テラーノベル
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サイクスの記憶喪失という予想外の事態に、治療室を重苦しい静寂が包み込んだ。
「……は? 冗談だろ、サイクス」
アクセルが引きつった笑みを浮かべ、身を乗り出す。
「俺だろ、アクセルだ。冗談なら笑えねぇぞ」
しかし、サイクスは薄い唇を噛み締め、
戸惑ったようにアクセルの手を拒絶することなく、
ただじっと見つめ返すだけだった。そこには、
長年連れ添った悪友に対する情も、鬱屈した感情も存在しない。
「脳への強い衝撃と、著しい生命力の低下……。記憶の結びつきが途切れてしまったか」
ヴィクセンが眼鏡の奥の目を細め、記録用紙にペンを走らせながら呟く。
「おいおい、冗談じゃないぜ。あの冷静沈着な『参謀殿』が、自分の名前すら忘れたってのか?」
シグバールが軽口を叩こうとするが、
その声には隠しきれない動揺が混じっていた。
静まり返る部屋の中で、ロクサスは胸を強く痛めていた。
自分を庇ったせいで、
サイクスはこんなことになってしまった。シオンもまた、ロクサスの隣で悲しそうに拳を握りしめている。
その時、後方から重厚な足音が響いた。
ゼムナスが静かに歩みでると、サイクスの前に立った。その圧倒的な存在感に、記憶を失ったサイクスは一瞬だけ体を強張らせる。
「……お前はサイクス。我が機関のナンバー7だ」
ゼムナスは低く落ち着いた声で告げた。
「サイクス……それが、私の名前……?」
「そうだ。そしてここにいる者たちは、お前の仲間だ」
ゼムナスの言葉に、
サイクスはゆっくりと全員の顔を見回した。
大剣を肩に担いで気まずそうに目を逸らすレクセウス、
不機嫌そうに髪を弄るラクシーヌ、
優雅にカードを弄びつつも視線を注ぐルクソード、
優しく微笑もうとするデミックス、
静かに状況を見守るマールーシャ……。
誰もが彼に対して、複雑ながらも確かな関心を寄せていた。
「仲間……ですか。私には……何も覚えていません。ですが……」
サイクスは自分の胸元——怪我の痕にそっと手を当て、ポツリと溢した。
「あなたがたを見ていると……胸の奥が、少し温かいような……痛いような気がします」
その言葉に、アクセルは言葉を詰まらせ、視界が滲むのを隠すように背を向けた。
心(ハート)を持たないはずのノーバディ。だが、
確かにそこに存在していた絆の残滓が、記憶を失ったサイクスの胸に残っていた。
「焦る必要はない、サイクス」
アクセルは振り返り、いつもの強気な笑みを張り作ってサイクスの頭を乱暴に撫でた。
「忘れたなら、また一から教えてやるよ。俺たちがな」
ロクサスとシオンも深く頷いた。サイクスは小さく頷き、どこか晴れやかな、今まで見せたことのない穏やかな笑みを浮かべたのだった。
第3話へ続く…
コメント
17件
ああ、読んだよ……第2話、一気に引き込まれた。 記憶を失ったサイクスが「胸の奥が温かい」って言うシーン、本当にぐっときた。心(ハート)を持たないはずのノーバディたちだけど、確かにそこにある絆の残滓を感じさせる描写がすごく好きだ。 アクセルが「忘れたならまた一から教えてやる」って乱暴に撫でるところ、彼らしい強がりと優しさが混ざってて泣ける。 続き、すごく気になるよ。しっかり読ませてもらう。