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第36話 〚噂と沈黙の境界線〛
運動会が終わって、数日。
教室の空気は、
はっきりと変わっていた。
「白雪、昨日の放送よかったよ」
「声、落ち着いてて聞きやすい」
今まで声をかけてこなかったクラスメイトが、
自然に話しかけてくる。
澪は少し戸惑いながらも、
小さく頷いた。
「……ありがとう」
そのやりとりを、
海翔は後ろの席から見ていた。
(ちゃんと、見てる人は見てる)
心の奥が、
静かに温かくなる。
一方で――
恒一の周りは、
静かすぎた。
話しかける声も、
笑いもない。
誰かが近くで会話を始めても、
すぐに話題が変わる。
意図的ではない。
でも、
確実な距離。
恒一は、
それを分かっていた。
(……俺だけ、外)
昼休み。
澪が席を立つと、
えま・しおり・みさとが
自然に並んだ。
「一緒に行こ」
「今日は図書室でいい?」
三人は、
何も言わずに澪を囲む。
それを見て、
教室の数人が小さく頷いた。
もう、
澪は一人じゃない。
その様子を、
りあは遠くから見ていた。
唇を噛みしめ、
視線を逸らす。
(……なんで)
(なんで、あの子ばっかり)
でも、
誰もりあの方を見ていない。
それが、
答えだった。
放課後。
澪が放送室から出ると、
廊下の向こうに
海翔の姿があった。
「帰る?」
「……うん」
二人で並んで歩く。
距離は、
まだ少しだけ空いている。
でも、
それが心地いい。
「なあ」
海翔が、
少し迷ってから言う。
「無理、してない?」
澪は、
少し考えてから首を振った。
「……前より、平気」
「守ってくれる人がいるから」
その言葉に、
海翔は立ち止まった。
「……俺は」
言いかけて、
やめる。
澪は、
それ以上聞かなかった。
けれど――
二人の間に、
確かに何かが芽生え始めていた。
その少し離れた場所。
恒一は、
二人の背中を見ていた。
妬み。
焦り。
そして、
歪んだ決意。
(……まだ、終わってない)
沈黙の中で、
何かが確実に動き始めていた。
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