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突然襲い掛かってきた狼姿のドルミライトに対し、ナイフとフォークを出して正面に躍り出るパフィ。同時にミューゼは杖を出してアリエッタ達の前に立つ。
「ふっ!」
パフィがすれ違うようにナイフを一閃。しかし狼は爪でナイフを弾き、その衝撃を利用してパフィから少し離れた場所に着地する。そこを狙ってミューゼが杖を突き出した。
杖の先から撃ち出された十数発の水の弾が、狼に降り注ぐ。体勢が悪かった狼はまともに水弾を浴びてよろめいた。そこにすかさず、切り抜けた状態から回り込んだパフィのフォークによる追撃が決まる。
(浅かったのよ!)
手ごたえはあったが、狼の回避距離がそこそこあった為、体毛に阻まれて傷をつけて突き飛ばすだけとなった。さらに距離をとった狼は、警戒を強めてパフィ達を睨みつける……が、前を見た瞬間、火の弾が飛来。避ける間も無くその側頭部に着弾し、小さな爆炎を咲かせる。狼は少し飛ばされた後、体毛の濡れていない部分を一部炎上させながら慌てて逃げていった。
(おぉ! 凄い! かっこいい!)
その戦闘を見て、アリエッタは顔に出る程興奮している。
ミューゼとパフィはシーカーになる前からの付き合いで、その連携は若いながらもバルドル組合長も認める程。
同時に戦闘態勢に入り、初撃は2人とも牽制を目的として動く。パフィはカトラリーを構え、ミューゼは扱いやすく発動の早い水魔法をそれぞれ準備。基本はミューゼが後ろにいる為、ミューゼがパフィの行動に応じて先手か後手かを判断し、タイミングを合わせて時間差で魔法を放つのである。
パフィが先手を取りナイフで牽制した後、最も狙いやすい着地や反撃直前のタイミングで魔法を放ち体勢を崩す。その時にはパフィによる追撃は既に始まっている。その間に、ミューゼは攻撃の為の魔法を準備するという手筈なのだ。
速度重視で威力は低いが、相手に反撃をさせる間を与えない2人の得意技であり必勝法である。
息ピッタリな2人の連携を見て、ネフテリアも感嘆のため息をついている。
「貴女達、そんなに強かったの?」
「えっとまぁ、これくらいなら……テリア様から火の魔法も少し教わりましたし」
伊達に2人だけで、危険生物の多いレウルーラの森に出かけてはいないのである。
(別リージョンの2人がここまで当たり前のように鋭い連携をするとか、兵士の中にも滅多に見ないんですけど。この2人やっぱり城に来てくれないかしら……っていうかわたくしも混ざりたい!)
羨望と嫉妬を宿した目は、一斉にミューゼとパフィに向けられた。……そう、ネフテリアだけではなかった。
「おねーちゃん達すごーい!」
(もともと託すつもりだったけど、これなら安心してアリエッタを任せられるわね。それよりも……今の連携を見てアリエッタが興奮してる! 羨ましい! 私もこんな熱が籠った目で見られたい!)
メレイズはともかく、エルツァーレマイアは最初こそ真剣な目で見ていたが、目にハートを浮かべたアリエッタに見つめられる所から抱き着かれる所まで想像し、「むふっ」っと声を漏らしていた。
一方注目されている2人は、慣れない視線に戸惑っていた。
「えーっと、とりあえず移動するのよっ」
「そうそう! 森を抜けましょ!」
2人共、顔を赤くしながらそう提案するのが精いっぱいだった。
一行は木を生やしたカメのような生き物を見つけた場所に残し、エルツァーレマイアの指し示す方向に歩を進めていた。
どうせ目的地どころか何も知らない状態で探索するなら、何かを感じるらしいエルさんに従えば、きっと何かを見つけるだろうという、雑な思いつきで動き出したのだ。
安心して獣の対応を任せられると知ったネフテリアは、2人を前に出し、手を繋いだエルツァーレマイアとアリエッタとメレイズにその後を歩かせ、自分は一番後ろを歩く事にした。
(はぁ~♡)
『ちょっとアリエッタ、ちゃんと前見て歩かないと……』
出発してしばらく経つが、アリエッタの顔は恋する乙女のように呆けている。ミューゼとパフィの戦闘を見てからずっとこの調子なのである。
そのせいで、今は普段とは逆にエルツァーレマイアの方がアリエッタに注意している。
アリエッタの様子を横で見ているメレイズが、アリエッタの顔とその視線の先を交互に見て、その気持ちに気が付いた。
「アリエッタちゃんは、どっちのおねーちゃんの方が好きなのかな?」
「えっ!?」
「え?」
前を歩く2人が、勢いよく振り向いた。その顔には質問に対する驚愕が見て取れる。
アリエッタにとっては突然振り向いたように見え、2人の事をじっと見ていたのが気まずかったのか、真っ赤になって俯いてしまった。
もはや憧れや恩を超えた想いを秘めているが、感情を隠せない子供の仕草は分かりやすい。アリエッタ以外の5人は、その気持ちにあっさり気づいてしまった。
「これは負けられないのよ」
「あたしだって自信あるよ」
2人はニヤリと笑い合い、アリエッタの前で同時にしゃがんだ。そして、語り掛ける。
「アリエッタおいで♡」
「おいでなのよアリエッタ」
「!?」
手を伸ばして受け入れるポーズになり、『おいで』と言う。アリエッタはその意味を理解していた。しかし、同時に言われるのは初めてである。
片や不思議な髪の毛をふわふわ浮かせた優しい美人のお姉さんで、腕の間には豊かな母性が柔らかそうに形を歪ませ待ち受けている。
片や微妙に成長しきっていない可愛らしさを残したままのお姉さんで、少し短いスカートのまま屈んでいるせいで、見えてはいけない部分が少しみえてしまう状態で待ち受けている。
(えっ、これどっち行けばいいの? っていうか行っていいの? なんでそんなに色っぽいの?)
後ろで3人がニヤニヤしている事にも気づかず、さらに顔を赤くして混乱するアリエッタ。
とりあえずミューゼの方に向けて歩を進めたその時、「あ……」という声がパフィから漏れた。その声に反応してその顔を見ると、なんとも悲しそうな顔をしている事に気付いてしまう。
(えっ、そんな顔しないでよ……ぱひーの方に行くから……)
方向転換して、パフィの方に向かうと、今度はミューゼから「そんなぁ……」という呟きが漏れる。その声が悲しそうに聞こえ、思わず振り返った。
「ふえぇぇ……」(どうしよう……)
しまいには、2人の間でオロオロしだしてしまう。
これでは埒が明かないと、エルツァーレマイアがアリエッタの頭にポンと手を置き、耳元で囁いた。
『アリエッタはどっちのお嫁さんになりたいのかなー?』
『およっ!?』
アリエッタの頭が爆発したように、瞬時に真っ赤になった。
その顔を見て、これ以上はアリエッタが可哀想かなと判断したネフテリアが、2人の対決を一旦中断させる。
しかしこれでは展開が中途半端過ぎると、ある提案をした。
「悩ませたお詫びに、2人でアリエッタちゃんにチューしてあげて」
当然のように、2人共が即了承。嬉しそうにアリエッタの両側に移動した。
右をみればミューゼ、左を見ればパフィ。後ろからはエルツァーレマイアが自分の体を抑えている。エルツァーレマイアの揶揄いのせいでさらに冷静さを失っているアリエッタにとって、目を回す程の事態である。
(なんでなんで!? これいったいどーゆー状況!?)
慌てて動こうとするが、後ろから頭を撫でられ、抵抗力を削がれる。両側の2人も大人しくなったのをチャンスと見て、頬や顎を撫でてあげた。
動けなくなったが思考は止まらないアリエッタ。幸福感に包まれながらどうしてこうなったのかを必死に考え、解決策を捻りだす。が、そもそも動けないのにそんな策があっても意味は無い。結局なすがままになっている。
そしてついに、両側の2人の顔が動き、左右の頬に唇を当てがった。
(………………)
その瞬間、アリエッタの動きが完全に停止した。
後ろではメレイズがキャーキャー騒いでいるが、そんな声も聞こえていない。周囲にとっては一瞬だが、アリエッタにとってはとんでもなく長く深い時間が過ぎたように感じていた。
そこにミューゼが周囲に気付かれないようにフィニッシュを決める。
ちろっ
どさくさに紛れて、アリエッタの頬を舌で撫でた。
『ぷしゅ~』
そんなトドメの一撃を食らったアリエッタは、口から何かが出るような音を発しながら、エルツァーレマイアの腕の中で、くたりと体の力を失ったのだった。
「ふぅ……やっぱりこの生き物可愛すぎるわ」
「アリエッタちゃんはもう立派なオトナだね!」
なぜかアリエッタを倒した一行は、エルツァーレマイアが彩の力で作ったクリーム色の箱のようなモノにアリエッタとメレイズを乗せて、上機嫌で森の中を再び歩き始めた。
気絶こそしていないが、あまりの出来事に頭の中ごと脱力しきっているアリエッタは、浮かんでいる箱の中で横になって、メレイズに膝枕をされて撫でられている。
そんな緊張感の無い一行を、何者かが離れた木の上から見守っていた。