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3
放課後の教室。
窓の外では、秋の夕日が校舎を柔らかく染めていた。
ひなは自分のスマートフォンを見つめながら、
何度も深呼吸を繰り返していた。
そこには、数日前に声をかけてくれた男子生徒たちからのメッセージが表示されている。
『もしよかったら、今度みんなで食事に行かない?』
体育祭をきっかけに、
ひなに興味を持つ男子生徒は確かに増えていた。
それは嬉しいことでもある。
けれど同時に、
ひなにとっては大きな壁でもあった。
男性と向き合うこと。
普通に話すこと。
過去の記憶に囚われず、自分の意思で一歩を踏み出すこと。
「ひな、本当に行くの?」
恵ちゃんが少し心配そうに尋ねる。
「……うん。まだ怖いけど、逃げたくないの」
桔梗ちゃんも優しく頷いた。
「無理しないでね。途中で帰ってきても全然いいんだから」
ひなは二人の言葉に背中を押されるように、小さく笑った。
昼休みに交わした約束。
『無理だと思ったら、すぐに離れろ』
『もし何かあれば、連絡しろ。すぐに行く』
綾小路くんの静かな声が、胸の中に残っている。
その言葉があるだけで、
少しだけ勇気が湧いてくる。
放課後。
約束の場所で待っていたのは、
同学年の男子生徒たち数人だった。
「来てくれてありがとう、天白さん」
「体育祭、本当にすごかったよ」
「今日は気楽に話そう」
彼らの態度に悪意はない。
むしろ、みんな優しかった。
ひなは緊張しながらも、小さく頭を下げた。
「よろしくお願いします」
向かったのは学生寮のカフェテリア。
人目の多い場所ではあったが、
その分だけ安心感もある。
最初はうまく話せなかった。
けれど男子たちは無理に踏み込まず、
猫の話や好きな本の話など、
ひなが答えやすい話題を選んでくれた。
少しずつ、
肩の力が抜けていく。
「そのヘアピン、すごく似合ってるね」
「白い髪も本当に綺麗だと思う」
素直な言葉に、
ひなの頬が少し熱くなる。
褒められることにはまだ慣れない。
それでも、
以前ほど強い恐怖は感じていなかった。
(私、ちゃんと話せてる……)
その事実が、
ひなにとっては大きな一歩だった。
もちろん、
完全に克服できたわけではない。
時折、緊張で胸が苦しくなる。
それでも、
自分の意思でここにいられている。
それだけで十分だった。
食事が終わる頃、
男子生徒の一人が穏やかに言った。
「今日は来てくれてありがとう」
「また、無理のない時に話せたら嬉しい」
ひなは少し考え、
そして小さく微笑んだ。
「……ありがとう。今日は、とても勉強になりました」
寮へ戻る途中。
秋の夜風に当たりながら、
ひなは胸に手を当てる。
怖さはまだ消えていない。
完全に克服するには、
きっともっと時間が必要だろう。
それでも――
確かに一歩、前へ進むことができた。
その時、
ポケットのスマートフォンが静かに震えた。
画面には短いメッセージ。
『終わったら連絡しろと言ったはずだ』
送信者の名前を見た瞬間、
ひなの頬がほんのりと赤く染まる。
綾小路清隆。
その一言だけで、
胸の奥に温かな気持ちが広がっていく。
『今から会えるか』
ひなは微笑みながら、
そっと返信を打った。
『うん、会いたい』
小さな挑戦。
それは完璧な成功ではなかった。
けれど、
自分の弱さと向き合い、
一歩踏み出したことに意味がある。
そして、
その帰り道には、
いつも変わらず待っていてくれる人がいる。
そのことが、
ひなにとって何よりの支えだった。
コメント
1件
みぅだよ🤍🥀 第49話、読み終えたよ……。 ひなちゃんが一歩踏み出せたこと、本当によかったね。過去のことで怖がってたのに、自分の意志で集まりに行って、ちゃんと話せてた。その勇気、すごく尊いと思う。 そして、終わった後の綾小路くんからの「今から会えるか」の連絡……もう、これが何よりの救いというか、支えだよね。彼がいるからこそ、ひなちゃんは前に進めるんだなって思った。 このエピソード、静かだけどすごく温かい話だったよ。完璧じゃなくていい、自分のペースでいいって、教えてくれるようなお話だった🌙 次の更新も、楽しみにしてるね。