前書き
コユキイラストを 陰東 一華菱様 にいただきました!!
ありがとうござます!!
善悪に背を向けてクラックの奥へと踏み込んだコユキは、意外なほど簡単にアーティファクトの置かれた地下一階に辿り着くのであった。
目の前の台座に置かれた品物は七つ、奇麗な新品の傘が五つ、そして、使用感あふれる中古っぽい傘が一つ、その横には一段高く設え(しつらえ)られた台座に、何だろうか、天窓から光を受けた神々しい感じで納められた、汚い使い古ぼけた一枚の地味な手拭いが置かれていたのである。
コユキは幼い頃に聞いていた『傘地蔵』のストーリーを思い出すのであった。
「確か、傘を売りに行ったお爺さんが売れ残った傘を持ち帰って、帰宅の途中に雪に埋もれたお地蔵さんを見つけるんだったわよね? んで、五つの傘を被せた後、足りなくて自分が着けてた傘を着けてあげて…… そうだ! いつも六体だったお地蔵さまが七体有ったんだっけ! ハテナ展開よね、んで、もう傘もないし、仕方なく首に巻いた手拭いを頭に捲きながら言うんだったわね、ええと、確か…… 『お地蔵様、申し訳ねぇこってす、オラの汗で汚れた手拭でごぜぇますが、これで堪忍してくれろ』、だったわよね!」
言いながら自分の前の台座に置かれた傘六枚と手拭いを見つめるコユキであった。
暫く(しばらく)そうしていてやっと口を開くのであった。
「優しいお爺さん、そしてお餅やお米、お金までくれたお地蔵様、一つだけお借りします、ごめんなさい」
言うと、新品の傘の一つを手に、入口へと戻っていくのであった。
「ん? 何だこれ?」
人一人がぎりぎり通り抜ける事が出来たクラックの入り口付近には、さっき通り抜けた時には無かった石の塊が立ち塞がり、ずっしりと重厚な存在感と共に、コユキの脱出を拒んでいたのであった。
「『散弾(ショット)』、イッテテテテテ、何て硬さなの? うーん、これなんだろ?」
その後、デスニードルで手首を痛めつつも一切砕けない石の塊に手をこまねきつつ、脱出が出来ない事を悟ったコユキは、ウザくなったために頭に被っていた傘を脱いで台座に戻し、もう一回の希望と共に、入口へと戻ってみたのであった。
「あれれ? 出れちゃったんだけど?」
そう、身一つで入口へ向かったコユキは、何の抵抗も感じることなく脱出を果たしたのである。
コユキは頭を捻る、ポクポクだけでなくはっちゃけ~も同時使用して答えを導こうとするのであった。
「はっ! もしかしてっ!」
そう言葉を発すると、躊躇なくクラックの中に戻ったコユキは、台座に置かれた新品っぽい傘を二つ被ると、入口へと向かったのである。
コユキは言うのであった。
「やっぱり、ね」
コユキの目の前のせまっ苦しいクラックの入り口には、破壊不能な石の塊が二つ、立ち塞がっていたのであった。
これでコユキはこのクラックの仕組みに気が付く事が出来たのであった。
所謂(いわゆる)『盗めずの迷宮』、お宝を見つけてもそれを持った状態では脱出不可能なダンジョン、手ぶらで帰るしかないねぇ! あはは、悔しいでしょう? どう? どう? 今どんな気持ちぃ? って奴だろう……
なるほどね、割と意地が悪い仕組みの一つだろう……
コユキの瞳がギラリと虹彩に輝きを|湛《たた》えた……
「面白いじゃない!」
ほう? 言うなっ! んじゃあ、見せて貰おうじゃない、お婆ちゃん。
言い終わったお婆ちゃん、いいやコユキは台座に近づくと五枚の新品っぽい傘を全て重ねて自分の頭に被せて装着すると、古ぼけた中古の傘もその上に重ねて被るのであった。
これで六枚重ね。
更に残った一枚きりの手拭いをも後頭部から回してその身に帯びるのであった。
|但し《ただし》、でっぷりとした顎までは届かなかった為、仕方なく鼻の下にしっかりと縛り付けたのである。
いわゆる、コソ泥スタイルになった上で一体何をすると言うのであろうか?
確認の為だろうか? 入口までゆっくりと戻ったコユキは口にするのである。
「やっぱりね、この状態で七体ギュウギュウに入口を封じてるのよね!」
コユキの言葉通り、一体でも動かせなかったお地蔵さまが、ギッチリと詰まり切っていたのである。
その様を確認したコユキは、頭に被った六枚の傘と、鼻に引っ掛けた手拭もそのままに周囲をきょろきょろと見まわし始めたのである。
暫くの間、そうして周りを見つめていたコユキは不意に何かに気が付いた風で、呟くのであった。
「なるほどね、ここから地下二階に行ける訳ねぇ!」
言ったコユキの手には、しっかりと握られた地面から伸びたノズルが一つ、逃がさねえぞっ、的に捕まえられていたのである。
グイっと引かれたバーノズルは、抵抗もなく持ち上げられ、下層に繋がる階段をコユキの前に晒してしまうのであった。