テラーノベル
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サイクスが見せた今まで見たこともない穏やかな笑みに、 室内の空気はわずかに和らいだ。
しかし、彼が失ったものの大きさを理解している者たちの胸中には、
複雑な思いが渦巻いていた。
「まったく……手のかかることだ」
マールーシャがやれやれと首を振る。
「だが、あの血も涙もないような顔よりは、幾分マシに見えるかもしれないな」
「ちょっと、マールーシャ! 冗談でもそんなこと言うもんじゃないわよ」
ラクシーヌが刺々しい声で咎めるが、その瞳にもどこか毒気の抜けたような色が混ざっていた。
サイクスは不思議そうに二人を見つめ、それから自分の掌をじっと見つめた。
「私……前はどんな人間だったのでしょうか。みなさんに、迷惑ばかりかけていたのですか?」
その素直すぎる問いに、デミックスが慌てて手を振る。
「め、迷惑なんてそんな! むしろサイクスさんはすっごく真面目で、仕事も完璧で……まあ、ちょっと怖かったけどさ!」
「デミックス、余計な一言が多い」
ゼクシオンが冷ややかに窘め、サイクスに向き直った。
「あなたは私たちの参謀として、この『存在しなかった城』の業務を完璧に仕切っていました。冷徹で、妥協を許さない方でしたよ」
「冷徹……」
サイクスは自分の過去の姿像がうまく結びつかないように、眉をひそめた。
その時、ずっと沈黙を守っていたザルディンが重々しい口調でつぶやいた。
「……心がなかろうと、積み重ねた時間は消えんということか。記憶が失われても、お前の体の奥底には『責任』という重圧の残滓が残っているように見える」
「ザルディン……」
ルクソードがカードをポケットに収め、薄く笑った。
「まあ、配られたカードが変わったのなら、新しいゲームを始めるまでですよ。かつてのナンバー7がどうあれ、今の彼がここにいるのは紛れもない事実だ」
ロクサスは静かにサイクスのベッドの脇へ歩み寄ると、その手をしっかりと握りしめた。
「サイクス。俺を助けてくれて、ありがとう。あなたが俺を庇ってくれたこと、俺は絶対に忘れない」
シオンもロクサスの隣で深々と頭を下げた。
「私も……感謝しています。これからは、私たちがサイクスさんを支えますから」
サイクスは握られたロクサスの手の温もり(あるいは、温もりに似た感覚)を感じ取り、
少し驚いたように目を見開いた。そして、照れくさそうに視線を泳がせながら、小さな声で応えた。
「……感謝されるようなことをしたのかは、わかりません。ですが……君たちの手を握っていると、とても大切なものを守れたような……そんな気がします」
その言葉を聞いたアクセルは、胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
(……リアだった頃の記憶も、サイクスとしての記憶も、全部失っちまったってのかよ。……だけど)
アクセルはサイクスの肩をぽんっと叩き、力強く微笑んだ。
「よし! 決まりだ。今日からお前のリハビリ兼、思い出作りを始めるぞ。まずは……そうだな、仕事の書類を放り投げて、城のてっぺんでアイスでも食べることからだ!」
「……アイス、ですか?」
首をかしげるサイクス。
「ああ、とびきり美味いヤツだ」
ゼムナスは静かに背を向け、部屋を後にしようと闇の回廊を開いた。
「……好きにするがいい。サイクス、身体を癒せ。お前の席は、変わらずそこにある」
総長の後ろ姿を見送りながら、13機関のメンバーたちはそれぞれに微笑みを浮かべた。
記憶を失い、弱さを隠す必要のなくなったサイクスとともに、城には今までにない新たな風が吹き始めようとしていた。
第4話へ続く…
FZXK
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コメント
2件
1話も2話もどうぞ
ああ、読ませていただきました……! 第3話、すごくよかったです。 記憶を失ったサイクスが、かつての冷徹な自分と今の自分を重ねられずに戸惑う姿が、逆に胸に刺さりました。特にアクセルが「アイス食べよう」って、あえて軽い感じで誘うところ……ああいう日常の小さな提案が、傷ついた人には一番の薬になるんですよね。ロクサスが手を握るシーンも、言葉より温もりで伝える感じが沁みました。 ゼムナスが「席は変わらずそこにある」とだけ言って去るのも、らしくてぐっときました。13機関に新しい風が吹き始めた予感、とても好きです。次が楽しみ!