テラーノベル
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――凄まじい風圧と、心臓を直接揺さぶるような爆音が、五感を強引に支配する。
滑走路を蹴り、浮き上がった瞬間、僕の零戦はラバウルを覆う真っ青な大空へと吸い込まれていった。
兵学校の練習機とは全く違う、本物の戦闘機の加速力。
わずかに操縦桿を動かすだけで、機体は敏感に反応する。
(これが、零戦……!)
だが、感動に震える暇などなかった。
今日のフライトは、ただの慣熟飛行ではない。哨戒――つまり、実戦の空だった。
風防の向こう、僕の斜め前方を飛ぶ二機の影が、容赦なく速度を上げていく。
編隊の先頭を走るのが、笹井中尉。
そしてその背後に、驚くほど滑らかな軌跡を描いてピタリと追従するのが、あの宮部一飛曹だ。
「速中、遅れるなよ。しっかりついてこい」
伝声管から響く笹井中尉の声は涼しげだったが、その飛び方は暴力的なまでに速い。
「は、はい……っ!」
必死で操縦桿を握り締め、スロットルレバーを押し込む。
飯を食う暇も惜しんで勉強し、習うことがなくなるまで操縦を叩き込んだ自負はある。
僕は秀才のはずだった。
なのに、追いつけない。
十六歳の体に鞭を打ち、脳が焼き切れるほどの集中力で前を行く二機を追いかける。
頑張っている。
自分でも驚くほど、必死に踏ん張っている。
それなのに、二機の背中は不気味なほど揺るぎがない。
特に宮部一飛曹の零戦は異常だった。笹井中尉の激しい機動に、まるで目に見えない糸で繋がれているかのように追従している。
(なんだ、あの人……。ついていくだけで死にそうだ……!)
呼吸をすることすら忘れるほどの圧倒的な洗礼。
その時だった。
前方の二機が、鮮やかな反転を見せて急降下していく。
――敵機来襲。
僕の視界にも、見慣れない斑模様の敵戦闘機の姿が飛び込んできた。
(うわ、ちょっと待って、待て待て待て待て!)
敵を捉えるとか、味方を援護するとか、そんな高等な思考は一瞬で吹き飛んだ。
とにかく笹井中尉の背中を見失うまいと、強引に機体をひねる。
その瞬間、僕の視界を掠めるように、一機の敵機が正面から強烈なスピードで突っ込んできた。
「わああああああっ!」
完全にビビった僕は、半狂乱になりながら、操縦桿のトリガーをがむしゃらに押し込んでいた。
バリバリバリバリッ!!!
機体が激しく震え、20ミリ機銃の曳光弾が、僕の目の前の空間へと乱射される。
狙ったわけでもない。ただ、怖くて引き金を引いただけだった。
だが――その乱雑に放たれた光の弾道に、突っ込んできた敵機が、自ら飛び込むようにして激突した。
ズガァンッ!
と、目の前で黒い煙が弾ける。
敵機はそのまま片翼を失い、ラバウルのジャングルへとまっ逆さまに落ちていった。
(……え?)
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
(当たった……? え、僕、いま落とした……?)
自分の手元と、落ちていく黒煙を交互に見つめ、コックピットの中で完全に唖然とする。
「――おいおい、嘘だろ」
伝声管の向こうで、笹井中尉の呆れたような、少し面白がるような、でも驚きを隠せない声が響いた。
必死についていくだけで手一杯だった16歳が、恐怖のあまり乱射した銃撃で、うっかり初陣初撃墜を記録してしまった瞬間だった。
コメント
3件
みぅです🤍🥀 第6話、読み終えました……! いやもう、初陣の描写がすごくリアルで、コックピットの中の息遣いまで聞こえてきそうでした。特に「ついていくだけで死にそう」って感覚、すごく伝わってきました。秀才なのに、実戦の前では無力な感じ……。 でも、恐怖でがむしゃらに撃った一発が偶然当たるっていう展開、めちゃくちゃ胸熱でした。笹井中尉の「おいおい嘘だろ」って反応も、なんか憎めない感じで好きです。 宮部一飛曹の異常なほどの追従、すごく気になります……。あの人の空は、何が違うんでしょう。次が楽しみです🌙
#学パロ?
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ユイ
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