テラーノベル
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リビング。すかーは壁に拳を当てたまま、まだ苛立ちを抑えきれずにいた。
ネグはその視線の奥で静かに息を整えていた。
──今だ。
ネグはそう判断した瞬間、一気にダッシュでリビングを飛び出そうとした。
だが。
「ッ……!」
バンッ!!
「……ッッッ……ぐあああああああッッ!!」
ネグの小柄な体が、すかーの下半身に思い切りぶつかった。
それは真正面から。
ちょうど――よりにもよって、男性として最も敏感で痛みに弱い部分に。
すかーは目を見開いたまま、膝から崩れ落ちる。
「っ……おま……っ……!」
握りしめた拳が震える。
歯を食いしばり、声を出そうにも、言葉にならなかった。
腹の奥からせり上がるような痛みに、すかーはただ必死に耐えるしかない。
その横でネグが、小さな声で呟いた。
「……ごめん。」
その一言だけ残して、ネグはすぐに離れた。
夢魔はそれを見て、眉をひそめながらも小さくつぶやいた。
「……うわ、痛そう……。」
だぁとマモンも視線を交わし、だぁが静かに言う。
「……すかー、可哀想に……。」
マモンも苦い顔をしながら頷いた。
すかーの頭の中では、ただ鈍い痛みと、ネグへの怒りが混ざり合っていた。
「……マジで……ありえねぇ……っ……ネグ……!」
低く絞り出すような声。
拳を地面に叩きつける。
「……なんなんだよ、ほんと……!」
そのまま数分間、すかーは動けずにうずくまっていた。
⸻
その後、ネグはレイに連絡を取り、途中まで迎えに来てもらった。
再びレイの家へ戻り、ソファに腰掛けたネグは、スマホをいじりながら、ぽつりと呟いた。
「……今日、すかーくんに……ぶつかっちゃった。」
レイはそれを聞き、少し顔をしかめた。
「……どこに?」
ネグは目を逸らし、指でテーブルをとんとんと叩きながら答えた。
「……下……。」
その瞬間、レイは眉間に皺を寄せて、苦笑いすら浮かべず、ただ一言。
「……うわぁ……。」
その声は、どこか同情混じりで、少しだけ真面目だった。
「そりゃあ、怒るわ……。」
ネグはその反応を見て、また心の中だけで静かにクスクスと笑った。
──でも、声には出さない。
──誰にも捕まらない。
それがネグだった。
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