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暗闇の中、幕が静かに開いてヤジと声援が飛ぶ。ステージでは拳を突き出して立つダンス隊と緊張を和らげるために息を細く吐き出すバンド隊。爆豪くんが手元のスティックをくるりと回す。開始の合図はいつだってドラムから。
「いくぞコラァアア!!」
「雄英全員、音で殺るぞ!!」
爆破と共に音の嵐。スポットライトがダンス隊とバンド隊を照らす。爆風が音を届け、観客の目はステージしか目に入らない。
「よろしくお願いしまァス!!!!」
終わって急いでセットを片付ける。演出のために出した氷を分解して屋外にある手洗い場に貯めこむ。成功が失敗かと問われれば間違いなく成功。目に入ったルーキー達の顔を見りゃ、補講にいたガキどもみたいにはしゃいでいたから成功ね。
「霊華お願い!」
「もっと氷持って来て!」
殴りで粉々にして隣の爆豪くんが火花で氷を溶かす。別の区画で最高傑作も火で溶かしてた。なんで後始末しなきゃなの?イライラしながら氷を割ってると、小休憩なのか体育館からわらわらとルーキー達が出てくる。
「A組!!」
「楽しませてもらったよー」
「わっ!!やったァあざっス!!」
《終わった?》
「うん……、………?」
あれ??誰に声をかけられた?
疑問を浮かんだが小さい手が触れたことで吹っ飛ぶ。隣を見ると白くて見たことあるような子どもがいた。
《じゃあ一緒にまわろ》
ニコリと笑って手を引かれるままその場を去る。
子どもに手を繋がれたまま文化祭をまわる。ニコニコ笑う子どもとは逆で私ははてなのまま。親は何処?と怒りたい言葉もある。けど言葉に出さないのは、目の前の子どもが楽しそうだから。それだけ。
《お腹空かない?》
「腹は減ってない」
《そう?お腹空いたり、喉乾いたりしたらちゃんと言って。私には分かんないし絶対》
「分かった」
構内図もパンプレットもなしに行き当たりばったりで校舎をまわる。さすが雄英といったところか。金のかけ方が違うのか割と凝ったものが多い。
《お化け屋敷!》
「お化け屋敷?」
いかにもといった建物の看板に心霊迷宮と書かれていた。心霊迷宮を体験した子、曰く本格的すぎて怖い、甘く見てた、普通科が普通じゃないなど。肝試しとかホラーものは正直苦い記憶しかないけど子どもはアレ行こ!と手を引かれるまま受付を済ましてしまった。
入ってからまずナレーションの音声が流れる。設定は50年前にある一家が凄惨な死を遂げた。殺人犯は一家を殺した後に捕まったが牢獄で謎の死を迎えた。
『50年経った今でも、なぜか長男の死体だけは見つかっていない………。空き家のはずが、なぜか人のいる気配がすると近所の人は言う……』
意味ありげなナレーションを聞きながら軋む床を歩く。壁には子供が書いたような拙い落書き。何故か落ちている血が付着している斧。床には時間経過を物語る積もった埃と、床だけでなく壁にも埋め尽くす赤ん坊の赤い手形。
《な、なんか怖くなってきた》
「ただの作り物」
繋いだ手が痛いぐらい握られるのも構わず歩いていると古時計からボーン、ボーンと薄暗い廊下に響く。聞き間違いか、古時計から赤ん坊の泣き声が聞こえた。
《もう、無理…怖い……》
「痛いよ?」
《早く、早く出よ…》
「いや、無視?」
骨が軋むぐらい強く握られる。早く、早く、と盾にされながら歩いていると天井からポタ、と赤いものが落ちてきた。
《ひっ!》
ポタ、ポタ、ポタポタポタ………。
天井から滴り落ちるほどの大量の血痕。誰もいないはずの空き家。これまで不気味な道と不穏なナレーションに恐怖を抱かせるには十分だったが、天井から滴り落ちる大量の血に更に恐怖が募っていく。ポタ、と最後の血が落ちると天井から大きな音と共に影が落ちる。
「オレヲ、ココカラツレダシテクレ……」
《キャアアアアアアア!!!》
「ぐふっ!」
恐怖のあまり子どもは力強く抱きつく。子どもとは思えない腕力に、締め付けられた私は驚きより先に痛みの方が勝る。なんとかもがいて脱出し、ぶら下がっている影を改めて見ると見知った顔。
「へぇ……君が長男?様になってるね」
影の正体は、体育祭前にA組に宣戦布告しにきた普通科の心操。
頭から血を被った普通科のルーキーは、前にあった時よりだいぶ鍛えてる〜あれ、これセクハラになるかな??と割れた腹筋見て思った。
「……もっと驚いてほしかったな」
「あいにく人の気配に敏感だから。驚くことはないわ」
「……そうですか」
《こ、怖かったぁ……》
「いつまでしがみついてるの?」
《出口までこのままお願いっ!》
落ち着きを見せた子どもは、私の体に回した手を腕に移る。それでもまだ怖いのかぎゅうぎゅうしがみつく子どもにため息吐く。
「はぁ。そういうことだから私達行くわ。面白かった」
「お、おう………?」
心操は困惑したまま私を見送る。出口まで腕にしがみつかれたまま私はなんてことないように心霊迷宮を完走。
《お化け屋敷初めてだったけどあんなに怖いんだね。びっくりしたけど楽しかった》
「ほんとかよ。ほとんど目ぇ瞑ってたでしょ」
《仕方ないの!怖かったんだから》
「フフッ…怖いよりも痛いが勝ってたから分からないわね〜」
《ひど〜い!》