テラーノベル
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窓のない、深紅の布に厚く覆われた最深部の監禁部屋。
ここでの生活が始まってから、私は一度も太陽の光を見ていない。
今が朝なのか夜なのか
それすらも彼から与えられる食事の時間や、彼が部屋を訪れるタイミングでしか推測できない。
「……っ、あの変態ヤンデレ、いつか絶対に後悔させてやるんだから……!」
ふかふかの、沈み込むような特注の寝台の上。
私は最高級のシルクを用いた、肌が透けるほど薄いネグリジェを纏い
クッションをフィンセントの顔に見立てて力一杯殴りつけていた。
数週間前、完璧だと思った隠し通路での脱走に失敗し
この「王の寝室」という名の檻に閉じ込められた夜のことを思い出すだけで
胃のあたりがムカムカと煮えくりかえる。
あんなに乱暴に、抗えない魔力と腕力で組み伏せて。
「二度と逃げられないように、僕の印で塗り潰してあげる」なんて耳元で囁きながら
私の身体の隅々まで自分の所有物だと刻み込むような、あのどろりとした執着。
思い出すだけで、首筋や鎖骨に残された
消えかけては上書きされる薄い吸い痕が、今も熱を帯びて疼くような気がして、顔がボッと赤くなる。
なんだか悔しいし、腹が立つ。
あんな、原作の没データでしか語られなかったストーカー気質の男に
人生を賭けた亡命計画を台無しにされたことが、何よりも許せなかった。
……それなのに。
「……お目覚めかな、僕の可愛いお人形さん」
音もなく、分厚い扉が開く。
現れたのは、仕事終わりの正装のまま
外套すら脱がずに駆けつけてきたフィンセントだ。
彼は私を一目見た瞬間、琥珀色の瞳を蕩けそうなほど甘く、そして歪んだ情熱で細めた。
「げっ、変態……!昨日の今日でよく笑ってられるわ!」
「おや、手厳しいね。でも、そんな風に頬を真っ赤に染めて睨んでくれるのも、僕にとっては至上の愛の告白に聞こえるよ」
フィンセントは迷わずベッドに上がり込むと
逃げる隙も与えず私の腰を強引に抱き寄せ、自分の膝の上に乗せた。
私はもはや、彼に抱き上げられることに身体が勝手に反応して、力が抜けてしまう。
逃げなければいけないのに
彼の逞しい胸板の厚みと、特有の香水の香りに安堵してしまう自分が何よりも腹立たしい。
「……お仕置きが効きすぎたかな? まだ足元がふわふわしているね。それとも、腰に力が入らないのかい?」
「……っ! 誰のせいだと思ってるのよ、この絶倫バカ……!」
「僕のせいだね。君があまりにも可愛い声を出すから、ついいじめすぎてしまった…反省はしているけれど、後悔はしていないよ」
フィンセントは私の怒りなど、春のそよ風程度にしか思っていないようだ。
彼は私のネグリジェの肩を、指先で愛おしそうに少しずらす。
白皙の肌に浮かぶ赤紫色の生々しい自分のつけた痕を、彼は芸術品でも眺めるかのようにうっとりと眺め始めた。
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