「ここか?」
高地が車のナビと目の前の建物を見比べる。港原から得た情報をもとに、事務所へとやってきた京本班の6人。
「でも人の気配ないですよ」
ジェシーがドアを開けて外へ出ようとしたところを、「危ないだろ、一人で行くな」と大我に止められる。
「大丈夫ですよ」
ジェシーは余裕の笑みも見せている。
「こんな捜査するなら、SITを動かしたほうがいいんじゃないですか」
慎太郎の言葉に、「勉強してんじゃん」と北斗は呑気に言う。「でもSITは立てこもりとか専門だからな」
なるほど、と慎太郎は返す。「でもなんで四課は来なかったんだろう」
知らね、と大我はぶっきらぼうに答えた。
「みんな、拳銃確認して」
車内で装填されている弾の数を照らし合わせ、うなずき合うと一斉に車を出る。
玄関から堂々と入り、銃を構えながら進んでいく。
やがて階段が見えて、班は二手に分かれた。構成員を見つけたら威嚇射撃をすると事前に伝えられていたが、一向にその音は聞こえてこない。
「いないな…」
大我はつぶやいた。後ろの北斗と慎太郎も、呆気にとられて拳銃を下ろした。
小さめのオフィスのような部屋の中は、デスクこそあるもののパソコンなどの類いはない。引き出しを開けてみてももぬけの殻だった。
「高地ー? そっちは?」
それぞれ装着しているインカムで喋りかける。
『いない。潜伏してる気配もなし』
階段を降りて来た3人も、同じような表情をしていた。
「たぶん八尾川が事件のことを報告でもして、告発を恐れて引っ越ししたんでしょうね」
樹がぽつりと言った。
「……撤収」
大我の一言で、6人は捜査車両に戻る。
「残念でしたね。どうします? 主任」
北斗が声を掛けた。
「移動先を何としてでも割り出す」
はい、と5人は声を揃えた。
数日後、ジェシーと慎太郎は夜道を歩いていた。事務所があった場所の近くへ聞き込みに行っていたところだ。
慎太郎はスーツのジャケットを脱ぎながら、ジェシーに話しかける。
「収穫はなしか。…にしても、やっと帰れますよ。事件起きたらこんな忙しいって聞いてない……ってジェシーさん、聞いてます?」
突然、ジェシーは道のど真ん中で立ち止まった。
その視線の先には、ガードレールにもたれる一人の男性がいた。携帯を耳に当てていて、何やら電話をしているようだ。ジェシーは素早くポケットからスマホを取り出し、みんなで共有している八尾川の顔写真を開く。
慎太郎を見て指さしをすると、気づいたようで「……!」と目を見開いた。
「…職質します?」
しかしジェシーは首を振って声をひそめる。「尾行する。敵のアジトを見つけなきゃ」
慎太郎はごくりと唾を飲んだ。もう一度男のほうへ目を向けると、スマホを持ったまま歩き出したところだった。
「腰道具持ってる?」
腰道具、と聞き返すと右手の人差し指と親指を伸ばしたポーズをする。「あと防弾ベスト」
ああ、とうなずいて自身の懐をパンと叩く。
「よし、行こう」
2人は足音を忍ばせて、八尾川らしき男の後を追う。
「…主任に言っとかなくていいんですか?」
道行く人に聞こえないようそっと耳打ちすると、ジェシーはいたずらっぽく笑った。
「手柄立てたら報告しよう。そのほうがカッコいいじゃん」
慎太郎も苦笑する。ジェシーについて追っていくと、やがて男は街中にひっそりと佇む小さく古ぼけた雑居ビルへ、外側の階段を上って入っていく。
2人は顔を見合わせる。
「……3階でしたね。突入しますか」
ジェシーは無言でうなずいた。付いて来い、とばかりに。
懐から拳銃を取り出し、揃って駆け出した。
続く
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