テラーノベル
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下の階から、派手な戦闘音が響いて来る。
三階にいた面々も警戒しながら下層へと降りて行ったが……さっきから、現場が混乱しているのか。
無線から聞える声はあっちでもこっちでも被害報告で、いまいち状況が掴み切れない。
だからこそ此方も不安を覚え、部屋の入り口に向かって銃を構えているのだが。
「来ちゃう!? そろそろ来ちゃう!? 皆お待たせぇー! そろそろ件の賞金首ってのが登場するかもよぉ?」
「おい! いい加減配信じゃなくてコッチに集中しろよ!」
この状況でもお気軽に構えているソイツだけは元気そうだが、他の面々はかなりピリピリしていた。
ウォンテッドに敗北した場合のデバフとも呼べる弱体化……あれは正直、洒落にならないのだ。
普段通りに身体を動かす事も出来ず、対人戦などとても出来たものではない。
しかも今回はクランとして挑戦を受けている状態。
もしもこの戦闘に敗北した場合、クランメンバー全てにこのデメリットが降り注いだら?
そこまで行かなくとも今回の戦闘に参加して、討伐された者全員にデバフが掛かったら?
多分、クランから脱退する者が数多く出る事だろう。
宣言されていたデメリットが影響するのは、それこそ数日にも及ぶ。
その間に、他のクランが俺達の事を見逃すかと言われたら……間違いなく、否だろう。
美味しい狩場を独占したクランとして、数々のプレイヤーから恨みを買っているのだから。
一ヶ月程度で何をやっているんだと言われそうだが、たった一ヶ月でここまで下地を用意したからこそ、ウチのクランはここまで成長出来たのだ。
その骨組みを足元から、一度にまとめて崩されるのは不味い。
ここまで育てたキャラを捨てて、新規で始めるという選択肢に旨味が無い以上。
今回の戦闘に敗北した場合はクランその物を諦める他無いだろう。
だからこそ、負ける訳にはいかない。
なんて、思っていたのだが。
「なっ!? 撃て撃て撃て!」
急に部屋の扉が開いたかと思えば、誰かが部屋の中へと飛び込んで来た。
ソイツに向けて、部屋の中に居た全員がすぐさま引き金を引き絞ったが……。
入って来たのは、三階を警備していた筈の一人。
俺達は仲間に向かって、デカい弾をひたすらぶち込んだらしい。
興奮した馬鹿は、これにも気づかず倒れ込んだ相手に向けて銃弾を放ち続けている。
誤射……という割には、随分と不思議な状況。
だって仲間なら、この状況を理解している筈なのだ。
だからこそ、部屋に入る前に声の一つでも上げればこの様な事態にはならなかった。
しかしコイツは、まるで飛び込むみたいに室内へ入って来て――
「だぁぁクソッ! グレネード!」
理由、判明。
部屋へと飛び込んで来たソイツの背中に、ピンの抜けたグレネードがくっ付いているではないか。
キルした後のプレイヤーを使ったのか、それとも本当に部屋に入る前まで生存していたのかは分からないが。
それでも倒れ込んだ彼は、部屋の入り口付近で盛大に弾け飛んだ。
爆発音と共に煙が上がり、被害を受けた建物が土埃を上げる中。
手榴弾によっておかしくなった耳でも、確かに聞こえたのだ。
続けざまに響く、軽い発砲音。
デカい武器じゃない、もっと手軽で軽装。
しかも連射とはいえ、間違いなく意図的に引き金を引いている様なタイミング。
小さい武器のセミオート、つまりこっちの方が装備は整っている。
などと考えながら、銃を正面に構えたが。
「……は? 嘘だろ?」
ダメージ判定を食らい、視界がブレた。
いつだ? いつ撃たれた?
コレはゲームだからこそ、痛覚は共有していないのに。
あまりにも派手で大胆なやり方に圧倒され、自分の管理が後回しになってしまった。
腹と足に攻撃を貰っているらしく、自らのアバターがいつも通り動いてくれない。
そんな中、弾けた爆弾の煙の中から……スーツを着た男が、堂々と踏み込んで来たではないか。
ソイツは室内に入ると同時に引き金を絞り、銃口を室内の至る所に向けていく。
手に持っているのなんて、ハンドガンだ。
だというのに、周囲からは悲鳴が聞こえて来た。
視界に映っていた仲間達が一人、また一人と倒れていく光景。
ガンサバイブオンラインの“賞金首”。
これだけデカデカと宣伝していたのだ、どんな化け物が挑んで来るのかとワクワクしていたのに。
実際に登場したのはとんでもなく軽装の、しかもスーツの男。
コイツは特別な事なんて何もしちゃいない。
動きだって、他のプレイヤーと大して変わらないと言って良いだろう。
だが、“簡単な事”もしてない。
たった一丁のハンドガンで、部屋に居た複数名を短時間で片付けたのだ。
俺達が防弾ベストを身に纏っていると分かった瞬間、下半身を狙い。
少し怯んだところで銃口を上げて、額に一発。
常に移動を続け、極めて近い所から正確に。
特別ではないが簡単でもない、非常に冷静で淡々とした“殺し”の現場。
こんなのが、たった数秒間の間に起こった。
信じられない神業が目の前で繰り広げられ、やがて相手は此方に向かって銃を構えてから。
「これで、私の勝ちだ」
ピクリとも表情を動かさない冷血さを持って、此方の言葉など待たずに引き金を引き絞った。
ブラックアウトした視界に、耳に残った銃声。
やがて目の前には、ゲームオーバーの文字。
は、ははは……マジかよ、嘘だろ?
本当にたった一人で、これだけの人数を相手にしたのか?
しかも、持っているのはハンドガン?
いや馬鹿だろ、流石に映画の見すぎだって。
普段だったら、あんなのチートだって騒いだかもしれない。
けどアイツの戦闘は……どこまでも“普通”だったのだ。
もしかしたら、俺でも出来るんじゃないかって程度の動き。
でも絶対真似できないと断言できる程の、行動力と決断力。
銃社会ではない場所で育った人間ほど、銃と言うものに強い憧れを持つ。
そういうヤツ等が見る“銃”ってのは、大体映画やゲームの世界の物。
だからこそ、銃弾は当たる物だと錯覚する。
その結果、プレイヤーは“当てようと”躍起になるのだ。
ここで何が起きるか、“当てる”為に……“よく狙おう”とするのだ。
射撃している間立ち止まってしまったり、敵に姿を晒しながらもスコープを覗き込んでしまったりと色々。
このゲームをやって、よく分かった。
そんなもん自殺行為で、まずは“当てられない様に”する事が第一なんだ。
俺達はソレを、大火力先制攻撃で阻止してきたが。
相手は……そうじゃない。
こちらの位置の把握、殺す順番、反撃を貰わない為の自らの位置取り。
その全てを常に思考、実行しながら。
単純作業で俺達を“狩り取った”。
まさにハンター、賞金首の名に相応しい実力。
もはや、大笑いを浮かべながら拍手を送りたくなってしまった。
俺達みたいに、どこかのエリアを占拠してふんぞり返るのではなく。
あいつはどこにだって単身で踏み込んで、自らの道を切り開いていくタイプのプレイヤーなのだろう。
すげぇ、すげぇよマジで。
本気で映画のワンシーンでも見せつけられたかの様。
悪役として、エキストラとして撮影に参加した様な気分になってしまった。
主人公役の大物に会えた、彼の出演する映画にちょこっとでも映る事が出来た。
なんだかそんな気分で、おかしな興奮を覚えてしまって……再ログインまでの時間がとんでもなく待ち遠しい。
早く、早くあの世界に行きたい。
クランの事も色々忙しいが、それ以上に……今は、ハンドガンを使ってアイツみたいに戦ってみたい。
そんな興奮と共に、デスペナルティで発生した待ち時間をひたすらに耐えるのであった。
ついでに言うと……その後表示された、ウォンテッドに狩られた場合のデバフメニューが表示され、思い切り悲鳴を上げるところまでがセットになってしまったが。
◆
「白川く~ん、おっつかれ~」
「お疲れ様です、そっちも今日でしたよね? 終わりました?」
開発チームの、俺と同じく“サポーター”を務めている人物から声を掛けられた。
えらく緩い感じに軽い声を上げて来る……すげぇ、美人の上司。
そんな彼女から珈琲の差し入れを貰い、こちらも一息ついてみると。
「妹ちゃん、どうよ?」
「無事、勝ちましたよ。最後はちょっとこっちが手を貸して、些かズルい事してましたけど」
「というと?」
「逃げる際に、相手が建物に仕掛けたタレットを俺がハッキングした感じですね。まぁ元々最初の段階で、妹が手を打っておいたお陰なんですけど」
「なら何も問題ないじゃん、妹さんすっごいねぇ。本当に勝っちゃったんだ」
そんな事を言いつつ、こっちのPCを勝手に操作してくる上司。
カチカチとクリック音が響いた後、モニターに表示されたのは……。
「おっとぉ……用意された賞金首、今の所勝利したのは10名中3名のみ……最後の一名だけ、まだ戦闘中……だね」
今回のイベントの、戦闘記録。
まぁ結果だけ書かれている様な、簡単な共有データだったが。
「これは妹さんを徹底的に褒め殺してあげないとねぇ? なんたって“プロのゲーマー”を投入してもこの結果、やっぱり数の暴力は強いよ」
「です、ね……夢月のヤツ、本当に良く生き残ったな……」
思わず、本気で感心してしまった。
今回選ばれた10名の賞金首。
彼等は結構な額を使って、このゲームを盛り上げる為に呼びこまれたプレイヤー達。
他のゲームにおいてガチの有名どころも居れば、人によっては元軍人なんていう海外勢まで参加しているのだ。
そんな人達を集めている中、生き残ったのはたったの3人。
その内の一人が……ウチの妹だというのだから、本当に大したものだ。
「あと、これね?」
「はい?」
バイトを頑張った妹に、どんな御褒美を買って帰ってやろうかと考え始めた頃。
美人上司は再び勝手にPCを弄り、よく見かける有名な動画サイトを表示させた。
ちょっとちょっと、仕事中にこんなの見てるってバレたら俺が怒られるんですけど。
などと、文句の一つでも言いたくなったのだが。
次に表示された動画に、思い切りポカンと口を開いてしまった。
「対戦中の相手が“生配信”をやってたらしくてね? びっくりするぐらい良く映っちゃったのよ。白川君の、妹さん。とは言っても、アバターはおじ様だけどね?」
「なっ、なぁっ!?」
「あはは~、これから目立つよぉ? ウォンテッド“6key”。ガンサバイブオンラインに登場した、マジもんの殺し屋かー!? って、物凄くネットで盛り上がってるから。格好良いねぇ~、ハンドガンで大人数を制圧するとか映画みたい」
表示された動画には、先程夢月が戦っていた最後の映像がバッチリと映し出されていた。
配信主であるプレイヤーは秒で狩られたけど、手に持っていたスマホが良い感じに転がったらしく。
狭い部屋の中で、ハンドガン無双を繰り広げた夢月が映された後。
『これで、私の勝ちだ』
渋い台詞と共に、クランリーダーを撃ち殺すスーツのおじさんの姿が。
あっちゃぁ……。
配信自体は禁止されてなかったけど、まさかここまでしっかり映っちゃうとは。
対戦相手にはプレイヤーネームが表示されるから、そっちは徐々に知れ渡るだろうとは思っていたが。
まさかの初戦で、外見までバッチリ晒されてしまったか。
コメント欄も、“6key”というプレイヤーの話題で大そう盛り上がっているみたいだ。
もしかしたら名前その物に意味があるんじゃないか、とか。
この賞金首を倒したら、何かしら特別な鍵がドロップするんじゃないか、とか。
それはもう色々と考察されている訳ですが……残念な事に、読み方間違ってるぞ。
アイツの名前はシックスキーではなく、ムッツキーなのだ。
あの外見で、物凄くふざけた名前をしているのだ。
「これは、また……」
「妹さんに許可取って、ゲームの宣伝キャラクターやってもらったら? 動画を見る限り反応良いし、自分もこの人みたいにプレイしたいって言い出してるユーザー多いみたいだよ? これが本来運営の求めたプレイスタイルだ~みたいに、勝手に解釈されてるし」
「妹……目立つの嫌がるんですよ……」
とはいえ、これはお仕事としてまた色々相談しないと不味いかな?
超近接戦な上、アイツは顔を隠す様な装備もしていないしな。
ある意味今回の宣伝としては、というかこのイベントとしては。
一番の成功を収めていると言えるのかもしれない。
会社的には、だけども。
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