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静寂の船上、萌香は一人で膝を抱えたまま、先ほどの「事故」の余韻に震えていた。夜風が彼女の顔をそっと撫で、恥ずかしさと悔しさを一層強くする。
「こんなこと…バレたくない…」
心の中でそう呟きながら、萌香は深くため息をつく。
しかし、その静けさを破るように、ゆうなが背後からやってきた。
「萌香、こんな夜遅くに何してるの?」
ゆうなの明るい声に、萌香は一瞬ビクッと体を震わせる。
「あっ、ゆ、ゆうな!?いや、その…ちょっと星を眺めてたの。」
萌香は慌てて笑顔を作り、なんとか誤魔化そうとする。
しかし、ゆうなは彼女の隣に腰を下ろし、無防備に手を伸ばして床を触れた。
「え、なにこれ、濡れてる…? 萌香、ここどうしたの?まさか…船、壊れてる?」
その言葉に萌香の顔は一気に真っ赤になり、体が硬直する。どうしても誤魔化したい、でもどう説明すればいいか分からない。
「えっと、それは…!」
萌香は言葉を絞り出そうとするが、声が震えて出てこない。
ゆうなは疑問の目を向けたまま手を嗅ぎ、「えっ…これって…」と呟く。
その時、いさなが突然現れた。
「何してんの、お前ら?」
彼は無邪気な表情で二人を見下ろしながら問いかける。
「い、いさな!?いや、何でもないの!」
萌香は咄嗟に叫び、ゆうなの手を払いのけようとするが、時すでに遅し。
ゆうなが何かに気づいたように目を丸くし、「もしかして…萌香…これって…」と驚愕の声を漏らした。
いさなはその様子を見て首をかしげるが、何も気にしない様子で近づいてくる。
「おい、何だかよく分かんないけど、喧嘩ならやめろよ。俺も寝る準備するからさ。」
「そ、そうだね!もう寝よう!」
ゆうなは強引に話を終わらせ、立ち上がると船室の方へ逃げるように走っていった。
萌香はほっと胸をなでおろしながら、いさなに振り返る。
「いさな…あの、何でもないからね!」
彼女は震える声でそう言ったが、いさなは全く気にしていない様子で肩をすくめた。
「早く寝ろよ。明日も忙しいんだから。」
萌香はその何気ない一言に救われた気がした。いさなが何も気づかずにいてくれたことで、ほんの少し軽くなったのだった。