テラーノベル
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——場所は、任せるよ。
目黒の言葉の意味は理解していた。
理解してそう返事した。
メンバーとなんてありえないけど、目黒の瞳に誘惑されてしまった。
〜〜〜〜〜〜
オフの日。
指定された時間に、目黒から送られてきた住所のマンションへ向かった。
中はシンプルな内装で、生活感はほとんどない。撮影用か、最近借りたばかりの部屋か。どちらにしても、プライベートな匂いはしなかった。
「……いらっしゃい」
目黒は、白いシャツと黒のスウェット。普段と何も変わらないラフな格好。
「ここ、誰にも邪魔されない場所。……ちょうどいいでしょ」
目黒の声が、いつもよりほんの少しだけ低く聞こえた。
小さくうなずいて、靴を脱ぎ、部屋の中へ足を踏み入れた。
床に敷かれた薄手のラグ。照明は落とされ、間接照明だけが空間をぼんやり照らしている。
「そこにいて。……そのまま、何もしないで」
命令口調。だけど、声のトーンはあくまで静かで優しかった。
俺の中のスイッチが入る。
(目黒に……命令されてる)
本当は、ずっとこうされるのを待ってたのかもしれない。
目黒が後ろに回り、ゆっくりと手を伸ばしてくる。
新品らしい麻ロープの感触が、服の上からでも伝わってくる。
「……ネットで結び方、ちょっとだけ調べてみた」
その言葉に思わず笑いそうになる。でも、口を開いたら負けな気がして、俺は黙ったまま指先を預けた。
ぎこちない結び。
手首にロープが触れた瞬間、肌が少しだけ熱を持つ。
ゆっくりと締まっていくその感覚に、呼吸が浅くなるのがわかった。
「……こういう感じ、でいいのかな」
目黒の手が止まる。
ロープは甘く、俺の腕を固定していた。
「……動けない?」
「うん。動けない」
その言葉に、目黒が小さく笑った気がした。
「じゃあ……ちょっとだけ、命令していい?」
俺は答えなかった。
返事の代わりに、わずかに首を垂れて目を閉じる。
それが、俺なりの“了承”だった。
——この関係は、脆いバランスの上にある。
壊れないように。期待しないように。
でも、どうしようもなく求めてしまう。
主従ごっこでも、命令でも、なんでもいい。
“岩本照”じゃいられない場所が、少しだけ心地よかった。
コメント
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続き楽しみにしてます!!!✨✨