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一難去ってまた一難ということにはならないだろうが、後が無い場所で戦うのは不利だ。どんな敵でも問題は無いとはいえ、場所が悪すぎる。
「複数の足音が聞こえるな」
「戦うのだ?」
「様子を見る……が、どうしたものか。とりあえず、《リーフハント》を使っておく」
「ウニャニャ! 浮いているのだ~」
底抜けの地面になった以上、自分たちは浮くしかない。
「アックさま。あたしが何とかしますわ!」
「分かった。浮いていて不安定かもしれないが、頼む」
どこにも隠れる所が無いので、ここはミルシェに任せてみることにした。採石場の地面はほぼ残っていなく、おれたちは風魔法で浮いた状態。
その状態で出口側を確かめてみると、細長い通路になっているのが見える。
そのせいか人が通るにも一人ずつしか進めない感じだ。縦一列くらいの幅しか無いせいか、聞こえてくる足音からは慎重さが伝わる。
一斉に向かって来ることが想定されただけに、時間の猶予が出来た感じか。僅かな時間に何が出来るのか――そう思っていたら、ミルシェが水属性魔法を発動させていた。
「これは水属性か?」
「アクアウォールですわ。通路側から見れば単なる採石場にしか見えないかと」
「……ウニャ? ただの水にしか見えないのだ」
シーニャの言うように、水を何層にも重ねたようにしか見えない。しかし通路側から見た場合だとどう見えるのか。
「幻のように見せる魔法なのか?」
「水の壁でそう見せているだけですわ。水を通して見る光景は違いますでしょう? ですので、走って突っ込んで来る敵には効果がありますわね」
「どれどれ……」
水に突っ込んでこちら側を見てみると、確かに何事も起きていない採石場に見える。足音の正体である敵の姿が間近に迫っているようで、急いで顔を引っ込めた。
「アック、水遊びなのだ?」
「いや……そろそろ連中が突っ込んで来るぞ。四、五人くらいだが、ザームの連中のようだ」
「――では、そろそろ」
「シーニャ、音を出したら駄目だぞ」
「ウニャ」
浮いている状態では目立った動きは出来ない。特に自力で浮くことが出来ないシーニャとミルシェだとなおさらなことだ。
全員が大人しく待機したまま、その瞬間を待った。
「突っ込めーーーーー!!!」
一人ずつしか通れないとはいえ、走ることは出来るということで予想通り突っ込んで来る。奴らを挑発させる為、おれだけはあえて奴らから見える位置で立っていた。
もちろん地面が存在しないところで。
「奴がいるぞ!! てめぇぇぇ! この……おあぁぁぁっ!? あああああああーーーー!!!」
「ぬあああっ!? じ、地面がねえええええええ!! お前ら、止まっ――わああーーー」
先頭の男たちが勢いよく水に濡れたまま入って来た。それもつかの間、足場が無いことに気付かないまま落下して行く。後続の連中も勢いを止められないまま、地面の抜けた穴へと吸い込まれてしまった。
ほんの一瞬しか連中を見れなかったが、レイウルムにいた傭兵の仲間だったようだ。
「戦わずして始末出来た……これで問題無かったのです?」
「……落下先がどうなっているかは分からないが、連中は遺跡の罠にかかっただけのことだ」
「そうですわね。はあぁんっ! 容赦なきお言葉にあたしは身悶えてしまいますわ!」
ザームの連中はレイウルムの人たちを陥れて侵攻して来た。この先も攻撃を仕掛けて来ることは必至。それを考えれば敵に対して甘えを見せるべきではない。手を直接下さずとも追い払えるならとことんやるだけだ。
「――あれ? シーニャはどこ行った?」
「いませんわね。勝手に進んでいるのでは?」
「敵もいなくなったし行くか」
「そうですわね」
シーニャは浮いた状態が嫌だったのか、連中が落下して行った時に動いていたらしい。彼女に続いておれとミルシェも、細長い通路に着地して先へと急いだ。
細長い通路は人工通路の時と違って、洞窟のように岩肌が露わになっている。そうなるとこの先は地下都市のような空間が広がっているとされるが――。
「シーニャ! 待っててくれたのか?」
「ウ、ウニャ……ここは危ない気がするのだ。だから動けないのだ」
細長い通路を抜けた所で、シーニャがじっと立っていた。そこで見えたのは、いくつもの人型機械と岩壁が見る影も無い程に破壊された光景だった。
「こ、これは――! 連中がやった……わけじゃなさそうだな」
「……アックさま、何か聞こえません?」
「ん?」
狙って破壊されたというよりは、巻き込まれて破壊されたような感じに見える。ミルシェが言うように崩された岩壁の裏側から泣き声のような音が聞こえてくる。
「びえぇぇぇ……ふえぇぇ、あうぅ~アッグざばぁぁ……」
この聞き覚えのある泣き声はまさか――ルティなのでは?
イデアベルクに残して来た彼女だとしたら、どうやってここに来れたというのか。泣きながら辺りを破壊しまくっているのが気になるが、声をかけてみるしかなさそうだ。