祐希さんと別れた後‥ホテルへと戻る。
後から行くと伝えていた小川さんに連絡するが、既読がつかない‥。
もう部屋に帰ったんかな‥。そう思い‥そのまま自分の部屋に戻る事にした。その後、食堂へ‥部屋を出る前にもう一度小川さんに連絡するが、出ない‥忙しいんかな‥。
「あっ、小川さん!!先に来てたん?連絡するのに出ないから‥まだかと思ってた」
食堂に向かうと‥小川さんは既に食事を始めていた‥。
いつもなら一緒に行くのに‥お腹空いてたん?と笑いながら聞くが‥”ああ‥“と短い一言を呟き‥そのまま黙々と食べ続ける‥。
‥なんかいつもと違う?
どことなく違和感を感じたせいもあり‥話しかけられなかった。
夕食が終わるとすぐに小川さんは食堂から出ていってしまう‥
なんか今日は‥どうしたんやろ‥
「あれ?お前らケンカでもしたの?」
後ろから声をかけられ‥振り向くと太志さんと智さんがいた。
「えっ‥ケンカって。そんな事ないっすよ!練習終わってから‥まだ話してもおらんのに‥」
「あれ?その後小川に会わなかった?ホテル戻ったけど、藍が遅い!ってアイツ出かけたから‥てっきり藍のところに行ったんだと思ったけど‥」
行き違いだったのかな‥と智さん。
「そうやったんですね‥でも、会ってないから‥違うんかも‥」
更衣室をでてから真っ直ぐ部屋に戻る時も小川さんには会っていない‥
行き違いだったのか‥それで怒ってるんかな?
‥ん?怒ってる?
「あっ、あのう‥智さん?」
「ん?なに?」
「小川さん‥なんか‥怒ってます?」
おそるおそる聞いてみる‥
太志さんがケンカしてると勘違いしてるって事は‥小川さんは怒ってたんじゃないかと‥。
「ああ、怒ってたっぽいね、でも俺が話しかけた時はいつも通りだったよ」
「‥マジか‥」
だから、話しかけてもいつもと違ったのか‥
ん?ってことは‥
「えっ、小川さん、俺に対して怒ってるんすか!?」
2人の顔を見ると‥揃って頷かれる‥。
「さっきの2人の様子見てたら‥どう見ても藍に対してだよな?」
「うん、藍が来てから不機嫌オーラ出てた気がする」
「え‥‥‥どうしよう‥‥‥」
小川さんとはよくお互いに言い合ったり、揶揄われたりしていたが‥今まで不機嫌になるような事はなかった‥
なんとかしないと‥。
小川Side
‥俺としたことが‥大人気なかったかな‥。
いつも通りの対応をすれば良かった‥それだけだったのに‥。
脳裏に焼き付く光景‥。
藍があまりにも遅く‥気になったので更衣室まで向かう途中‥有志に会った。藍の事を聞くが、更衣室には誰も居なかったと言われ‥
戻ろうかなと思った‥が、とりあえず更衣室のそばまで来た時に、誰かの話し声がした‥。
‥この声‥藍?
少し開いていた更衣室のドアをゆっくりと開けると‥‥
そこには‥‥‥‥‥
藍と‥‥‥‥
祐希さんが抱き合いキスをしている姿だった‥。
‥‥‥‥‥。
そして‥気づけば、そのまま部屋に戻っていた。
ベッドに無造作に仰向けになり、意味もなく天井を見上げる‥
キス‥してたな‥
藍‥祐希さんには関わるなと言ったのに‥
何故か‥
キスをしている藍の顔ばかりが脳内にこびりついて‥
気分が悪かった‥
俺が‥見たこともない表情で‥知らない奴みたいだった‥
「‥あのバカ‥」
天井を睨みながら‥思わず呟く‥。
部屋にいても落ち着かなく‥気晴らしに飲物を買いに行くことにした。
エレベーターに向かうと‥
祐希さんがいた‥
「あれ?1人?智君と一緒かと思ってた!笑」
「いつも一緒じゃないっすよ‥」
‥祐希さんの顔が見れない‥。またあの光景が浮かぶ‥。
「?‥どうかした?なんか‥いつもと違うけど‥」
‥俺はそんなに顔に出ているのだろうか‥重症だな‥はぁ‥
このままでいいわけないか‥
意を決して、祐希さんの顔を見つめる。
「祐希さん、話あるんだけど、いいですか?」
そんな俺の顔を見て、いいよ、 俺の部屋でいい?と‥案内される‥
「祐希さん、ハッキリ言うけど‥もう藍に近づかないでください」
部屋に入るなり、俺はそう伝える。これだけ伝えたかったのだ。
「藍に?」
「当たり前でしょ?既婚者なんだから‥そういった意味で藍にはもう近づかないで欲しい」
既婚者という言葉をあえて強調した。祐希さんなら分かってくれると思ったから‥
なのに‥‥
「それは‥約束出来ない‥」
「はっ?自分で何言ってるか分かってるんですか?」
「わかってる‥勝手な事を言ってるのも重々理解してる‥」
「いや、わかってない!祐希さんは知らないんだよ‥アンタと別れてから藍はいつも泣いてた‥俺はそれをずっと見てたから‥でも、ただ別れただけなら仕方ないと思ってた‥なのに祐希さんは結婚したのに藍に近付いてくるじゃん?なんで?‥」
話しているうちに感情が溢れてきた。祐希さんはそんな俺をただ見つめている‥。
「言えない?‥とにかく藍には近づかない!これだけ、守ってください」
それだけ言って部屋を出ようとした‥
しかし‥
「小川‥更衣室に来たよね?」
「はっ?」
「更衣室‥覗いたでしょ?」
もう後ろを振り向き部屋を出ようとしている俺に祐希さんの言葉が降りかかる‥
「なっ‥んで‥」
「気配がしたから‥藍は気付かなかったみたいだけど‥」
話しながら‥祐希さんが近づく。
「何となく藍の方を見てる気がして‥小川ってさ‥藍が好き?」
「はっ?なにそれ?誰があんなガキ‥」
信じられない言葉に悪態をつく。そもそも俺が智さんと付き合っている事を祐希さんは知っているのに‥。
智さん以外に好きな奴なんているわけがない‥
ましてや、あんなに祐希、祐希ってうるさいやつに‥
そんな俺を‥見つめる祐希さんが嫌になり部屋を出た‥
何もかも見透かされているような気がして‥
「まじかよ‥」
自分の部屋に戻ると‥ドアのところに藍がいて座り込んでいた‥
俺の呟きに気付いたのか‥パッと顔を上げ立ち上がる‥シャワーを浴びた後なのか、ほのかに石鹸の匂いがして‥
「小川さん!どこに行ってたん?携帯連絡しても出ないし‥」
「‥ああ、携帯部屋に置いたままだったから‥ていうか、何で待ってんの?部屋の前で‥」
そう言いながら、藍を見ると‥髪を乾かしていないのか濡れた髪が半渇きになっていることに気付く。
触れてみると‥時間が経っていて冷たい‥。
ちゃんと乾かせよ!そう言いながら、藍を部屋に上げベッドに座らせて‥バスタオルでガシガシと髪を拭いてやると‥
「痛‥痛いっすよ‥ヘヘ」
乱暴に拭いてるのに‥何が可笑しいのか、嬉しそうに藍が笑う‥
「お前がちゃんと乾かしてないからだろ!」
そう言うと、ゆっくりと俺を見上げ‥
「‥ごめん‥」
「そう思うならちゃんと乾かせよ!」
ううんと首を振る。
「食堂のこと‥俺、何かしたんやろ?だから小川さん、機嫌悪かったと思うから‥ごめんなさい」
真っ直ぐに俺を見つめる藍の顔は‥
不覚にも綺麗だな‥と思わせる威力があった。
そして、
祐希さんとキスをしていた藍の表情が蘇る‥
あんな藍は知らない‥
まだ子供だと思っていたのに‥
俺の居ない所で‥あんな表情で‥祐希さんを見ていたのか‥
自分の‥何かが切れた気がした‥。
「小川さん?」
手の止まった俺を不思議そうに見る藍を後ろに押し倒し乗り上げる‥
“藍が好きなの?“
祐希さんの言葉が‥鬱陶しいぐらいに脳内を駆け巡る。
うるさい‥
うるさい‥
「?どしたん?‥重たいやん笑、小川さん‥」
そう言って笑いながら俺を押し上げようとする藍の腕を押さえ込み‥
「うるさいんだよ‥ガキのくせに‥」
悪態をつきながら‥藍の‥唇に‥
自分のを重ねた‥。
ああ‥
もう戻れない‥‥‥
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