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私にとって彼はまさにそれだったよ。
あの頃の私にとってはね。
彼のために作った料理はいつも味気なかったし、彼の服を脱がせる時なんて、ただ機械的に作業をこなしているような気分になったものだ。
それでも私が彼を愛していたかというと……そうではないかもしれない。
ただ単に、彼から得られるものが大きいと思っていただけだ。
この世で最も価値あるものを得るには、それなりの代償が必要だと思ったんだろう。
しかし結局のところ、私は彼を救うことはできなかったのだ。
私が救いたかったものは、最初から存在していなかったのだから……。
さあ、これで準備完了だ。
これから私は、彼との約束を果たしに行こうと思う。
それこそが、この物語の終わりにふさわしい幕引きとなるはずだからね。
ああ、そうだとも! あの時、確かに私は見たんだ。
彼の瞳の奥底で輝く光を……。
私はその輝きに賭けてみることにしたんだよ。
きっとそれが、私の知りたがっていた答えに違いないと確信していたからね。
そうして私は、彼をここに連れてきたわけなのだけれど……。
はぁ〜、まったく困ったものだねぇ。
彼は相変わらず自分の殻に閉じこもりっぱなしだし、おまけに何を話しかけても上の空ときている。
うーん、これはなかなかに手強いぞぉ。
やはりここはひとつ、強引にでも彼の心の扉を開いてみるしかないようだな。
というわけで、いざ行かん! 彼の深層心理へと続く門戸よ、開けぇええ!!
―――パァアアンッ!!!
(←乾いた破裂音)
おめでとうございます!あなたは「異世界転生」「悪役令嬢」モノの「ざまぁ」作品の主人公に選ばれました!! 【プロローグ】
「うわあああっ!」
俺は絶叫しながら飛び起きた。心臓が激しく脈打ち、全身から汗が流れ落ちる。
悪夢だ……そうに違いない。俺の名前は佐波透、二十八歳独身。趣味はゲームに読書、アニメ鑑賞。特にライトノベルが好きで、最近はネット小説にもハマっている。
今日は休日だから朝までゲームができるぜ! よし、とりあえずフレンド登録しておこうかな。
あれ?なんかこの人……。
(※画面の向こうから語りかけるような感じで)
『こんにちは』
あっ、ごめんなさい。俺、ちょっとトイレ行ってきてもいいですか? すぐ戻って来ますんで。じゃあまた後ほどー。
(※再び画面に話しかけるような感じで)
うわぁぁぁぁぁ!! やっぱりそうだ!あの時すれ違った人だ! なんでここに!? あー、もうダメだ……
そう思った瞬間だった。
僕の腕から彼女の手が離れていく。
えっ? 僕が振り返ると彼女は少し照れたような表情を浮かべていた。
「ごめんなさい、つい勢いで」
「いや、こっちこそゴメン」
僕は慌てて謝った。
「本当にすみませんでした。じゃ失礼しますね」
彼女は軽く会釈をして立ち去って行った。
そんな彼女を呆気に取られながら見送った。
それからしばらくその場に突っ立っていたけど、ハッと我に返り時計を見ると次の電車が来るまであと5分しかないことに気が付いた。
「ヤバイ!」
僕は急いで改札へと走り出した。
駅のホームに着いた時にはギリギリ間に合った。
危ないところだった。
僕はホッと胸を撫で下ろしてベンチに座ろうとしたら後ろの方から声をかけられた。
「お兄ちゃん」
この呼び方をする人物は一人しかいない。
僕はゆっくり振り向くと見慣れた顔があった。
妹の美希だ。
「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
ニッコリ笑う妹を見て僕は大きな溜め息をついた。
「どうかしました?」
不思議そうな顔をして首を傾げる妹。