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「閉まってる…」
発見した狩崎組の事務所らしき建物だが、階段を上った先の裏口は施錠されていた。
「この古さなら蹴り破れますよ。俺、柔道だったんで」
慎太郎はそう言うなり、右足で扉にキックを見舞う。何度目かのとき、ドアが軋んだ音を立てて外れた。
ジェシーが先陣を切って駆け込む。
中には、屈強な男が数人待ち構えていた。ドアを蹴破る音で気づかれたのだろう。
「お前ら、誰だ!」
真ん中に立つ男が叫ぶ。慎太郎は顔を引きつらせるが、ジェシーは怯まない。
「狩崎組だな」
男たちは微動だにしなかった。否定をしないのを見て懐に手を伸ばすが、また主格と思しき男が声を上げる。「何者だって聞いてんだろ!」
「警察だ。動くな!」
ジェシーは相手を舐めるように見回す。「この中に八尾川彰はいるか」
誰も声を発しなかったが、肩を震わせた男がいた。そう、彼らが追ってきた男だ。その方を向いて、
「傷害罪。わかってるな」
アメリカでの癖で、銃を取り出し撃鉄を起こした。
「FBIなんでね、平気で撃てますよ」
撃てるとは言ったものの、日本だから無用で発砲することはできない。
しかし、構成員たちは恐れる様子もなくこぞってポケットから拳銃を取り出してきた。
仕方ない。
ジェシーは覚悟を決めて引き金に指を掛ける。
だがそこで彼らの鼓膜を揺らしたのは、「パーン!」という明らかな発砲音だった。
2人の刑事が振り返ると、そこには拳銃を真っ直ぐ上に挙げた大我が立っていた。後ろには高地と樹、北斗がいる。
慎太郎はほっとして、強張っていた肩の力が抜けた。
「逮捕状が出ている。大人しく投降しろ」
大我は言って、持っていた紙を突き出す。その間に、慎太郎の腕を北斗が掴んで後ろへ引く。
だが、構成員の1人が銃口を向けた。またもや耳をつんざくような音がして、次の瞬間、北斗の身体は後方へ吹き飛ばされた。
紙一重で撃たれなかった慎太郎が駆け寄ってすぐに抱きかかえ、裏口から出ていく。
大我が目配せをしたので、樹とジェシーが引き金を引く。
「高地!」
大我の声で、入り口で拳銃を持つことなく固まっていた高地がはっと我に返る。
応戦し始めて4人は何人かの相手の銃を奪った。何発も続いていた音が止むと、組み伏せた構成員の手にそれぞれ持っている手錠を掛けた。
「とりあえず現行犯は公務執行妨害と殺人未遂になりそうだな」
構成員を連れ出しながら、大我は言う。言葉を向けた先は高地だ。
「あと銃刀法違反」と高地は床に落ちている銃を拾う。それから「あっ」と声を上げた。
「北斗、大丈夫かな」
慌ててビルを駆け降りると、ちょうど聞き慣れたパトカーのサイレンの音と救急車のサイレンが遠くから聞こえてきた。
階段の下で、倒れている北斗とそばでひざまずく慎太郎がいた。
「慎太郎、北斗に何があった⁉︎」
樹が叫んだ。
「銃弾を受けて、立ち上がったあと倒れたんです。血は出てないけど意識がなくて、すぐ救急車呼んで…」
やがて到着した救急隊にも事情を話し、ストレッチャーに載せられる。
と、そのとき慎太郎が言う。
「田中さん、その手どうしたんですか」
え、と3人がつぶやく。気づかれないように後ろ手で右手首を押さえていた樹は、罰が悪そうにうつむく。
「見せてみろ」と高地に腕を掴まれ、顔をしかめて差し出す。
手首から下が真っ赤に染まっているのを見て、「ほら、お前も同乗して病院行きだ」と背中を押す。
「別に大丈夫ですって。かすっただけで」
言い張る樹に、
「これ命令な。逆らったら承知しねぇぞ」
腕を組んだ大我に言われて、大人しく北斗に付き添った。
パトカーと救急車の違うサイレン音が遠ざかっていき、残った4人は捜査車両へと戻る。
「ジェシー捜査官、森本巡査長」
普段聞かない大我の呼称に、呼ばれた 2人は背すじを伸ばす。
「戻ったら事情聴取な」
はい、と落ち込むジェシーの肩を「でもよくやってくれたよ」と高地が叩く。
1台の車は、静かに現場を後にした。
続く