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◻︎神崎の冗談?
_____ここからは、美希の娘、綾菜視点になります。
なんだかおかしい。
何が?と聞かれると具体的には言えないんだけど。
「河西チーフ、主賓の方が渋滞で少し遅れるとの連絡が入りました。どうしますか?」
「そうね、主催者の判断になるけど。私たちは、お客様に失礼がないように速やかに対応できるようにしておいてね」
レセプタントとしての仕事も慣れてきた。
いろんな人との出会いもあり、主婦のままだったら決して知り合うこともなかった人たちとも、名刺を交換して一緒に仕事をするようになった。
それは私にとってはとても刺激的で、知識やマナー、ビジネス界の常識もどんどん吸収したいと思っている。
今日は、株式公開したばかりの会社の記念式典のパーティー。
「河西チーフ、お電話です」
仕事用のスマホを、チームの子が持ってきた。
「はい、お待たせしました、河西です」
「………」
「もしもし?河西ですが、どちら様でしょうか?ご用件は?」
「………」
まただ。
無言電話はこれで何回目だろう?
それも仕事中に、仕事先で仕事用のスマホに私宛にかかってくる。
あきらかに、何かの嫌がらせだと思う。
けれど、どんなに考えても誰かに嫌がらせをされるようなおぼえはない。
「ご用件がないようでしたら、失礼しますね」
「……返して」
「え?」
通話を終わろうとした時、小さく聞こえた女の声。
「もしもし?なにをですか?」
「………プツッ!」
通話は切れた。
_____返して?何を?
女の声だとわかったけど、聞き覚えはない。
「チーフ、主賓の神崎様が到着されましたので、そろそろ始まります」
「ありがとう、位置に着きます」
主賓として呼ばれているのは、神崎光彦、43才。
大手食品メーカーの二代目。
社長の息子だから二代目、という簡単な世襲だけではなく、仕事も抜群にできて部下からの信頼も厚い人。
会話をすると、難しい話も噛み砕いてこちらのレベルに合わせて話してくれる。
見た目も、俳優かと思われるほどのスタイルとセンスの良さで、なにもかもを備えている男だ。
会場のドアが開いて、秘書を従えて中に入ってきた。
私は全体が見渡せる位置になるように、壁づたいにそっと移動する。
ゆっくり歩いてきた神崎の周りに、人だかりができていた。
「いやぁ、神崎君、新しい商品の売り上げも上々のようだね、さすが先見の明がある。神崎フーズも安泰だね」
「いえ、いつも林田さんに助けていただいてるおかげです。これからもよろしくお願いします」
林田は、銀行の融資課の課長。
少し神経質そうな目線で、神崎を見ている。
他にも、神崎とお近づきになりたいという欲丸出しの人たちが神崎を取り囲んでいた。
私は、ドリンクの不足がないか、場を乱す人がいないか、和やかに進行しているかに気を配りつつ、見るともなしに神崎を見ていた。
_____あ、しまった
目があってしまった。
「ちょっと、申し訳ない、通してくれないか?」
人だかりをかきわけて、こちらへやってくるのが見えた。
「河西チーフ、今日もありがとう」
「いえ、仕事ですから」
軽く会釈をして目を逸らした。
「あとで連絡するよ」
通り過ぎざまに、神崎が囁いた。
「困ります」
私の返事は聞こえていないようだった。
パーティーは滞りなく終わり、ゲストがみんな帰った。
あとの片付けは、ホテルの従業員がやってくれる。
___さぁ、私も帰らないと
パーティーの進行表などをまとめたファイルとトートバッグを持ち、会場だったホテルの裏口から出る。
ぴろろろろろろろろ🎶
バッグの中でスマホが鳴った。
着信番号は、見覚えのない番号だった。
ドキリとする。
___また無言電話とか?
出ようかどうしようか、しばらく迷った。
「はい、河西です」
『よかった、出てくれて』
「あの、どちら様でしょうか?」
『さきほどはどうも。神崎です』
神崎さん?何故?
「あの、どういったご用件でしょうか?仕事のこと以外は対応いたしかねますが…」
『そんなに堅苦しくならなくていいよ、綾菜さん。もう、帰り道?』
「え、あ、はい、あと少しで帰り着きます」
本当はまだホテルの駐車場だ。
けれど、近くにいるとわかったら何を言われるかわからない。
『そうか、残念だな』
「えっと、あのご用件は?」
『用件?少し話がしたかったんだけどね』
「なんのお話でしょうか?」
_____早く話してくれないかな?急いでいるのに
『会って言うつもりだったんだけど、仕方ない。河西綾菜さん、俺とお付き合いしてください』
「・・・」
『聞こえましたか?』
「はぁ?!何を言ってるんですか?酔っていらっしゃるんですか?それとも新手の冗談ですか?そんな話は、クラブかスナックでそんな女性を相手に話してください。他に用件がなければ切りますよ」
『ちょっと待って、冗談じゃなく…』
プツッと通話を切った。
___なんなの?なんの悪ふざけ?
からかうにも程がある。
___私ってそんなに物欲しそうな顔してたのかな?
ルームミラーで自分の顔を見た。
少々メイクが崩れているけど、そんな顔はしてない、と思う。
ぴこん🎶
《仕事、終わった?翔太が眠そうだから、うちで寝かせとくね》
お母さんからだった。
〈ごめんね、今おわったとこ。帰るね〉
返信して、急いで車を出した。
近くの車から、誰かがこちらを見ていたことには気づかなかった。
運転しながら、さっきの神崎のセリフを思い出す。
付き合う?
神崎と会うのはこれが3回目。
違う場所で違うパーティーでも2回会っている。
そこで特別何かがあったというわけでもない。
___ただの冗談。なんのための?
それはわからなかった。