「ん…。」
目を覚ます。目の前は真っ白。窓から差し込む光が眩しい。
これはどこだ?まさか、また同じ日を繰り返してる?
でも、力が入らない。体を持ち上げられない。夢のようにフワフワしておらず、まるで、重力を感じてるみたいに。
現実だとしたら、起き上がらないのが普通。事故にあって怪我をしているんだから。でも、首が上がらないから、怪我をしてるのか確認もできない。
「だっ、誰かいませんか…。」
勇気を出して声を発する。不幸中の幸いだ。声は出た。個室でなければ、誰かが気づいてくれるはず。
その時、引かれていたカーテンが視界の端から消えた。誰かが開けたんだ。
目線だけでそちらを見ると───。
「あま…ぐ、り……?」
彼がいた。緑色の彼。名前は…。
「こめ、しょー…。」
そうだ。こめしょー。米将軍。
「まじ、か…雨栗…、生きてた…、よかった…。」
こめしょーも怪我を負ってるようで、頭や腕に包帯が巻かれていた。松葉杖もあるから、足も怪我したんだろう。
「こめしょー、ナースコール…。」
とりあえず看護師さんを呼んで欲しく、ナースコールを頼む。
こめしょーは震える声と手でナースコールをした。1分もせず、看護師さんが目を見開いた状態で来た。
どうやら私は3ヶ月ほど眠っていたらしく、身体は大重症。足とあばら骨を骨折。腕と手首は捻挫。首には少しヒビが入っていたそう。脳震盪(のうしんとう)も起こしていて、頭蓋骨にも少し傷が。当然、身体中にアザと擦り傷や切り傷がある。
本当なら生きてられるレベルの事故じゃないが、対して頭も強く打っておらず、あばら骨もそこまでなので、心臓に影響も出ず。初めは脳震盪による呼吸困難があったが、それも何とかなり、死は免れたとの事。
でも、場合によっては、時間差の脳震盪や、大量出血、内臓破裂で死んでしまう可能性も挙げられた。だから、今生きているのはほぼ奇跡レベルだとのこと。
こめしょーも事故に巻き込まれ、左足首の捻挫、頭からの出血、腕や足の擦り傷により、緊急搬送。でも、事故に巻き込まれた後も意識はあったらしい。私が咄嗟に突き放したので、私ほどではなく、完治まで入院。
「その…もう1人は…、」
名前は確か…水月…水月…、えっと…。
「ルザクくんか?」
こめしょーが発した名前。そうだ。水月ルザク…ルザぴだ。
今この場にはいない。もしかして、…。
「ルザクくんは足首の捻挫だけで、あとは多少のアザと擦り傷だけ。ほぼ無傷と言っても過言じゃねぇよ。」
こめしょーはケロッとした顔で言う。
もしかして、の場合を考えていた私が馬鹿みたい。
そっか、ルザぴはほぼ無傷…。よかった。
2人の命に異常がないことの安心感で涙があふれる。こめしょーが「どこか痛いか!?」と焦る。看護師さんも心配で私の顔を軽く覗き込む。
「ううん、なんでもない。2人が無事で良かったって…。」
私のその言葉は遮られた。隣にいるこめしょーによって。
「何が良かっただよ…!!俺は…、雨栗が…もしかしたらこのまま…。」
死ぬかと思って、という言葉はほぼ消えかかった。そうだよね、私はよかったけど、2人は心配で仕方なかったはずだよね。
返す言葉は見つからず、天井を見つめる。
こめしょーがルザぴに聞いた話だと、私が2人の前に飛び込んだので、車は私と衝突。車はそのままこめしょーのところまで。こめしょーは反射的にルザぴを突き飛ばし、ルザぴはほぼ無傷だったらしい。
「ルザクくん、顔真っ青にしててさ。泣きながら救急車呼んでくれたよ。」
こめしょーは轢かれた後も意識がはっきりしてたので、事故の一部始終が脳内に焼き付いたとの事。
「雨栗なんて、ほぼ死んでた。もうダメだと思った。だって、頭から血流して倒れてるんだぜ?」
また事故の日を思い出し、辛くなったのか、こめしょーは泣き始めた。
「ねぇ…ルザぴは、いつ来る…?」
私の言葉に、誰かが返事をした。
「今から行くよ。」
その言葉は、紛れもなくルザぴの声だった。
どこにいるかは分からない。久々のルザぴの声で、あふれた涙が止まらない。
「泣かないでよ、雨栗さん…。」
私の視界に1人の男が映る。酷く泣き腫らした顔で、涙を流しながら私の前に現れた。
「雨栗さんが起きたって聞いて、走って来たよ…。なんて顔していいか、分からなくて…、」
ルザぴはそのまま膝から崩れ落ちた。
事故で負った傷はほぼなくなっているようで、包帯やガーゼはどこにも見当たらなかった。
「2人が生きてくれてて、良かった。」
その言葉で、2人はさらに大粒の涙を流して
「雨栗さんこそ…、」
「雨栗もな…。」
と言った。こんなに2人が大事だったなんて、自分でも驚きだった。
「もうっ、僕…、雨栗さん死んだとっ…思っでッ…。」
多分、私のために泣いてくれてたんだろうな。目が腫れているルザぴを見てそう思う。
「僕っ、やっぱり…ふたりがっ、いないと…、生きていけない!!」
涙を流しながら、私の体にうつ伏せになって泣いていた。それにつられて、こめしょーも私の体を枕にして泣いた。
「俺も、2人がいなきゃダメ…。」
珍しく弱音を吐くこめしょーは、まるで子犬のようだった。
私も、2人がいるから生きてるんだよ、という言葉は飲み込んだ。
夢の話は、私の心にしまっておこう。
今は、我慢せずいっぱい泣こう。2人と一緒に。
コメント
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はぁぁぁぁ!何故か目から出てくる水が止まりません(T ^ T)また、神作を見つけてしまいましたかぁ!雨栗さん無事で良かったぁ!ほんとによかった!