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あの後、終電の時間に間に合うように真衣香の部屋を出た坪井。
帰る直前に、玄関先で振り返り言った言葉。
『ごめん、言い忘れてた』
これ以上何があるのだろうと、自然と身構えた真衣香。
『青木の連絡先、聞いてて。これから会うまでの間、直接連絡取ることになるんだ』
またひとつ。真衣香の中で坪井の〝過去〟が、過去ではなくなっていく。
『優里ちゃんの連絡先は聞いてないから、何かあったらお前を通して連絡してもいい?』
それはきっと、坪井なりの真衣香への気遣いなのだろうとすぐにわかった。
手間を考えれば、芹那とも優里とも坪井が連絡を取り合えば一番なのだ。それを敢えて真衣香に託す。
嬉しくもあり、また恐怖でもあった。
〝優里の行動の理由を知ること〟
そこから逃げ出せないことを意味していたから。
――そう。
“とりあえず”今のところ芹那と坪井の間には、優里に連絡しなければいけないことは起こっていないらしく。
(……芹那ちゃんとはまだ連絡取ってないのかな)
ホッと胸をなで下ろし息を吐いた。
八木は座ったまま真衣香の背中をコツン、と軽く握った拳で小突き「何かあるなら言えよ」と小声で言う。
自己責任だ、と真衣香の背中を押したはずなのに。
結局いつも優しいのは変わらない。真衣香は振り向き、ふにゃりと弱々しい笑顔で答えた。
そんな二人の様子を、冷ややかな笑顔で坪井が眺めていた。
真衣香が坪井に視線を戻し、目が合ったところで。
突然、ピクっと肩を揺らした坪井がポケットからスマホを取り出す。
画面をジッと暫く見つめた後「……今週か」と、あからさまに深くため息をつき目を細めた。
八木から少し遠ざけるように真衣香の腕を掴んで引き寄せる。
緊張から、真衣香が咄嗟に俯くと耳元で低く張り詰めた声が響いた。
「青木から連絡あった、この土日どっちかで会うことになりそうなんだけど」
ドクン、と自分の心臓が大きく跳ねたように真衣香は感じた。
「……う、ん」
絞り出した声が、少し掠れている気がする。
(連絡……もう、取り合ってたんだ……そっか)
さっき、不覚にもホッとしてしまった真衣香を嘲笑うかのようなタイミングだった。