佐久間の言葉が、少しだけ背中を押してくれる。
ポケットのスマホを取り出し、画面と暫くにらめっこする。
あえて履歴をスクロールして、指で止めたところに彼の名前があればかけようかなとか、そんなちょっとした賭けをしてみる。
「…あ」
ちょんと指先で止めたそこには、その名前が出てきてしまった。
「俺目押し得意かも…?」
思わず苦笑い。
観念して発信をタップする。相手が出ようが出まいがもういいや。
…でも、出たら?何て言おうか
(何から、伝えたらいいんだろう?)
3コールで出なかったら切ろう…と、思ってたら通話画面に切り替わった。
(出ちゃったよ…)
慌ててスマホを耳に当てた。
「もしもし?舘さん?」
「目黒、おつかれ」
「おつかれさまです。どうしたんすか?」
「いや、ちょっと…。今、平気?」
「大丈夫っすよ。さっき帰ってきて風呂入ってました」
「そっか、おつかれ」
「ちょうど上がったら、舘さんから電話だったからびっくりしました笑」
「ごめんね?休んでるとこ」
「いえ、全然!むしろ嬉しくて、疲れ吹っ飛びました!」
「笑何でよ」
「だって、あれからなかなか連絡してきてくれないから…」
「あー、だよね。ごめん」
「いや…あれ?舘さん、今、外ですか?」
「うん。今日は佐久間と仕事で、今一緒に飯食った帰り」
「…ふーん。どこです?今」
「〇〇の近く」
「俺んちの近くじゃないすか!」
「そうなんだよね。…あのさ、目黒、これからちょっと会える?」
「もちろん!」
「すごい食いつき気味じゃん」
「だって嬉しいですもん!すぐ支度しますから」
「あ、迷惑じゃなかったら、目黒んち行っていい?」
「…っ全っ然!迷惑じゃないっす!!むしろ来て欲しいくらい!」
「すごいウェルカム 笑」
「当たり前じゃないすか!あ、俺、迎えに行きますから!」
「いいよ笑 風呂上がりでしょ?着いたらまた連絡するから」
「でも…。…わかりました。待ってます!」
「うん。じゃ、あとで」
通話を終え、ふぅと息を吐く。
俺はちゃんと話せてただろうか?
電話越しでもわかる、目黒の嬉しそうな様子に胸の辺りがジンとする。
これから、目黒と会う…。
数日前も収録で会ったばかりなのに、何このドキドキする感じ。
(そんな歳じゃないじゃん…もう)
深呼吸して、落ち着かせる。
目黒に会うまでに、煩い鼓動が鎮まりますように…
コメント
4件

舘様かわいい🩷
