「さっ。ここがオレたちの結婚式の会場」
樹に手を引かれながら辿り着いたその場所。
日差しが差し込んで眩しく光るその入口まで近づいていくと・・・。
「望月さん」
「三輪ちゃん!」
すると、そこには三輪ちゃんの姿。
「おめでとうございます」
「三輪ちゃんまで来てくれたんだ」
「もちろんです。っていうか、今日私結婚式の司会させて頂くので」
「えっ?三輪ちゃんが?」
「はい。高杉さんと一緒に」
「そうなんだ!?」
「オレがお願いしたんだ。二人に」
私がビックリしていると樹が隣でそう伝えて来る。
「今日は透子とオレがお世話になってる人や身近な人たちに直接この結婚をお祝いしてもらいたくて、人前式にしたんだ。神様にじゃなく、皆の前で幸せを誓いたいなって思って」
そっか。
人前式にしたんだ。
最近ブライダルの仕事に関わるようになって知った人前式。
本来の結婚式のような神様に誓うカタチではなく、家族や友人や親しい人たちの前で結婚を誓って、その周りの人たちに証人になってもらうというスタイル。
だから場所も結婚式の進め方も自由に自分達の理想とする自由でオリジナリティ溢れる結婚式が挙げられる。
今しているブライダルの仕事では、実はその人前式をメインにしたプロデュースだったりする。
新郎新婦もしくはその友人たちが人前式で自由に演出が出来るプランを作ったり、そこでうちの会社のいろんな商品を更に魅力あるカタチとして輝かせたり。
かしこまらずに時にはカジュアルだったり、近い距離でお祝いしてもらえたり、このスタイルならではの魅力をもっと知ってもらいたくて。
そしてこのうちの会社の商品で更に幸せを感じてもらいたい。
私がこの会社に入って思い描いていた理想のカタチが今ようやく実現していて。
自分の作った商品で幸せになってもらいたい。
結婚する二人にとって一番人生の中で幸せな瞬間に、自分の商品がその幸せに関われるという何より嬉しいカタチ。
その幸せをたくさん連鎖させられて大きく出来る今の仕事がすごく楽しい。
それはきっと私の側に樹がいてくれたから。
樹が側でずっと幸せをくれていたから。
だから今の私がいる。
自分だけじゃなく、たくさんの人の幸せを共に感じられる今の自分に導いてくれたのは、何よりも樹がいてくれたから。
そして気心知れて頼りになる三輪ちゃんも今その仕事を共にしてくれている。
「まさか自分がするなんて思わなかった・・」
もちろんこの今の仕事は樹も知っていて。
いろんな相談に乗ってくれたりアイデア出してくれたり、常に側で力になって支えてもらっていた。
「だろうね。透子は他の人たちが幸せになることで、自分のことのようにいつも幸せになってたからね」
「だってもう私はすでに樹と結婚出来て幸せだったから」
特に私はカタチにこだわりたかったワケじゃなくて。
樹とずっといられることで幸せだったから。
だから、このブライダルの仕事は、ただ単純に関われていることで幸せだった。
「でもさ。オレは誰よりも透子を幸せにしたいんだよね。そして透子に誰よりも幸せだと感じてもらいたい。だから今日は透子がその幸せを感じる日。時間かかっちゃったけど、ようやく透子にもその幸せ感じてもらえる」
「樹。いつからそんなこと考えてくれてたの?」
「ん?ずーっと前から。透子はさ、つい自分のことより他人を優先したり、周りの幸せを自分以上に願ったりさ、自分でなかなか幸せを手にしようとしない人だから。でもそんな透子だからこそさ、誰よりも周りの人たちを幸せにしてる。その優しさでたくさん救われて幸せになってる人がいるんだよ」
だからこそ自分のことが好きになれなかった時もあった。
誰にも必要とされてないって思う時もあった。
ホントの自分はどんな自分かわからなくなったり、自分を好きだと思えない時もあった。
だけど、自分だけは自分を好きでいたかった。
好きになってあげたかった。
そんな時、出会ったのは樹だった。
樹が何気なく私の心に自然に入って来て、時には優しく、時には激しく揺さぶった。
だけど樹は、そんな私の隠していた心も、気付かなかったことも、躊躇していたことも、こんな風に全部受け止めてくれた。
私の方がきっと樹に救われてる。
いつでも私を信じてくれて認めてくれる樹に。
きっとそんなことも気づいていない樹に。
「だから今日は皆で透子を幸せにしたいんだよね」
「皆って?」
「透子のことが好きな皆。だからさ、透子を幸せにしたいって皆が力貸してくれた。オレだけじゃないんだよね。透子を幸せにしたいって思うのは」
「そうですよ~。望月さん。はい。これ。私も望月さんに幸せになってほしくて作ったんで受け取ってもらってもいいですか?」
そう笑顔で言いながら三輪ちゃんが私にあるモノを渡してくれる。
「ブーケ・・?」
それはウエディングブーケ。
これが手作り?
すごい。
お花の組み合わせも色もこのブーケの形もすべてが素敵。
さすが、三輪ちゃん。
センスがいい。
私の趣味わかってくれてる。
「はい。私が望月さんを思って作りました。いつもどんな時も引っ張っていってくれて、常に私の憧れです。望月さんに今もついてこれてホントに嬉しいです」
「三輪ちゃん・・・。こちらこそいつも力貸してくれてありがとう」
いつも側で助けてくれてありがとね。
後輩だけど、すごく頼りになる存在。
「でもそんな望月さんなのに、早瀬さんのことになると、すっごく心配性で自信無くなって余裕なくなっちゃって」
「いやいや、ちょっと三輪ちゃん!もう前のことだから!」
三輪ちゃんがまさかこんな時に暴露しようとして急いで止める。
確かに三輪ちゃんは樹とのこと一番近くでその都度見守って来てくれてたもんな。
時には冷静に、時には優しく寄り添ってくれた。
三輪ちゃんのおかげで、私も樹も頑張れた。
「何?透子、三輪さんにはそんな姿見せてたんだ」
「はい。望月さん本人は気付いてなかったですけどね。もう隋分最初から早瀬さんのこと好きになってたのバレバレでしたし、早瀬さんいなければホント望月さんは望月さんでいられなかったですから」
「そうなんだ?」
嬉しそうに樹がそう言いながらこっちを見て来る。
二人して絶対面白がってる・・。
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