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「ひな!」
振り向くと蒼汰がいた。
「そ、うた、?」
心の中では信じてた。
何処かで生きていて欲しいと。
彼は私の肩を抱き私の名前を大声で何度も、何度も呼んでくれる。
そして耳元で「愛してる」と囁いてくれた。
「そうたぁ…!」
私の瞳からも涙が溢れている事に気が付いた。
今までの悲しさが一気に押し寄せた感覚。
こんなに泣いたのはいつぶりだろうか。
彼は私の肩に手を置き目を見ようとこちらを向いた。
けれどそこに居たのは蒼汰ではなく奏汰だった。
「俺は、蒼汰じゃないよ。」
そう言って切なそうな顔で微笑む彼。
「やっぱり俺じゃ、兄ちゃんの代わりにはなれない、?」
私の心の中へ問うように真剣な眼差しをこちらへ向ける。
けれど今日は彼に伝えなければならないことがあるから。
本気で彼に向き合おうと思う。
「話を、聞いて。」
「私達別れよう。」
嘘偽りない本気の言葉。
じっと彼の目を見る。
「、そうだと思ってた。それで陽菜が前へ進めるのなら別れよう。」
そう言っている奏汰の瞳からは涙が溢れていた。
私が蒼汰のことを考えていた時奏汰は私の事でいっぱいだったのだろうか。
罪悪感が私の心を覆うように黒くなる。
「あのね、私にはやっぱり蒼汰しか居ないの。」
「ごめんなさい。」
するとどこからか、蒼汰の声が聞こえる。
「陽菜、陽菜、」
「陽菜の事、愛してるよ。」
ふとまた足元が浮遊感で浮いてるみたいに感覚が無くなる。
何処からか奏汰が私を呼んでいる気がする。
けれど不思議な感覚が終わることは無い。
「蒼汰、愛してるよ、!」
言えなかった愛してるを必ず伝えるために私は叫ぶ。
返事が来ることは無い。
そして心の片隅にあった生きたいだなんて情が無くなった。
生きる価値のある人生なのか。
私はこの世界が嫌いだ。
私の大切な人を奪って行ったこの世界が。
目を閉じ、開けると目の前には蒼汰が居た。
こっちへおいでとでも言わんばかりに両手を大きく広げている。
一直線に彼の方へと走った。
けれど彼はどんどん遠ざかって行く。
どれだけ走っても追いつけないような、そんな感覚。
すると後ろから誰かに抱き着かれるように温もりを感じる。
振り返ると奏汰が焦ったような困惑したような、なんとも言えない顔をしていた。
「危ないから、!」
そう言って私を抱きしめる力を強くする。
私は海に溺れそうになっていた。
手足をじたばたさせて必死に空気を求めている。
「ねぇ、奏汰、私の事、好き、?」
「何言ってんの!?溺れそうなんだよ!」
そう言って必死に助かろうと泳ごうとしている。
足はつかない。
「いいから、答えて。」
「もちろん、この世で一番愛してる。」
ふと何かの糸が切れたように清々しい気持ちになる。
「なら、私と死のう、。」
彼の目を真剣に見る。
彼は何も言わずにただ微笑んで私に優しいキスをした。
「もちろん。」
そうして抵抗するのをやめて奏汰に抱き着いた。
彼も私の腰に手を回している。
ゆっくりと2人ともに沈んでいく。
黄昏時の空が赤く光り、海の中へも光が届いている。
私の顔がこれまでで一番嬉しそうな顔をしている気がする。
きっと奏汰も同じ気持ちなはず。
彼は私にキスをした。
優しい優しいキス。
息が、苦しくなるのを感じる。
吐いた息が泡となり海へ溶け込んでいく。
人間の本意で空気を求めて水を吸ってしまう。
余計に苦しくなって私の頭は真っ白になり、意識は途絶えた。
それでもずっと、蒼汰への愛してるという気持ちは変わらなかった。